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ヤフーとLINE、経営統合の発表会見~「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ」

Zホールディングス株式会社の川邊健太郎代表取締役社長CEO(左)、LINE株式会社の出澤剛氏代表取締役社長CEO(右)

 ヤフーの親会社であるZホールディングス株式会社と、LINE株式会社が18日、経営統合すると発表した。12月までに最終統合契約および最終資本提携契約を結び、2020年10月までに手続きを完了させることになる。統合会社となるZホールディングスは東証一部上場を維持。資本の約65%を、ソフトバンクとNAVERが50%ずつ出資するジョイントベンチャーが占め、残りの約35%が一般株主で構成することになるという。また、Zホールディングスは、ソフトバンクの連結対象となる。

 なお、両社が提供しているサービスや子会社の統合、棲み分けなどについては、正式統合後に決定するとし、言及を避けた。

 「ユーザーファーストが前提であり、分かりやすい効果を提供したい。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、今回の統合には関与していないが、情報は共有し、私自身がプレゼンテーションを行った結果、100%賛成であり、日本のため、アジアのインターネットのためにスピーディーにやるべきであると言われた。両社が一緒になってやるからには、いままでできなかったような大きな課題解決につなげなくてはならない。そうでなければ、やっている意味がないとも言われた」(Zホールディングスの川邊健太郎代表取締役社長CEO)などとした。

 発表にあわせて、18日17時から、Zホールディングス、LINEの両社社長による記者会見が都内のホテルで行われた。会見は約2時間に及んだ。

 Zホールディングスの川邊健太郎代表取締役社長CEOは、LINEカラーの緑色のネクタイで、LINEの出澤剛代表取締役社長CEOは、Yahoo!カラーの赤いネクタイという逆のカラーで登場。ラグビーではノーサイドのあとに戦った選手たちがユニフォームを交換することに関連させながら、両社の結び付きの強さを見せつけた。両社長は、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」と宣言。説明は、両社長が交互に話すかたちで行われた。

 なお、新たなZホールディングス(ZHD)の代表取締役社長Co-CEOには川邊氏が、代表取締役Co-CEOに出澤氏がそれぞれ就任。取締役には、ZHDから3人、LINEから3人が就任し、独立社外取締役として4人が就任し、合計で10人になることも発表された。社外取締役を最大母数とすることで、ガバナンスを利かせるという。

18日に行われた記者会見では、Zホールディングス株式会社の川邊健太郎代表取締役社長CEO(左)はLINEカラーのネクタイ、LINE株式会社の出澤剛代表取締役社長CEO(右)はYahoo!カラーのネクタイで登場

 Zホールディングスの川邊社長は、「これまではそれぞれにインターネットサービスを提供して会社が経営統合することになる。お互いの立場は対等であり、両社で相談をして統合を進めていく。今年はラグビーのワールドカップが盛り上がり、One Teamという言葉が流行したが、これに乗って、最強のOne Teamを目指す。これまでと同じように、お客様をびっくりさせる価値観を大事にしていく。統合後も、日本のインターネットユーザーや世界のインターネットユーザーが、このグループから出てくるサービスは違う、と言ってもらえるようなワクワクを提供したい」とした。

 また、LINEの出澤社長は、「ヤフーは、『ユーザーの生活を!(びっくり)するほど便利に』することを目指し、インターネット市場で確固たる地位を獲得している。LINEは『WOW』をキーワードにし、Life on LINEを掲げてきた。昨日までは、それぞれに近い思いを持ちながら、切磋琢磨する関係にあった。今日からは、その2社が統合に向けてスタートし、さらなる高見を目指していくことになる。統合後には、グループ全体で全世界2万人の社員規模になる。全員でOne Teamを作りあげたい」とし、「子どもや学生、働く人、子育てする人、高齢者といった全ての人たちの日常生活をポジティブに変化させ、社会全体をアップデートしていきたい。社員全体でワクワクし、楽しみながら、志を高く、事業を拡大したい」と抱負を述べた。

両社を経営統合に向かわせた「危機感」とは

 今回の統合の経緯については、出澤社長が説明。「この数年間、川邊社長と新年会を行っており、そのたびに『なにか大きいことを一緒にやろう』と言われていたが、具体化には至らなかった。今年の場合は新年会ができずに、春に会食を行ったが、今回は思うところがあり、具体的な話を進めた。6月に両社の親会社に話をし、親会社を含めた4社間で、統合ということにはこだわらず、広い範囲の協業という観点から検討を開始した。その結果、今日の発表に至っている」とし、「思うところと言うのは、現状に対する強い2つの危機感と、両社が共通して持つ大きな志が背景にある」と語った。

