期待のネット新技術

11acから11axへの移行は2019年末から2020年初頭~Ruckus Networksインタビュー

【利便性を向上するWi-Fi規格】(番外編1)

 「利便性を向上するWi-Fi規格」では、Wi-Fiに関する最新動向について、メッシュネットワークや暗号化、WPSなどの利便性を向上する規格や、フリーWi-Fiスポット向けの接続規格を42回にわたって紹介してきた。

 Wi-Fiの規格にまつわる話は先週までで終わったのだが、ちょうどこのタイミングで、Ruckus Networks社長のイアン・ホワイティング氏が来日されるということで機会を頂いたので、今回と次回は番外編として、インタビューをお届けする。

 Ruckus NetworksといえばWi-Fi CERTIFIED Vantage Version 2に対応した企業向け製品を世界で唯一リリースしている企業であるが、今回のインタビューの中ではこのあたりには触れていない。

 ちなみにインタビューにはホワイティング氏のほか、ラッカスネットワークスで日本のカントリーマネージャーを務める高山尚久氏にも同席いただいた。

Ruckus Networks社長のイアン・ホワイティング氏(左)とRuckus Networks日本担当カントリーマネージャーの高山尚久氏(右)

Ruckusのビジネスの6割は企業向けワイヤレス製品

――まず、ここ数年のRuckus Networksを取り巻く状況について伺わせてください

 確かにこの2年ほど、Ruckusには山ほど変化がありました。2017年12月にArrisの傘下に入り、この1年余りはArrisの1部門だったのですが、おそらく2019年の半ばころにArrisはCommScopeに買収される予定なのです。すると、また状況は変わりますね(笑)。

 ただ、Ruckus Networksのブランドと組織構成、メンバーに変化はない予定です。Ruckus Networksのビジネスは非常に上手くいっています。我々のビジネスは2018年におよそ15%成長していて、新製品も継続して市場へ投入しています。

 私が思うに、ArrisとCommScopeはRuckusについて「ビジネス面はうまく行っている」と見ているはずです。我々は引き続き、Arris/CommScopeの中で独立したビジネスユニットとしてやって行けると考えています。実際CommScopeとの製品の重複はごくわずかなので、うまく補完し合えると考えていますし、新会社の立ち上げを楽しみにしています。ただ、それでも我々はRuckusのままでしょう。

Ruckus Networks社長のイアン・ホワイティング氏

――そのビジネスについて確認させてください。Ruckusは主にワイヤレス、それもWi-Fiがメインで、一部IoTなども手掛けておられます。一方Arrisは有線のネットワークが主体で、一部にワイヤレス製品もあります。ワイヤレスに関しては、両社が別々に開発して販売している、という認識でいいのでしょうか?

 その点については明確にしておきましょう。Ruckusのビジネスは、現在60%がワイヤレス、40%がスイッチつまり有線ネットワークです。我々はかつてBrocadeに買収されていますが、その際にBrocadeのキャンパスLANスイッチを我々の製品ラインナップに統合しています。

――Brocadeは、Ruckus同様にArrisの1部門になったのではありませんか?

 もうちょっと話は複雑なので、少し歴史を遡ってみましょう。Ruckusは2012年に株式を公開しましたが、ネットワークスイッチを手掛けているBrocadeに2016年に買収されました。ところが同じ2016年、BrocadeはBroadcomに買収されています。

 そのときBroadcomは、Brocadeの製品群は保持しつつ、Ruckusの製品群は手放す決断をした。この結果、RuckusはArrisに売却されたわけです。ただ、このとき、BrocadeのキャンパスLANスイッチだけは、RuckusといっしょにArrisへ売却され、結果として新生Ruckusはワイヤレスと有線ネットワークを取り扱うようになったのです。

 現在では、我々はワイヤレス、スイッチ、マネジメント、それとIoTの会社です。一方、Arrisはワイヤレス製品は出していません。ただ、Arrisは元々Ruckusのパートナー企業で、顧客には大規模なサービスプロバイダーやケーブルオペレーター、モバイルオペレーターなどが名を連ねており、STB、ゲートウェイ、ケーブルモデムなどを販売しています。

――ゲートウェイやケーブルモデムには、Wi-Fiアクセスポイントの機能が入っているものもありますよね?

