今日から始めるモバイル決済

日本でキャッシュレス化を進めるには何が必要なのか?(1/2 ページ)

» 2018年06月15日 19時52分 公開
[田中聡ITmedia]

 2018年4月に、経済産業省がキャッシュレス社会実現に向けた「キャッシュレスビジョン」を発表。日本でのキャッシュレス決済を推進するとともに、将来的にはキャッシュレス決済比率80%を目指していくことを掲げている。一方で、日本は諸外国と比べてキャッシュレス比率が低いのが現状で、大きく後れを取っている。

 そんなキャッシュレス決済の鍵を握るのが「モバイル」だ。ここ数年、スマートフォンを使った決済サービスが増えており、多くのFintech企業が参入している。日本でキャッシュレス化を進めるためには、何が必要なのか。6月14日に一般社団法人Fintech協会が開催した勉強会「キャッシュレス社会に向けて」で語られた内容から探っていきたい。

日本でキャッシュレスが進まない要因

 Fintech協会の丸山弘毅会長と経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 市場監視官の海老原要氏が、世界と日本におけるキャッシュレスの現状を説明した。

キャッシュレスキャッシュレス Fintech協会の丸山弘毅会長(写真=左)。経済産業省の海老原要氏(写真=右)

 まずは世界のキャッシュレス比率を見ていこう。2015年のデータだが、キャッシュレス比率が最も高いのは韓国の89.1%で、以降は中国(60%)、カナダ(55.4%)、英国(54.9%)が続く。日本は18.4%と際だって低い。日本は現金や預金の比率が諸外国より高い一方で、電子決済やモバイルバンキングの利用率が低いという統計も出ている。丸山氏は「数年後に80%くらいを目指さないといけない。政府目標よりもさらに早くキャッシュレス化を進めていきたい」と危機感を募らせる。

キャッシュレス 世界と日本のキャッシュレス決済の現状
キャッシュレス 金融資産のありか、金融サービスの利用状況、通信環境などの比較

 各国のキャッシュレス(カード)決済手段を見ると、韓国はクレジットカードが突出して多く、欧州はデビットカードが高いという統計も出ている。日本はクレジットカードが高いが他国には及ばす、デビットカードやプリペイドカードの割合も低い。丸山氏は「デビットやプリペイドといった、今までの仕組みに限らないものを上乗せさせていく必要がある」と話す。

キャッシュレス クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードの利用比率

 海老原氏は、世界でのキャッシュレス決済事の例を紹介。スウェーデンでは「Swish」という決済サービスが2012年に登場し、2017年10月末時点でスウェーデンの総人口約1000万人のうち約597万人(約6割)が利用しているという。「スウェーデンは国土が広く都市が点在しているため、現金輸送コストがかかる他、輸送中に犯罪に遭う危険性が高い」(海老原氏)ことが普及を後押ししたとみられる。

キャッシュレス スウェーデンと韓国のキャッシュレス事例。スウェーデンでは現金お断りのお店も見られる

 韓国では1997年の通貨危機以降にキャッシュレスを推進。年間クレジットカード利用額のうち20%を所得控除でき、店舗でのクレジットカード取り扱い義務を課すなどの施策により、クレジットカード所有率が増加した。中国ではQRコードで決済ができる「Alipay」や「WeChat Pay」が大きなシェアを占めるが、Alipayは1%未満という低額の決済手数料によって多くの加盟店を開拓できた。

キャッシュレス 中国の事例
キャッシュレス Alipayは決済手数料の安さが特徴

 キャッシュレス化が普及しにくい要因として、丸山氏は「実店舗側の課題が大きい」と指摘する。決済端末料やネットワーク接続料、加盟店手数料などのコストがかかり、これらが障壁になっている。この他、海老原氏は治安がよく偽札が少ないこと、ユーザーが現金に不満を持たずキャッシュレスに漠然とした不安を持つことも挙げた。

キャッシュレス 日本でキャッシュレス決済の普及を阻む要因

 丸山氏はもう1つの問題点として「支払い手段が多すぎること」も挙げる。ビックカメラを例に出し、クレジットカード、キャッシュカード、ギフトカード、電子マネーなど、多種多様な決済手段があり、支払い手段によってポイント付与率も異なるという複雑な状況を説明。他に、認証方法も接触IC、FeliCa、NFC、QRコード、生体認証などさまざまで、サービスによって決済端末も異なる。

