法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

Galaxyの意気込みが伝わってきたUNPACKED 2019

 2月20日、米・サンフランシスコのビル・グラハム公会堂において、発表イベント「UNPACKED 2019」を催し、Galaxy S10シリーズやGalaxy Foldなどを発表したサムスン。本誌ではすでに速報記事で内容をお伝えしたが、現地の様子などをレポートしよう。

え? この時期に? なぜ?

 サムスンはこれまで「UNPACKED」というネーミングで、数多くの製品の発表イベントを開催してきた。それぞれの製品や時期によって、発表イベントが開催されるタイミングが少し違っていたものの、ここ数年を振り返ると、8月から9月にGalaxy Noteシリーズ、2月から3月にGalaxy Sシリーズが発表されてきた。

 この2つの時期の内、8月下旬はドイツ・ベルリンで開催される家電展示会のIFA、2月にはスペイン・バルセロナでMWCというモバイル業界最大の展示会が開催されるため、それぞれに合わせて製品が発表されてきた。たとえば、昨年2月のMWC 2018では会期前日に開催されたUNPACKED 2018において、Galaxy S9/S9+が発表され、国内でもNTTドコモとauの夏モデルとして発売された。

 ところが、サムスンは今年1月、次期フラッグシップ発表が予想されるUNPACKEDを2月19日に米・サンフランシスコで開催することを明らかにした。開催地の米国の関係者は別にして、おそらく多くの国と地域のメディアや各携帯電話会社、パートナー企業は「なぜ? この時期に?」と驚いたはずだ。

 なぜなら、今年も2月25日からスペイン・バルセロナでMWC 2019が開催され、会期直前の2月23日と24日は各社が発表イベントを予定しており、日程的に取材が難しいためだ。

 かくいう筆者も含め、日本の多くのメディア関係者も、早ければ2月21~22日頃に日本を発ち、バルセロナへ向かう予定にしていたため、米国でのUNPACKEDを取材できないと考えていた。結果的に、サンフランシスコを弾丸ツアーで取材し、すぐにバルセロナに向かうことになったが、異例のタイミングでの発表イベントであったことは確かだ。

 サムスンがこうしたタイミングで発表イベントを米国で開催した背景には、いくつかの理由があるようだ。筆者が推察するところ、ひとつはGalaxy Sシリーズが初代モデルから数えて10周年を迎えること、もうひとつは同社にとって、現在もっとも重要な米国市場での強いアピールを狙ったことが考えられる。

 Galaxy Sシリーズについては、2009年に初代モデルが発表され、さまざまな進化を遂げてきたが、このシリーズが同社が世界最大のシェアを獲得する原動力になったことは説明するまでもないだろう。

 国内市場でも、当時のNTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏が、2009年夏モデルの発表会において「NTTドコモでも扱う準備を進めています」と販売を表明し、歴代モデルをNTTドコモの主力モデルのひとつに育て上げていった。その後、auとソフトバンクも取り扱い、現在はNTTドコモとauで、最新モデルが毎年展開されている。

 もうひとつの米国市場については、少し政治的な要素も絡んでいる。国内でも報道されているように、現在、米国のトランプ政権の意向などもあり、世界のモバイル市場でサムスンを猛追するファーウェイが米国でビジネスを展開しにくい状況にある。

 「鬼の居ぬ間に~」という表現はあまり適切ではないが、ファーウェイが米国で苦戦しているタイミングだからこそ、米国市場での足場をしっかりと固めるべく、あえて米国でGalaxy Sシリーズ10周年の発表イベントを開催したように見受けられる。

 もちろん、米・サンフランシスコは長年のライバルメーカーのひとつであるアップルのお膝元であり、そこでの強いアピールを狙ったことも関係しているだろう。ちなみに、今回のUNPACKED 2019が開催されたビル・グラハム公会堂は、今から2年半前、アップルがiPhone 7シリーズの発表イベントを開催した場所でもある。