 そういう意味では、ArrisとRuckusの製品は必ずしも競合はしません。Ruckusの製品は企業向けでコンシューマー向けの製品は提供していませんし、Arrisは伝統的に住宅向けをフルにカバーする方向で製品展開してきていますから。

高山: 実は昔、Arrisが提供していたWi-Fi機能を持ったケーブルモデムは、もともとはRuckusがデザインしたものです。

Ruckus Networks日本担当カントリーマネージャーの高山尚久氏

この1~2年で11axへの移行を推進

――Wi-Fi CERTIFIED Vantageに対応した製品は現在、Ruckusのみがをリリースしていますが、Wi-Fi CERTIFIED Vantageというプログラムそのものをどう思われますか?
 直接的な答えではないのですが、我々は現在IEEE 802.11acから11axへの移行を推進しています。既に2018年中、最初の11ax対応製品をリリースしていて、2019年には、市場で11axへの移行がスタートすると考えています。恐らく移行には1~2年ほどかかるかと思いますが、高密度、高パフォーマンスの11axは、例えばスポーツスタジアムや駅などには最適でしょう。

――それは、クライアント側も1~2年で11acから11axに移行することを予測しているという意味でしょうか?

 その通りです。11axへの移行を推進する大きな理由は動画でしょう。例えば米国ではeSportが急激に盛んになっています。eSportでは、1万人規模のユーザーが、動画でそのプレイの様子を視聴します。これに耐え得る帯域を提供することを考えれば、こうしたユースケースに11axは最適と言えるでしょう。

――11axに対応するクライアントデバイスは、何からスタートするのでしょう?

 スマートフォンやタブレットが先行するでしょう。我々は2019年、11axに対応したこれらの製品が増えてくると予想しています。

――例えば、Qualcommは2018年に11ax対応チップセットをリリースしましたが、11axに対応した製品は、実際にはまだ、ほとんど市場に出ていません

 ほとんどの製品が移行するまでには数年掛かるでしょう。Qualcommは我々のパートナーであり、緊密な関係を保って作業を進めています。実際には、11acと11axがオーバーラップするまでに、最低でも1~2年はかかるでしょうし、11axは当初、当然高価になるので、ある程度の量が出荷されるまで、価格は下がらないでしょう。ただ2019年の末、あるいは2020年の初めには、11acと11axのクロスオーバーが発生すると予測しています。

――では、現在市場に出回っている膨大な11ac対応製品は……

 一般に新世代の製品が出てから3~4年は、前世代の製品は生き残ります。我々も、11axがメインストリームになった後でも、しばらくは11ac対応製品を販売する予定です。我々の顧客は、複雑なネットワークシステムを構築しているので、新世代の製品が出たからといって急に入れ替えるわけにはいきません。まずは検証作業が必要ですから。

 我々の日本における顧客企業には、CATVのオペレーターもいらっしゃいますが、彼らは極めてコンサバティブで、急激な製品の転換は望みません。我々は、そうしたニーズを理解していますし、従来製品も引き続き提供します。こうした移行には、最低でも2~3年はかかるでしょう。

プライベートLTEを構築できる「CBRS」を最有望視、3.5GHz帯を利用

――11axに関しては分かりました。が、11adや11ayなどのミリ波帯はどう考えておられますか?

 ミリ波帯に関して言えば、現時点ではまだ調査中ということになります。ミリ波帯が、Ruckusにとって市場を広げられる可能性があるかどうか、という話です。

 ただ、現時点で我々が一番有望視しているのは「CBRS(Citizens Broadband Radio Service)」です。米国において、Ruckusは「CBRS Alliance」のFounding Memberの1社なのですが、現在はAllianceに100社以上が加盟しています。CBRSは3.5GHz帯の周波数を利用可能[*1]です。米国では現時点ですでに商用利用可能で、ビル内に3.5GHz帯を利用した基地局を構築できます。

CBRS Allianceのウェブサイト

 Ruckusは、既にCBRSに対応した3.5GHz帯を利用できるアクセスポイントを用意しています。これが意味するのは、ビル内にプライベートLTEネットワークを構築できるということです。我々のWi-Fiユーザーにとって重要なのは、これをモジュールのかたちで提供する点でしょう。

