新iPhoneも対応した「eSIM」とは何か メリットと課題を解説MVNOの深イイ話(1/3 ページ)

» 2018年11月15日 06時00分 公開
[堂前清隆ITmedia]

 eSIM搭載のスマートフォンやノートPCが市販されるようになり、今改めてeSIMについて注目が集まっています。筆者の所属するIIJでは、フルMVNO基盤を活用したサービス開発の一環としてeSIMの検証環境を作り、さまざまなデバイスでの実験をしています。eSIMはスマートフォンだけでなく、センサーなどの業務用機器やウェアラブルタイプの小型機器までさまざまな応用が考えられますが、今回はスマートフォンでの利用について考えてみます。

「SIMが書き換えられる」ということ

 以前にもこの連載で取り上げたことがありますが、「eSIM」という単語には複数の意味があります。1つは、一般的なプラスチックカード型のSIMと異なる、スマートフォンなどの通信機器の中に埋め込まれ、交換できないSIM相当の部品のことです。もう1つは、SIMの中に保存されている情報を、ネットワーク経由などで書き換えられるというタイプのSIMのことです。今回は後者の「書き換え可能なSIM」について取り上げます。

eSIM eSIMの定義

 スマートフォンが利用している携帯電話網においてSIMの果たす役割は幾つかありますが、その中でも最も重要なものは、携帯電話網に接続する際の認証情報を提供することです。

 SIMカードの中には利用者を識別するための情報としてIMSIと呼ばれるIDが保存されています。このIMSIに対応する情報が、携帯電話網内のHSS/HLRと呼ばれる装置に保存されています。スマートフォンが携帯電話網に接続する際に、SIM内のIMSIが携帯電話網に送信され、それが交換機でHSS/HLRに保存された情報と照合され、有効なIDであることが確認されて初めて通信が許可されます。

eSIM IMSIとHSS/HLR

 従来型のSIMでは、SIM内に保存されているIMSIは1つだけで、SIMの利用開始後に変化することはありませんでした。「書き換え可能な」SIMではIMSIなどの情報がSIMの利用開始後に書き換えられ、変化することがあります

 IMSIの書き換えによってどのようなメリットがあるのでしょうか? 1つの例として、国をまたいだスマートフォンの利用が考えられます。ある国の携帯電話会社と契約して利用しているスマートフォンを異なる国に持ち出した場合、携帯電話会社同士の提携により、渡航先の携帯電話会社のネットワークを利用できる場合があります。このようなサービスを実現するために、ローミングという技術が使われることが一般的です。

 ローミングで携帯電話網に接続する際には、契約中の携帯電話会社が発行したIMSIが使われます。利用者側ではスマートフォンやSIMについて特別な準備をする必要がないので便利ではありますが、一般的にローミング接続料金は高額になります。

 IMSIの書き換えによって渡航先の携帯電話会社が発行したIMSIを使うことができれば、ローミングではなく現地の携帯電話会社の契約として通信を行うことになります。多くのケースでは、現地の契約として通信した方がローミングよりも割安に利用できると思われます。

eSIM ローミングと複数のIMSI

SIM書き換え技術

 SIM内のIMSIを書き換える技術は標準規格のもの、特定の会社が独自に開発した技術を含めて多数あります。これらはユーザー側からは似たような動作をしているように見えますが、それぞれ異なる仕組みで動いています。特に各社独自の技術については書き換えられるデータの種類やその方法がバラバラで、個別に確認しないと具体的な挙動を説明することができません。

 ここでは独自技術で実現する「マルチIMSI SIM」「クラウドSIM」の挙動の一例と、GSMAによる標準規格のeSIMについて紹介したいと思います

マルチIMSI SIM(一例)

 通常、1つのSIMの中には1つのIMSIが格納されていますが、マルチIMSIでは複数のIMSIが保存されています。海外に出るなどして異なる携帯電話会社のネットワークを使うときは、SIMの中に格納されたアプレット(プログラム)の働きによりネットワークに応じたIMSIが利用されます。

 マルチIMSIではネットワークによって異なるIMSIが使われるため、SIMの書き換えができているように見えますが、実際にはあらかじめSIMに保存されたIMSIを切り替えて使っているだけで、全く新しいIMSIを書き込めるわけではありません

eSIM マルチIMSI SIM

クラウドSIM(一例)

 クラウドSIMと呼ばれる技術では、実際に通信に利用するIMSIがスマートフォンやSIMではなくクラウド上に存在し、必要に応じてスマートフォンにダウンロードされるという点が特徴です。

 IMSIのダウンロードはインターネットを経由して行われるため、スマートフォンが全く通信できない状態ではダウンロードが行えません。そのため、クラウドSIMを搭載したスマートフォンでは、あらかじめダウンロード用のIMSIが内蔵されており、一時的にそのIMSIを使ってインターネットに接続し、必要な情報のダウンロードを行うことが多いようです。

 また、これらの動作はクラウドSIMに対応したスマートフォン上のアプリで制御されます。クラウドSIMは現在のところ特定の企業が開発したクローズドの規格なので、スマートフォンメーカーは、各企業が提供する技術を導入する必要があります。

eSIM クラウドSIM

GSMA標準eSIM

 GSMA(GSM Association)は、世界の携帯電話事業者やメーカーなどが参加する業界団体です。GSMAでは書き換え可能なSIMの標準規格を定めています。この規格は特定のメーカーだけのものではないオープンなもので、標準に基づいて開発された製品であれば、メーカーや携帯電話事業者をまたいで利用できます。本稿の冒頭で「eSIMには複数の意味がある」と書きましたが、より厳密な意味では、eSIMとはGSMAの標準規格にのっとった技術だけを指しています。

 eSIMの特徴は、eSIM内にSIMに相当する情報のセットである「eUICCプロファイル」を複数保存できることです。eUICCプロファイルはインターネットを経由してダウンロードでき、eSIM内に保存されます。eSIM内に複数のeUICCが保存されている場合は、スマートフォンの操作によってどちらを利用するかを切り替えることも可能です。この操作にはインターネットの接続は必要ありません。

 なお、eUICCのダウンロードや切り替えは、スマートフォン上に組み込まれたLPA(Local Profile Assistant)という機能によって行われます。LPAはスマートフォンのOSの機能やアプリとして用意されることが多いようです。

 また、eUICCのダウンロードはインターネットを経由して行われます。空の状態のeSIMに最初のeUICCをダウンロードするためには、何らかのインターネット接続環境が必要になりますが、インターネット接続をどのように用意するかはGSMAの規格では規定されていません。この点については後で詳しく取り上げます。

eSIM eSIM/eUICCプロファイル
eSIM SIM書き換え技術の比較
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