世に出ているスマートフォンやタブレットが搭載するプロセッサの多くは、英Armが開発したCPUコアを備えている。現在、Armはソフトバンクグループ(SBG)の傘下にあるが、SBGの孫正義社長がその株式の再上場に言及した。
SBGは2016年7月、当時株式を上場していたArmの全株式を買い取ることで完全子会社化することを発表。同9月までに買収を完了し、ArmはSBGの「完全子会社」となった。
孫社長は「ソフトバンク(グループ)創業以来、一番大きな、一番中核になる事業」「圧倒的にソフトバンクの中心中の中心になる」「『ソフトバンク(グループ)の本業はARMです』と多くの人が思うほどの存在になる」と語っていた。
昨今、孫社長は、IoT(モノのインターネット)やIT関連の有力企業に20〜40%出資し、緩やかなグループを構築する「群戦略」を掲げている。その戦略に従って、SBGは国内通信事業を担うソフトバンクの上場準備を進める一方、米SprintのT-Mobile USへの統合に合意している。
ArmがSBGの“完全”子会社であることは、ある意味で孫社長が掲げる群戦略と矛盾する。遅かれ早かれ、その扱いを巡って動きがあることはある程度予想できた。
その伏線という訳ではないが、Armは6月5日に、同社の中国法人「Arm Technology (China)」の株式のうち51%を複数の機関投資家や同社の顧客企業などに売却することを発表している。この売却が実行された場合、この中国法人はSBGの「子会社」から「関連会社」に移行する。
Arm株式の再上場の話は、6月20日に行われたSBGの定時株主総会における質疑応答で出た。そのやりとりは以下の通り。
株主 株価についてお話があった。孫さんにとっても朗報といえることだと思うが、あるファンドが3年ほど前からポートフォリオ(資産運用上の購入銘柄)の中で一番多くソフトバンク(グループ)の株式を買っているという。そのファンドは御社の(株式の)時価総額が5年以内に18兆〜20兆円になると予測している。
(その予測通りに株価が推移した場合に)株価換算すると、1株当たり2万円程度になる。ある意味で孫社長と同じような予想を立てている。この予想はArmとSoftBank Vision Fundの価値を除いているとのことなので、これらの価値をプラスすれば、相当な価値を持つと確信した。「1株当たり2万円程度」は底値になるんじゃないかと。
そこで、Armの利益について、10〜30年程度でどのくらい出てくるのか、ざっくりで良いので数字で教えてほしい。
孫社長 今日はArmのサイモンが来ているので、まず彼に話してもらう。
サイモン・シガース取締役(ArmのCEOを兼務) ソフトバンクグループによる(Armの)買収以降、長期的な展望に向けた投資や買収を行ってきた。また、社長のプレゼンにもあった通り、Armベースのチップの出荷数は2017年に210億個を超えた。
ただ、これらのことはまだ「旅の始まり」と考えている。シリコンチップ(プロセッサなど)はインテリジェンス(知能)を持つ機器により使われていくと思われるので、それを見越したロードマップを構築している。
IoT(モノのインターネット)に対する投資も進めている。IoTは「埋め込まれた知識(Embedded Intelligence)」から「人工知能」に拡大していくと考えている。そのコア技術に対する開発に注力をして、孫社長の掲げるビジョンの達成に貢献したい。
孫社長 ソフトバンク(グループ)による買収から、(Armベースのチップの)年間出荷個数は4割ぐらい増えている。しかし、これはまだIoTの「入口」段階であって、これから10倍、20倍どころではなく100倍、200倍という規模で(出荷個数が)伸びていくと考えている。Armにはものすごいチャンスがあると信じている。
Armはかつて上場していたが、5年前後ぐらいでもう一度上場させる。その頃には、中長期に向けて先行投資している技術を大きく開花させて、大きく価値を向上させてから上場する。
非常に楽しみにしている。期待していただきたい。
数字を示すことはなかったものの、Armの企業価値を高めた上で再上場することで、SBGの企業価値も高める方針を示唆した格好だ。仮に売却株式数が過半となれば、子会社として“支配”することを避ける群戦略にも見合う。
孫社長のもくろみ通り、Armは5年前後で再上場できるのだろうか。動向に注目したい。
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