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ソフトバンクがキャッシュバック規制を逆提案、総務省「研究会」第3回

3キャリアの料金や端末販売施策を議論

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第3回を開催した。MNO3社と携帯電話の販売代理店を対象にしたヒアリングを実施する回で、今回は料金プランや端末販売施策がテーマ。MNOに対しては、次の第4回でも接続料についてヒアリングが実施される予定。

「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第3回

 「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(研究会)は、10月10日の第1回で研究会が取り扱うテーマや検討課題を示し、10月18日の第2回ではMVNOに対し接続料などについてヒアリングを実施している。

 MNOに対しては、課題とされているテーマが多岐にわたることから、今回を含め2回に分けてヒアリングが実施されることになった。今回は主にユーザー向けの料金についてで、第1回などで明らかにされている論点に対して説明が求められている。

 第3回に出席したキャリアはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社。またヒアリング対象として、全国携帯電話販売代理店協会の担当者も出席している。キャリアの説明時間はそれぞれ10分、販売代理店は5分。各社まとめての質疑の時間は30分。その後に構成員の発言を中心にした討議も行われた。各社が提出している資料は公開される。

NTTドコモ

 NTTドコモ 取締役 常務執行役員 経営企画部長の丸山誠治氏からは、ユーザー還元、2年契約、今後の料金プランの見直しの3点について説明された。

 料金プランについては、LTE向けプランの提供が本格化していた2014年に音声かけ放題などで大きく舵を切ったこと、そこから現在のプランにつながっていることが説明され、2018年に入ると、さまざまな指摘に応じる形で、契約時に24カ月の料金の支払いイメージを提示したり、利用実態に応じたプランを提案する仕組みを導入していることが紹介された。

 また店頭で実施している料金相談フェアは累計150万人が利用、スマホ教室は2018年1月から全国のドコモショップで実施し、11月までの1年弱でのべ100万人以上が参加したとしている。

 定期契約(2年契約など)については、月々の料金を抑えたいという「ユーザーからの要望に応えて提供したもの」とし、今後も利便性の向上を図っていくとした。

 自動更新など料金プランに関連した施策については、契約満了近くになるとSMSで連絡することや、解約金がかからないプランに変更できること、先の総務省「検討会」の結果や指導を受けて、2019年3月末からは更新月を3カ月間に拡大することなどを紹介した。

 こうした一連の取り組みにより、丸山氏は「自由なサービス選択の機会は確保できていると考えている」との認識を示し、研究会の検討課題に対し、十分に対応できているとの見方を示している。

 また、10月31日に明らかにした中期経営戦略の中で、料金プランを2~4割、低廉化させる方針と発表したことにも触れて、「分離(プラン)を軸として検討し、シンプルで分かりやすく、納得していただけるようにしていきたい」と、改めて語っている。

KDDI

 KDDI 執行役員 渉外・広報本部長の古賀靖広氏からは、“4年縛り”などとして課題に挙げられることも多い、端末購入残債免除プログラム(アップグレードプログラムEX)を中心に解説された。

 古賀氏は分離プランとして提供したピタットプランなどで、利用実態とのギャップが少なくなり、結果として30%ぐらいの実質的な値下げにつながっているという実績を紹介。一方、分離プランの導入で端末の支払額が上がったことから導入したのが48回払いまで対応した割賦払いで、48カ月では機種変更が行いにくいという声に応えたのが24カ月目に行使できる残債免除プログラムであるとした。

 古賀氏はアップグレードプログラムEXの仕組みとして、国内と海外の9万円台のスマートフォンを例に、その内訳を紹介する。残債免除にあたっては端末購入補助が一部含まれるものの、従来より少額に抑制されていること、下取りした端末の転売額の大小はKDDIがリスクをとっていることを指摘。

 その上で古賀氏は「“4年縛り”というように、拘束性があるという批判があるが、そういったことはない」と説明。加入自体が任意であり、残債免除プログラムを利用しないことも可能で、特典の行使にあたって同プログラムへの再加入が条件だった部分は(指摘を受け)今後撤廃されることを紹介。auを解約する選択肢も残されているとし、拘束性はないという認識を示した。