キャッシュレス さまざまなキャッシュレス決済サービスが乱立している

 少しでも簡単にキャッシュレス決済をしてもらうためには、各サービスの「規格を統一していく必要がある」と丸山氏。勉強会には複数の決済サービス提供者が集まったが、こうした企業が連携して、業界標準を作ることが望ましいとした。

キャッシュレス さまざまなユーザーに合わせて、決済方法、認証方法、端末をシンプルにする必要がある

 丸山氏は、サービス提供者が「オープンAPI」を通じて金融機関の口座と連携可能にする仕組みにも注目する。APIを解放する金融機関は年々増えており、LINE PayやOrigami Payなど、銀行口座と連携した決済サービスもある。支払額を銀行口座から直接引き出せるようになれば、クレジットカードを持てない人もサービスを使えるため、キャッシュレス決済の裾野は広がっていく。

キャッシュレス オープンAPIを公開している金融機関数

QRコード決済の仕様統一に期待

 勉強会では決済サービス提供者によるトークセッションも実施。各社は「キャッシュレス化推進」に向けて、どんな戦略でサービスを提供しているのか。

 セッション1では、AnyPay ペイメント事業部 責任者の井上貴文氏、Kyash 鷹取真一社長、ピクシブ クリエイター事業部 部長 重松裕三氏が登壇した。

キャッシュレスキャッシュレス AnyPay 井上貴文氏(写真=左)。Kyash 鷹取真一氏(写真=右)

 AnyPayが提供している「paymo(ペイモ)」とKyashが提供している「Kyash」は、スマホアプリを使って個人間の送金ができるサービスだ。鷹取氏は「人々が持つお金がデジタル化しているので、送金に注力している。受け取ったお金は幅広いところで使えないと送金できないので、Visaと連携した」と説明する(Kyashでは、スマートフォン上で作成した、Visaブランドのクレジットカードを使って個人間送金ができる→関連記事)。

 paymoでは「paymo biz」というQRコード決済を実店舗向けに提供している。Kyashは決済サービス自体は提供していないが、Visa加盟店で使用できるリアルカードを6月から提供しており、ここをオフライン決済の受け皿としていく。ただ「カードを中心でやるというよりは、あらゆるお金の流通の出口が決済なので、幅広いインフラで使えるようにしたい。QRコード決済も足していけるので、自社でやるか、パートナーシップを組むか検討したい」とした。

キャッシュレス ピクシブ 重松裕三氏

 「pixiv PAY」を提供しているピクシブは、同人誌イベント向けに提供している決済サービスで、店員がかざしたQRコードを読み取ると決済ができる。アプリにはレジ機能も搭載している。重松氏はサービス提供の狙いについて「コミケでは一度に何十億円という金額が動くが、小銭を持ってくるので盗難被害に遭いやすく、会計にスピードが求められるので(おつりが出ないよう)500円ぴったりにしないといけないなど値付けが難しい。訪日外国人は日本の小銭を持つのが難しいこともある。それらの問題を解決するために開発した」と説明する。

 pixiv PAYでは、クレジットカードの他、コンビニ決済にも対応しているが、その理由はセキュリティリスクやカード登録の手間を軽減するため。重松氏は「イベント会場でカードを出して登録するのはハードルが高いが、ECで登録しているカードは共通で使えるので、使っている人は1クリックで登録できる」と既存のpixivユーザーのメリットも説明する。井上氏は「銀行といかに連携できるかも、若いユーザーを取り込むうえで重要」と続けた。

キャッシュレス 同人誌の即売会で活用されている「pixiv PAY」

 ここ最近、スマホアプリを使ったQRコード決済サービスが増えているが、各社が独自仕様で提供しており、アプリやインフラもばらばらだ(1つのアプリで複数の決済手段をカバーできる場合もあるが)。3人とも「QRコード決済の仕様統一には期待している」と声をそろえる。「一番恐れているのは、キャッシュレスに向けてプレーヤーが膨大な費用を投下して、規格も違うサービスが増えることで、大きな産業の機会損失になること。これは誰も望んでいない」(鷹取氏)

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