ケータイ用語の基礎知識

第843回:Qi 1.2とは

 「Qi 1.2」は、無線充電規格「Qi」において、2015年6月に標準化されたバージョンです。

 Qi(チー)は、本誌の過去掲載文(第515回:Qi とは)で解説しているとおり、ワイヤレス給電に関する規格です。ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC、Wireless Power Consortium)という業界団体が策定しています。WPCには、クアルコムや東芝、ロームなどが加盟しています。Qiの主な用途は、ワイヤレスでのモバイルデバイスへの充電です。スマートフォン、タブレットが主で、そのほかの製品としてデジタルカメラやポータルミュージックプレーヤーなどでの利用も想定されています。

電力送信を15Wまで拡張、ただし受電側も対応が必要

 以前のQi 1.0からQi 1.1、そしてQi 1.2になっていくつかの無線電力送受信の規格が追加されました。

 1.1規格がそれまでと違うのは、「異物検出機能」の感度向上が行われたことです。これによって、ベースステーションと充電したいモバイル端末以外の、金属が影響を受けるような異常事態を検知すると、自動で充電が停止するようになりました。

 電磁誘導を利用すると、電力送信に使われる磁束内にある伝導体には電力が生じます。たとえば携帯電話(スマートフォン)以外の金属片などが起電し、発熱してしまう恐れが否定できません。そうした事象への対策が採られたわけです。

 また、「Qi 1.2」で変わった最も大きなものは、これまでの5Wまでの電力を想定した「ベースライン電力プロファイル(Baseline Power Profile)」に加えて、15Wまで電力を拡張した「拡張電力プロファイル(Extended Power Profile)」が追加されたことでしょう。以前は「低電力(Low Power)」「中電力(Medium Power)」という用語でしたが、1.2.2で置き換えられました。

 Qi1.2の拡張電力プロファイルでは、最大で15Wまでの電力を送受信できるようになりました。ただしこの電力は拡張電力プロファイルに、ベースステーション、端末ともに対応していればワイヤレスでも充電時間は大幅に短縮できるというもので、ベースステーション、あるいは端末どちらかが1.1準拠のままですと、ベースラインの5W以下の電力しか流れません。

 また、Qiには、送信機と受信機がぴったりと重なりあうように配置される「密な結合」だけではなく、規格上「疎な結合」と呼ばれる状態のコンフィグレーションも定義されています。これは発振側のコイルの発する周波数を特定の周波数として、その周波数に共振するような(受信コイルを含む)回路を持っていた場合、そのモードでも電力受信が可能となるようになっているのです。

 Qiに対応したスマートフォン、たとえばiPhone8やSamsung Galaxy S8などは、この疎結合で、数十mm程度、送電側と受電側が離れていても電力を受けることができます。

 ただし、共振モードは電力伝達効率もよくありません。ワイヤレス送電において、送信受信それぞれの回路の位置の自由度と、給電効率はトレードオフの関係になっています。つまり、置き方が適当でもよい回路は給電効率が悪く、厳密にコイル位置を合わせられる仕組みの方が給電効率はよいのです。

 ですので、Qiにおいては、モバイル機器用充電器は、「密結合」つまり充電器の送電コイルと充電対象のスマートフォンの受電コイルが感覚を空けず、両コイルが近接した状態で充電するのが基本です。充電する場合には、指定された位置に正しく置くのがQiのワイヤレス充電の基本となります。

 なお、このような面倒を避けるために、給電側にはたとえば「ムービングコイル」(給電コイルと適切な位置に自動的に動かす仕組み)を搭載している装置などもあります。これであれば充電パッド上のどこに置いても効率のよい充電が可能となります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)