いきなりオープニングから

 今回のUNPACKED 2019の発表内容の詳細については、本誌の速報記事を参照していただきたいが、今回は異例の流れでスタートした。

 こうした発表イベントは、各社なりの流儀というか、お作法みたいなものがある。たとえば、アップルは冒頭で市場環境や販売の実績などを語りながら、Apple WatchなどのアクセサリーやプラットフォームのiOSを先に説明しつつ、主力のiPhoneなどを最後に発表し、時には「One more Thing……」でサプライズというパターンが知られている。ファーウェイも市場環境を先に説明するが、まず主力製品を見せ、搭載される機能や技術をしっかり解説し、派生モデルやアクセサリーを紹介するという流れが多い。

 サムスンは他社と少し見せ方が違い、ユーザーのニーズや利用環境などに触れながら主役となる製品を解説し、後半でアクセサリーなどを取り上げる流れが多い。イベントの冒頭には同社のIT & Mobile Communications DivisionのPresident and CEOのD.J.Koh氏が登壇し、柔らかな語り口とにこやかな表情で新製品を紹介し、続いて、各担当部門のマネージャーなどが製品の詳細を説明する流れがおなじみだ。

Galaxy Foldはこれまでにない新しいコンセプトで開発された

 ところが、今回はいきなりオープニングで、かねてから開発が噂されていた折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」のムービーをスクリーンに映し出し、会場を沸かせる展開でスタートした。

オープニング直後、Galaxy Foldの説明を担当したサムスンのSenior Vice President of Product MarketingのJustin Denison氏

 ステージにはD.J.Koh氏ではなく、Senior Vice President of Product MarketingのJustin Denison氏が登壇し、Galaxy Foldの革新的なデザインやメカニズム、機能などについて説明した。注目度の高い製品を真っ先に説明することで、来場者の期待をがっちりと捉えると共に、これまでのGalaxy Sシリーズとはまったく違う新しいジャンルの製品であることを明確にアピールしたことが印象的だった。

Galaxy S10 5Gの導入を表明した米VerizonのCEO、Hans Vestberg氏が登壇
Galaxy S10シリーズのカメラには「Instagram」モードが搭載されたため、Instagram代表のAdam Mosseri氏が登壇

 続いて、D.J.Koh氏も登壇し、いつものように製品化の背景などに触れつつ、Galaxy S10シリーズ、Galaxy Watchなどのアクセサリー製品を各担当者が説明する流れとなった。Galaxy S10シリーズのカメラ機能の説明では、ゲストとして、Instagram代表のAdam Mosseri氏が登場し、D.J.Koh氏とツーショットでセルフィーを撮るなど、来場者を沸かせる場面が何度もあった。

 イベントの最後には、5Gネットワークに対応したGalaxy S10 5Gも発表された。米Sprintや英Vodafone、独ドイツテレコムから送られたビデオメッセージが上映され、その後、米Verizon CEOのHans Vestbergが登壇し、同社の5Gサービス向けに投入されることも明らかにされた。

同時に発表されたフルワイヤレスイヤホン「Galaxy Buds」

Galaxy Foldは成功するか?

「Galaxy Fold」

 今回のイベントで発表された製品について、印象などを少し述べておこう。今回の発表でもっとも注目されたのは、やはり、折りたたみデザインを実現したGalaxy Foldをおいて他にないだろう。

 ただ、発表会後のタッチ&トライの会場には実機の展示はなく、メディア関係者はステージでお披露目されたものを見ただけで、基本的にはイベントのライブ中継を見た人たちと同じレベルの情報しか持っていない。まもなく発売が開始されるという予定なのに、デモ機も展示もなかったのは残念だが、おそらく2月25日から開催されるMWC 2019で展示が行われ、実機の試用などもスタートするだろうと言われている。

