2018年8月29日に発表された、アマゾンジャパンの「Amazon Pay」によるリアル店舗決済市場への参入は、多くの人々を驚かせた。もはやオンラインコマースの世界では同社抜きでは語れないというほど存在感を増したAmazonだが、今回はその圧倒的なユーザーベースを武器に、リアル店舗決済に乗り込んできたというわけだ。
一部には、名うての米大手企業の参入ということで、日本で広がり始めているQRコードを使ったスマートフォン決済(アプリ決済)の市場を大きく塗り替えるのではないかという人もいる。実際、ソフトバンクとヤフージャパンの合弁会社である「PayPay(ペイペイ)」が後発として正式に発表され、このAmazon Payが登場したことで、今後日本のQRコード決済シーンを彩る主要プレーヤーは出尽くしたというのが一般的な見方だ。
JCBとの提携で、QUICPayを使ったスマートフォン決済サービスを提供する「みずほ銀行」のような事業者もいる。だが他の銀行やKDDIなど、サービス参入表明をしながらもいまだ実投入に向けた具体的な動きは見えず、その前にすう勢が決まってしまうようにも思える。
今回はこうした背景を踏まえつつ、なぜいまAmazonはQRコードを使ったアプリ決済の市場に入ってきたのか、そしてどういった戦略を持っているのかについて、アマゾンジャパン Amazon Pay事業本部 本部長の井野川拓也氏に話をうかがった。
Amazonといえば、やはりオンラインコマースのAmazonを頭に浮かべる方が多いと思うが、実際にAmazon Payは「Amazonが提供する3つ目のコマースサービス」という位置付けになっている。
井野川氏は「Amazonというとオンラインの会社のイメージがあるかと思いますが、会社の理念として地球上で最も豊富な品ぞろえで、お客を大切にするという考えを持っています。(生活において)Amazonに触れる機会を増やしていくことが目標です」と述べる。かつて書籍のオンライン販売からスタートした「Amazon.com」は瞬く間に受け入れられ、その後、取扱商品の幅を大幅に増やしている。
これはAmazonによる直販サービスといえるが、後に取扱商品の幅を増やすため、さまざまな事業者が“店子(たなこ)”としてAmazonの“のれん”の下で商売を行う「マーケットプレイス」事業がスタートした。
こうした中、「直販」「マーケットプレイス」に続く第3のコマースサービスとしてスタートしたのが「Amazon Pay」だ。前2者はAmazonの販売プラットフォームを使うという性質上、どうしてもAmazonのプラットフォーム側の制約を受ける。
せっかくユーザーはAmazonアカウントを持ち、決済に必要なカード情報や荷物の発送先住所といった情報を預けているのだから、「これを使ってより安全でさまざまなサービスが利用できる仕組みを構築したらいいんじゃないか」というアイデアが下地になっている。位置付け的にはPayPalのような決済代行に近く、「Amazonアカウントを使ってよそのサービスでお買い物ができる」というわけだ。
井野川氏は3年前に日本でのAmazon Pay事業立ち上げを行った。当時ローンチパートナーとなっていたのが出前館と劇団四季で、両サイトにてAmazon.co.jpのアカウントを使っての決済が可能になった。
出前館はフードデリバリーの業態で、従来のAmazonのような「倉庫にある品物を梱包(こんぽう)して発送する」という仕組みとは異なる。出前館自体は提携しているレストランのお弁当を利用者宅まで配送する代行サービスであり、これまでAmazonが自身でカバーできなかったタイプのものといえる。
劇団四季はチケット販売というサービスではあるものの、「予約に際して席指定がある」というように、やはり従来のAmazonのサービスにおける購入フローとは異なっている。つまりAmazon Payとは「決済の仕組みをサードパーティーに開放することで、これまでAmazonがカバーできなかった領域に手を広げる」ものとなる。そして、Amazon Payと相性がいいのは「サービスを提供する企業」ということになる。
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