 2年契約については、自動更新がないプランを提供していることや、更新月を3カ月間に拡大する予定であることを説明。スマートバリューなどの複数サービスのセットは解約月が各サービスで異なり、拘束性が強くなっているという課題に対しては、「固定系の多くのパートナーがおり、パートナーごとに契約期間は異なる」として理解を求める一方、他社の施策を念頭に「利用年数に応じて、10年以上や15年以上で割引やポイントを進呈するのは、拘束性が強いのではないか」と指摘した。

ソフトバンク

 ソフトバンク渉外本部 本部長の松井敏彦氏からは、料金、端末購入補助、契約期間、4年の割賦(残債免除プログラム)について説明された。

 松井氏は冒頭に、ワイモバイルを含んだマルチブランド戦略について説明し、ソフトバンクブランドで導入している分離プランを、2019年度にはワイモバイルでも導入する予定であることを明らかにしている。

 菅官房長官などからも指摘された料金の水準については、海外との比較は精緻な分析が必要とした上で、「中位程度」としたほか、キャリアの利益率も「国際的には特別高い水準ではない」とした。

 料金プランについては、シンプル化を図っているとし、分離プランの導入で料金が分かりやすくなったと説明。利用実態とのギャップを解消する取り組みでは、2019年3月から、利用実績に応じた料金プランを提案する取り組みを開始することも明らかにしている。一方で、ユーザーの“負担感の増加”の要因には、キャリア決済(回収代行)の利用の増加もあるのではないかと指摘している。

 端末購入補助については、「行き過ぎたキャッシュバック」などとして批判にさらされてきた経緯を踏まえ、「過剰な補助は適正化が必要」との認識を示す。一方で、分離プランの導入で直接的な端末購入補助の金額は抑制される傾向にあるものの、「完全な禁止は過剰規制ではないか」との考えも示す。松井氏は、韓国では3万円が上限になっているといった、取り組みの事例も紹介している。

 販売代理店が独自に実施するキャッシュバックについては、代理店の自由競争を阻害しない範囲で、抑止ルールは検討の余地があるとする。

 松井氏はここで2つの案として、事業者を規制する案と、端末価格を規制する案を示した。

 例えば韓国では、端末の過剰値引きは行われていないとし、その補助にも上限があり、店頭の様子をチェックする調査団の存在も牽制機能として働いているのではないかとの考えも示している。

 2年契約については、「前提として、商慣習として一般的」とした上で、更新月を3カ月間にすることや、課題があれば追加措置をとっていくとした。また自動更新なしのプランは(アリバイ作りとの指摘を受け)値下げする方針も明らかにし、2年契約満了時にフリープランに移行できるよう検討するとした。

 4年割賦(=48回払いと24カ月目の残債免除プログラム)については、プログラムに再加入するという特典行使時の条件を撤廃する方針であり、「拘束性は基本的に無い」という認識を示している。

 松井氏は構成員に対し「過去の検証などを踏まえて議論を」と訴えた上で、「MNOの社会的責務、ネットワーク品質についても考慮してほしい」「今後は(5Gなどで)投資が必要になる。意欲を削ぐことがないようお願いしたい」と配慮を求めた。

販売代理店

 一般社団法人の全国携帯電話販売代理店協会(全携協) 副会長の西川猛氏からは、2014年になって全携協が発足したこと、この時点ですでに販売代理店業界には(行き過ぎたキャッシュバックなどを含めて)課題が山積みだったこと、消費者団体など関連団体と連携して改善に取り組んできたこと、あんしんショップ認定制度をスタートしたことなどが語られ、苦情の削減やトラブルへの対応でも実績を積み上げてきたことが説明された。

 西川氏は、現在の店頭の大きな課題は、65歳以上のユーザーの多くがスマートフォンを使うようになったことで、基本的あるいは具体的な使い方の質問が増えていることとし、「登山でいえば三合目」と、道半ばであることを語っている。