 顧客はそのモジュールをアクセスポイントに装着するだけで、Wi-FiとプライベートLTEをビル内で併用可能になるわけです。これによって、従来と異なるユースケースが生まれてくることになるでしょう。

 例えば、ものすごく大きなビルがあったとして、我々のソリューションであれば、Wi-Fi用のインフラストラクチャーをそのまま利用し、プライベートLTEネットワークが構築できるわけです。そうなると、Wi-FiとLTEで同じネットワークが利用できます。

 CBRSは従来(の5GやWi-Fi)とはまた異なる進化をしたネットワークと言えるでしょう。米国で言えば、AT&T、Verizon、T-Mobileといったキャリアのネットワークを使わずに済むことになります。ホテルや会議場など多数の人間が集まり、その際のカバレッジが問題になりやすい場所での利用には最適です。

――それは、スタジアムなど機器が密集した環境でも対応できる、という意味でしょうか?

 日本のスポーツスタジアムには行ったことはないので分かりませんが、米国でスポーツスタジアムに行くと、モバイル回線のネットワークは多くの場合で圏外になってしまいます。こうしたスタジアムのオーナーにとって、CBRSはいいソリューションになると考えています。

 観客は、例えばスタジアムに入るまではAT&Tのネットワークに繋がっているかもしれませんが、スタジアム内では独自のLTEネットワークに繋がることになります。おそらく、GoogleのPixelはCBRS互換だったかと思います[*2]。これは単に我々の推測ですが、2019年に出るであろうAppleのiPhoneも、CBRSに対応するのではないでしょうか。また、SamsungもCBRS対応製品をリリースするでしょう。もちろん、タブレット製品でも、2019年末から2020年にかけて対応が進むでしょう。

「Google Pixel 3」

[*2]……Google Pixel 3が2019年1月にLTE Band 48(3550MHz~3700MHz)のFCC認証を取得したことが明らかになっている。ただ、現時点では単にFCC認証を取得しただけで未サポートであり、要するにFCC認証の取得は検証が目的で、利用可能なのは開発機のみと思われる。

米国では免許不要の3.5GHz帯、5G時代に屋内カバレッジの確保手段に?

 興味深いのは日本の状況です。日本では3.5GHz帯の利用には免許が必要です。ただ逆に言えば、ライセンスが取得できれば、日本でもビル内にプライベートLTEを構築できることになるわけです。

――そうしたケースでは、顧客企業がライセンスを取得するためのサポート、あるいはライセンス取得の代行などを御社が行う計画はあるのでしょうか?

 米国では既に、Ruckusからアクセスポイントを購入すれば、オーナーが自身のビルにCBRSを利用したプライベートLTEを自動的に構築し、運営できることになっています。これは商用利用可能かつライセンス不要な周波数帯を利用できるからです[*3]

[*3]……米国では3.5GHz帯をPA(Priority Access)/PAL(Priority Access License)/GAA(General Authorized License)の3つに分割しており、このうちGAAについては本当にライセンスが不要で、かつ商用利用が可能。ちなみにPAは政府機関向け、PALは地域別に専用帯域を割り当てる一般企業向けで、この2つはライセンスが必要だ。

 我々は、ほかの国々でも、ライセンス不要での利用がいずれは可能になっていくと考えています。というのは、LTEのカバレッジが屋内で十分ではないという問題は、どこの国でも変わらないからです。そして、5Gではこの問題がおそらくより顕著になるでしょう。5Gでは周波数帯域がさらに上がるので、外部からの電波が屋内に届きにくくなります。5Gで屋内のカバレッジを確保するためには、別のインフラが必要になってくるわけです。

 Ruckusは、言わば“Wi-Fiカンパニー”であって、これまではWi-Fiに注力してきました。その一方で、プライベートLTEは非常に興味深いマーケット拡充の機会になると考えています。Wi-Fi、スイッチング、LTEの3つが今後の展開になるでしょう。

 今回は番外編として、世界でいち早くIEEE 802.11axやWi-Fi CERTIFIED Vantage Version 2に対応した製品をリリースしているRuckus Networksにお話を伺った。次回も引き続きRuckus Networksに11ax、マルチギガ、IoTなどについて話を伺う。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/