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“やっと”始まる放送と通信の融合、NHKがネットでの同時配信を開始へ

放送法の改正案と、その「制限」

自民党・小林史明議員

 NHKによる放送コンテンツのネット同時配信(サイマル配信)が可能となる、改正された放送法が3月5日、閣議決定された。ただし、これをもってNHKも放送の軸足をネットへと移すと考えるのは早計だ。NHKによるインターネットサイマル配信には、一定の制約が課される見込みで、民放とのバランスが取られる。

NHK番組の“常時”サイマルネット配信が可能に

 改正された放送法では、NHKによる放送コンテンツのネットサイマル配信に制約がなくなる。これまでは「非常の対応」としてサイマル配信が可能だったが、常に配信することが法的に可能となり、NHKとしては2019年の早い段階でサービス開始を実現したい考えだ。

 ただし、このプランをそのまま実行するのには問題もある。

 ご存知の通り、日本の基幹放送はNHKと民放5社によって基盤が構成されているが、NHKが法的に護られた“サブスクリプション”型のビジネスモデルなのに対して、民放は広告収入によってサービスを行っている。すなわち、ネット同時配信を実現するには広告販売によるビジネスモデルを、ネット同時配信になじませる必要があるが、NHKにはその必要がない。

 サイマル配信が始まった当初は視聴者も少ないため、広告価値は低い。そうした中で、年間受信料だけで約7000億円の収益があるNHKが、盤石の財務基盤をもとにネット配信事業に取り組めば、対抗できる民放はない。これでは公正な競争にならないという論旨には、一定の理があるだろう。

 このため、NHKのサイマル配信には、いくつかの条件が付けられている。

 まず、収益の2.5%までしかサイマル配信に投資をしてはならない。また、配信プラットフォームにNHKが独自に投資をすれば、まだ収益性が高くない民放の配信プラットフォームは対抗できない。そこでIIJと民放で運営されている「JOCDN」をNHKも用いるという。

サイマル配信に必要な環境整備

 この改正された放送法に政務官時代に携わった自民党・小林史明議員によると、2.5%という数値に大きな根拠はなく、NHK自身が自主規制として申し出てきた数字だという。しかし、これだけでサイマル配信に関する環境整備が終わりとならないのは、民放各局がこれまで溜めてきたNHK対する不満があるからだろう。

 NHKは公共放送としてテレビ視聴世帯からの聴取料徴収が法的に保証されている。それゆえに法的な規制もまた存在する。しかし現実には、公共放送という位置付けのもと安定した収入源を元に文化的要素の高い番組だけではなく、娯楽性が高い番組もまた数多く制作・放送している。

 法的に約束された巨額収入がある上で、“視聴率を取りに来ている”のに、さらにネットへのサイマル配信に、無制限にNHKが投資し始めると放送時の広告収入で成立している民放としてはネットサイマル配信を含めた事業の枠組み再編が難しくなるという懸念もあるのだろう。

 実際、FIFAワールドカップ・ロシア大会でのネット配信では、一般的な放送ではできないマルチアングルでの映像など、ネット配信ならではの楽しみ方などもトライアルされており、今後を見据えると単純なサイマル配信だけにとどまらない利便性が提供されるだろう。

 ところが、グローバルの広告市場では、テレビ広告がほぼ横ばいなのに対し、ネット広告は伸び続け、昨年はテレビ広告を追い抜いた。ネットへのサイマル配信を行ったとしても、テレビ広告が大きく伸びるとは考えにくい。

 NHKによる常時ネットサイマル配信開始をきっかけに、映像の楽しみ方が急変していけばビジネスモデルの見直しも迫られるようになるかもしれない。

 さらにもう1つ、民放が懸念していることがあるという。それは、ネットサイマル配信を行うためには、出演タレントとの出演契約の見直しが必要になることだ。

 一般に芸能事務所に所属するタレントのテレビ出演では、異なるメディアへの同時配信が行えない契約になっているという。NHKはそこを突破できる存在感があるが、民放は既存の契約を見直す上での障害が大きく、総務省側が音頭を取っての問題解決を望んでいるという。

NHKのネットサイマル配信を受信するには

 さて、実際のネットサイマル放送はどのように行われるのか。

 NHKのネットサイマル配信だが、NHKとの受信契約している世帯には視聴のための“コード”が発行され、視聴が可能になる。コードが入力されていない場合でも映像は受信できるが、BS放送などと同様に未契約者には契約を促すメッセージが表示される。

 配信プラットフォームは前述したように、NHKが独自に盤石の財務基盤から搬出してプラットフォームを作るのではなく、民放も利用しているJOCDNを通じてサービスが提供される。2.5%までの予算とされているのは、この配信プラットフォームを用いての配信予算だ。

 まだ明確なコンセンサスはないものの、NHKは海外で日本コンテンツの放送や配信を行っているが、それらについては“日本そのもののプロモーション”という意味合いがある。このため「海外配信に関しては、この2.5%枠には含まれないというのが、個人的な認識」(小林議員)だと話す。

 また、NHKの中期経営計画を提出してもらい、民間企業並みの開かれた透明な経営環境を同時に求める。基本的には、会社法上必要とされているルールに関しては、NHKに対しても求められるようになり、可能な限り経営を透明化することで民放への理解を求めていくという。

 なお、ネット端末の聴取料に関しては、それ単体で料金を請求されることはない。NHKの聴取料はあくまでもテレビ受像機に対するもので、スマートフォンを含むネット端末に対するものではないからだ。つまり、聴取料を納めている世帯にはネット端末を用いたストリーミング映像の受信コードが割り当てられるが、テレビを持たない世帯にはコードは割り当てられない。

 すなわち、ネットサイマル配信のみの受信契約はなく、あくまでも“テレビ受像機での視聴”を主契約とした、副次的なサービスとして提供されるということだ。