質疑

購入補助“過剰”の定義、原資は

 構成員の佐藤治正氏(甲南大学 マネジメント創造学部 教授)からは、ソフトバンクに対し、「端末購入補助が“過剰”という場合、過剰の定義は何か。補助がある時点で、ほかのユーザー・サービスで負担していることになる。どこからどこにお金が移動しているのかが、不公平感につながっているのではかという問題意識がある」と指摘された。

 ソフトバンクの松井氏は、「どこのお金をどこに使うか、厳密に捉えている訳ではない。全体最適で低廉に提供したいという考えがある」とし、座長の新美育文氏(明治大学 法学部 教授)の「分離会計は導入しているのか」との問いには「情報は持ち合わせていない」と回答している。

フリーコースは「やがて辞めるユーザー」

 構成員の長田三紀氏(全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長)はドコモに対し、「ずっとドコモ割」のような長期ユーザー向け割引施策で、フリーコースが対象外(※排他的な選択)になっていることについて理由が問われた。

 NTTドコモ 経営企画部 料金制度室長の田畑智也氏は、フリーコースは、解約金なしのプランを創設せよという指導を受けて作ったものとした上で、フリーコースを選択するユーザーは「ドコモを辞めることを検討しているユーザー。実際に途中で辞められるケースが多い」と指摘。長期利用をコミットしているユーザーと同等の割引の提供は困難であるとの考えから、「(フリーコースを)高い料金プランにすることも考えたが、そうではなく、ずっとドコモ割の適用対象外にした」と説明している。

ソフトバンクの規制案、構成員は懐疑的な反応

 構成員の北俊一氏(野村総合研究所 パートナー)からは、「“分離プラン”という言葉に確固たる定義は無い。結局は端末の値引きの原資はキャリアから(代理店に)支払われており、全ユーザーから回収されていることになる。完全な分離プランではないのではないか」と問われた。

 KDDIの古賀氏は、「ピタットプランなどは分離プランの第一歩と考えている」と答えるにとどまった。

 ソフトバンクの松井氏も「道半ば」とした上で、「過剰な還元(キャッシュバックなど)があると、分離プランで頑張っていても形骸化してしまう。対策として、まだ煮詰まってはいないが、事業者あるいは端末販売価格への規制という2つの案を出した。その検討材料として韓国の例も挙げた」と改めて説明する。

 構成員の関口博正氏(神奈川大学 経営学部 教授)はこれに関連し、「(規制案を)検討する主体は誰なのか?」と問いただすと、松井氏は「業界として決めていただきたい」と回答。関口氏が「(代理店への)補助などの支払い実態も(規制する)総務省に提出するのか?」と再度問われると「そうです」と松井氏は答えて、「端末に紐付かない運営費などが過剰なキャッシュバックに流用されているのではないかという疑いがある。(規制案が)現実的かどうかはともかく、総務省に報告した上で、インセンティブの総額上限規制なども検討してはいいのではないか」と提案する。

 しかし関口氏は「総務省が規制するというのなら、ちゃんと(代理店への支払いの)実態を出していただかないと。逃げ道を用意した上で、表面的な指導を受けて、これでいいでしょ、となる。御社から範を垂れていただき、それなりの資料を出してもらわないと」と厳しく指摘。松井氏は「(算出は)しているので、今後出せる。無責任に提案しているわけではない」と応じている。

端末販売が通信サービスより重要? 解約金の算出根拠は

 構成員の長田氏から「端末を売ることの方が、通信契約も大切なのか?」と問われると、KDDIの古賀氏は「まったく、我々はそうは思っていない。端末と回線があって初めて成り立つが、回線を使ってもらうことのほうが重要」と回答している。

 構成員の佐藤氏は、2年契約などの解約金の9500円という金額の算定根拠が聞かれた。ドコモの丸山氏は、「いろんな考え方があるが、分かりやすさに配慮して2年のうちは一定にした。ただ、逸失利益(契約上、得るべきだった利益)を大きく下回る水準になっている」と説明している。