 Galaxy Foldはディスプレイを内側に折り曲げるという、今までにない革新的な技術によって実現されたモデルだが、本誌読者のみなさんならよく覚えているように、折りたたみスマートフォンというしくみについては、2013年4月にNTTドコモがNECカシオ製「MEDIAS W N-05E」を発売、これを復活させる形で、2017年には再びNTTドコモからZTE製「M Z-01K」がリリースされた。

 実は、MEDIAS Wが発売される直前の2013年のMWCでは、NECブースで同製品が展示されていた。そのとき、もっとも熱心にMEDIAS Wを触りに来ていたのが青いネックストラップを付けたサムスンの関係者たちで、当時のNECの広報担当者が困惑していたのを記憶している。もしかすると、そのときにサムスン関係者が得た着想が今回のGalaxy Foldに活かされているのかもしれない。

端末を開くと、7.3インチのQXGA+対応の画面が現われる。かなりインパクトのあるサイズだ
スムーズな開閉を可能にするヒンジを開発。配線の通し方など、気になるところも多い

 また、今回はステージでお披露目されただけなので、詳細はまったくわからないが、MEDIAS WやM Z-01Kが2つのディスプレイを外側に折りたたむ形状だったのに対し、Galaxy Foldはディスプレイを内側に折りたたむ(折れ曲がる)形状を採用している。

 関係者によれば、ディスプレイにはポリアミドと呼ばれる高分子化合物が使われ、折り目が付くような折れ曲がり方をするそうだが、実際の構造がどうなっているのかが興味深い。ちなみに、サムスンによれば、20万回の開閉試験でも問題がないことが確認されており、毎日100回の開閉でも5年間の利用に耐えられる計算だという。

本体を開いた状態では、3つのアプリケーションをタイル表示のようにレイアウトして、表示できる
本体の外側には閉じた状態でも利用可能な4.6インチのディスプレイが搭載される

 Galaxy Foldでもうひとつ興味深いのが、端末を折りたたんだ状態でも操作できるように、外側に4.6インチのディスプレイが搭載されているという点だ。つまり、閉じた状態では4.6インチのディスプレイを搭載したスリムなスマートフォンとして利用し、大きな画面で表示したいときは端末を開いて、7.3インチの大画面で操作するわけだ。これは今までのスマートフォンにはない取り組みであり、コンパクトな形状と大画面という相反する要素をうまく両立させるしくみと言えそうだ。

会場全体からため息が漏れた1980ドルという価格設定

 そして、プレゼンテーションの最後に1980ドルという価格が発表されたとき、会場からは驚きとも落胆とも言えない不思議なため息が聞かれた。感覚的には「まあ、そうだよね。その内容だったら……」といったところだろうか。昨年来、20万円前後のスマートフォンもいくつか登場してきたが、Galaxy Foldに関しては高価格であるものの、それが納得できる内容と受け取られたということかもしれない。

 今のところ、実機を試していないので何とも言えないが、こうした個性的な端末は発表時に注目を集めることがあるものの、ビジネスとして成功できたかというと、必ずしもそうではない。振り返ってみれば、MEDIAS Wを世に送り出したNECカシオはスマートフォンから撤退を強いられ、M Z-01Kを開発したZTEは米国での制裁を受け、一時は事業縮小を伝えられることもあった。

Galaxy Foldをお披露目するサムスンのIT & Mobile Communications DivisionのPresident and CEOのD.J.Koh氏

 さすがにサムスンがこうした事態に陥ることはないだろうが、Galaxy Foldを成功させるには、単に個性的な端末として展開するだけでなく、本当に利用するユーザーをしっかりと拡げて行く必要があるだろう。そのためには少しでも早く実機のお披露目とユーザーが体験できる機会を作って欲しいところだ。もちろんその前に、国内市場で展開されることも期待される。

拡大するGalaxy Sシリーズ

「Galaxy S10」「Galaxy S10+」
「Galaxy S10e」

 今回の発表イベントではGalaxy Foldが目玉の存在だったが、もうひとつ注目されたのが、Galaxy S10シリーズが3機種発表されたことだ。サムスンはここ数年、Galaxy Sシリーズを画面サイズの違いなどから2機種で構成してきた。秋にはもうひとつのフラッグシップであるGalaxy Noteシリーズが控えており、普及モデルなども数多くラインアップしていることから2機種としていたようだ。