討議

 討議の時間には、ヒアリングと質疑を経た上での、構成員からの意見が表明された。

端末購入補助、撤廃の真剣なシミュレーションを

 大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、端末購入補助について、「行き過ぎた補助は、身の丈に合わない端末を買うなど消費者の購入行動を歪める要因になり、利益の薄いMVNOを圧迫するなど市場への影響が懸念される。長期利用者からの収益が原資で、利用者間の不当な差別にあたる」と指摘。「端末購入補助をやめた場合、何が起こるのか。どういう影響があるのか、政策シミュレーションをしっかり行った上で検討していく」と、端末購入補助の撤廃の影響を真剣にシミュレーションする必要性を語った。

端末市場の競争が働いていない

 大橋弘氏(東京大学 公共政策大学院・大学院経済学研究科 教授)は、「端末市場に、競争が働いていないのが問題」と指摘し、「懸念されるのは、行き過ぎた囲い込みが行われているかどうか。端末は、購入補助で値段の高止まりを招いているのではないか。(一般的に)売れなくなると、値段は下がる。(高止まりする現状は)競争が失われている。購入補助は、囲い込みの一環であったとしても、市場を殺す働きがあるのではいか」と、端末価格の高止まりを受容してしまっている構造に疑問を呈した。

 また大橋氏は、残債免除プログラムに関連して「選択肢があるから大丈夫と言っているが、選ばれない選択肢を設けたところで意味はない。ニーズにはバラエティがあり、そうであれば(意味がある選択肢なら)選ばれている」とした。

ビジネスモデルを考え直す時期

 佐藤氏は、前回(第2回)のゲスト構成員として出席したモルガン・スタンレーの津坂氏の意見を踏襲するような形で、「(現状は)市場が伸びている時代のビジネスモデル。市場環境が変わり、新しいものに変わっていく時期ではないか。囲い込みとして端末購入補助を続けることがいいのか、考え直す時期ではないか」とビジネスモデルの再考を促した。

“4年縛り”の一部条件撤廃、公取は「問題が解消されるものではない」

 北氏は、“4年縛り”に関連し、KDDIとソフトバンクの2社が「拘束性はない」「選択肢がある」と説明していることについて、オブザーバーとして参加している公正取引委員会 事務総局 経済取引局 調整課長の塚田益徳氏に意見を求めた。(※関連記事

 塚田氏は、KDDIの資料を例に、「残債免除の特典を利用しない選択肢もあるとしているが、端末が高額になると、実質的な選択にはなっていないと考えられる。残債免除には機種変更が必要で、通信契約は継続する。プログラムへの再加入条件を撤廃したからといって、キャリアを乗り換えやすくなるわけではない。問題が解消されるものではないと考えている」とコメント。独禁法に抵触の恐れと指摘した状況は変わっていないとの見解が示された。

議論後の姿は

 西村暢史氏(中央大学 法学部 教授)は、「この議論の後のどういう状態が目標なのか」とした上で、「選択肢が多いことは、5Gなどで新サービスが出てくることも考えると、余計に混乱を引き起こすのではないか。原則をたて、誤認の恐れ(の解消)、自主規制・ルール化という二本柱で考えていかなければいけない。そうすれば、実施体制をどうするのかといった議論に移っていけるだろう」という意見を明らかにしている。

求められる「分離プラン」の定義

 討議を終えた後、ソフトバンクの松井氏からは、「各社で分離プランの方向性は同じだが、分離の定義を明確化してもらいたい」と意見が出された。「(現在のプランは)完全な分離ではないかもしれないが、“準分離プラン”みたいなイメージを持っている。どこまで徹底して分離するのか、丁寧に議論させていただくと、今後に役立つのかなと」と松井氏は述べている。

 座長の新美氏は質疑や討議を振り返った上で、「残価設定ローンは自動車などにあるが、自動車メーカーは自動車しか売っていない。残価設定でも(端末ではない)通信サービスに結びつけるので、拘束性につながっている。ほかの領域でやっているからといって、認められることにはならない。慎重に議論する必要性がある」と指摘する。

 一方で、研究会の議論内容自体は「急いで議論する必要もありそう」と喫緊の課題であるという認識を示した。また、別途総務省が開催している「消費者保護ルールに関するワーキング・グループ」と連携、本研究会の構成員の賛同を得て、共同の検討会や討議の場を設けることも明らかにしている。