ディスプレイのサイズなどが異なる3モデルを発表。左から「Galaxy S10e」「Galaxy S10」「Galaxy S10+」の順に並ぶ

 ところが、今回のGalaxy S10シリーズでは「Galaxy S10」「Galaxy S10+」に加え、「Galaxy S10e」というモデルをラインアップに加えてきた。このGalaxy S10eは他社の3モデル構成の最下位モデルのような普及モデルではなく、Galaxy S10やGalaxy S10+と同じチップセットを採用するなど、ほぼ同じハイエンドモデルのバリエーションとして開発されている。

 Galaxy S10eの「e」は「essential」を意味しているとのことで、Galaxy S10とGalaxy S10+から必須と思われる機能やスペックを抜き出し、より多くのユーザーにGalaxy Sシリーズを楽しんでもらうためのモデルとして開発されたようだ。

Galaxy S10シリーズの説明を担当したサムスンのProduct MarketingのDirectorのSuzzane De Silva氏

 Galaxy S10シリーズについては、実機を試用する機会を得ているため、後日、改めてファーストインプレッションをお伝えする予定だが、これまでのGalaxy Sシリーズの流れを受け継ぎながら、ライバル機種に搭載された新機能などもキャッチアップしつつ、さらに一歩進んだ機能やスペックも実装することで、大きなアドバンテージを築こうとしている。

国内向けの販売価格がどれくらいになるのかはわからないが、ライバル機種に対抗できる価格設定

 冒頭でも触れたように、サムスンはグローバル市場においてファーウェイの猛追を受けており、しっかりと対抗していこうという構えだ。特に、製品のイノベーションという点においては、すでにサムスンとファーウェイの2社の競争が激しさを増しており、アップルのiPhoneを置き去りにしようとするほどの勢いを感じさせる。

 また、Galaxy S10 5Gについては、Galaxy Fold同様、発表イベント後のタッチ&トライでは実機の展示も試用もなかったが、これは5Gネットワークのある環境でなければ本来の魅力をデモンストレーションできないため、見送られたようだ。おそらく、2月25日から開催されるMWC 2019では5Gのデモ向けネットワークも提供される可能性が高いため、ここで実機を触る機会が得られるかもしれない。

日本市場への期待

今回発表されたGalaxy S10シリーズの3機種は、どれがどの国内携帯電話事業者で採用されるのだろうか

 今回のUNPACKED 2019ではGalaxy Foldをはじめ、Galaxy S10シリーズ、ウェアラブル端末などが発表された。日本のユーザーとして気になるのは国内市場への展開だが、まず順当に考えれば、Galaxy S10やGalaxy S10+はNTTドコモやauから発売されそうだ。

 Galaxy Foldについては、端末そのものの供給量がどの程度になるのかがわからないため何とも言えないが、同じくNTTドコモとauでの取り扱いの可能性が考えられる。

他の2機種の基本仕様を継承しながら、必須と思われる機能に絞り込んだGalaxy S10e。国内向けにSIMフリーモデルとして登場することを期待したい

 個人的に、ひとつ期待を寄せているのはGalaxy S10eで、ハイスペックモデルでありながら、機能やスペックを「エッセンシャル」にしていることから、少し価格が抑えられた749ドルに設定されている。

 もし、この製品を7万円前後にできるのであれば、国内市場で、MVNOなどを通じてSIMフリー端末として展開してみるのも面白いかもしれない。Galaxyについては、かねてからSIMフリーモデルを望む声が多く、筆者も何度となく関係者に意見を伝えているのだが、Galaxy S10eがSIMフリーモデルとして展開できれば、国内のモバイル市場でもGalaxyシリーズがさらに拡大するきっかけになるかもしれない。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。