 これを受けて川邊社長は、「危機感の1つは、グローバルテックジャイアントの存在である。インターネット産業は人が大事なビジネスである一方、人が国をまたいで働くことができる環境にあり、優秀な人材や資金、データが強いところに集約され、勝者が総取りする構造を持つ。強くないところは衰退する。今回、2社が一緒になっても、時価総額、営業利益、研究開発費、従業員数の全てで桁違いの差がついている。欧州や中国以外のアジアでは小さい企業ばかりである。これは、あらゆる産業がデジタル化するなかで、国力や文化の多様性にまで影響を及ぼす課題である」とした。

 出澤社長も、「競合に対する危機感、スピードに対する危機感、AIの投資に対する危機感があった。いまこそ手を打って、次のステージに進むべきであると考えた。この産業は、ほかの産業よりも荒波である。気が付いたら追いつけない状況になっていることが恐ろしい部分である」とした。

 また、出澤社長は、「もう1つの危機感は、課題先進国における日本において、テクノロジーで解決できる課題が数多いものの、これらを解決できていない点。労働人口が減少。日本の生産性が落ち、社会の効率が落ちている。ここにITが活用できるが、それをやり切れていない。また、日本で増えている自然災害にも貢献できる」とした。

 さらに「大きな志」としては、「日本に住む人々に、最高のユーザー体験を提供し、社会課題を解決していく」「日本を起点に、アジアにも最高のユーザー体験を提供する」というステップを踏みながら、「日本、アジアを足場にして、全世界に飛躍し、世界規模で最高のユーザー体験を提供して、課題を解決していく会社になりたい。これによって、日本・アジアから、世界をリードするAIテックカンパニーを目指したい」と述べた。

サービス・人材・投資でシナジー効果、AIで新たなサービスも

 経営統合によるシナジー効果については、いくつかの観点から説明した。

 ヤフーには、6743万人の利用基盤があり、300万社以上のビジネスクライアントがあること、LINEには8200万人のユーザーと、約350万社のビジネスクライアントがあることを示しながら、川邊社長は「利用者基盤の強みがある。重複しているユーザーもあるが、補完しているユーザーもある。LINEは若いユーザーが多く、アプリが接点になっている。これに対して、ヤフーにはPC時代からのユーザーが多く存在し、ブラウザーからも利用されている」と発言。出澤社長は、「LINEは多くの海外ユーザーを抱えており、全世界230以上の国と地域で利用され、1億8500万人の利用者がいる。台湾、タイ、インドネシアではトップシェアである。また、韓国ではナンバーワンのポータルサイトであり、その点では日本のヤフーと近いポジションにある。さらに韓国でもLINE Payのサービスを開始し、世界で5000万人の利用者を突破。銀行事業も主要4カ国で展開することになる。『SNOW』などの世界的に利用されているアプリもある」などと説明した。

 続けて川邊社長は、「ヤフーは、検索やYahoo!ニュースをはじめとするメディア事業、金融サービス事業、eコマース事業にも広げ、PayPayを核にFintechにも取り組んでいる。この幅広さがヤフーの強みである」とし、出澤社長は、「LINEはメッセンジャーアプリとしてスタートし、その利用者とのつながりをベースに、ニュースやゲーム、音楽、eコマースなどを提供してきた。LINEアプリがあれば、全ての生活サービスを利用できるスーパーアプリを実現している。近年では、ペイメントやブロックチェーンなどのFintechや、『クローバー』をはじめとするAIにも大きな投資をしてきた」と発言し、LINEの強みを訴えた。

 川邊社長は、「サービスにおけるシナジーが補完的であると考えている。ヤフーでは、メッセンジャーのサービスを提供できていない。LINEはeコマースにはあまり力が入っていない。それぞれを補うことができる」とし、出澤社長は、「いまあるものの組み合わせだけでも統合効果は大きいが、新たなサービスを創出することが、爆発的ともいえる速度で、事業を拡大することにつながる」と述べた。

 さらに、株主を含めたグループシナジーがある点も強調。国内通信事業者であるソフトバンク、MaaSを行っているMONET Technologiesとの連携などを紹介しながら、「ヤフーでは、eコマースを利用したユーザーのうち、ソフトバンクユーザーであればポイント10倍といったサービスを行っているが、統合後にはLINEユーザーにもポイント10倍といったサービスが提供できる」(川邊社長)などとし、「オールジャパンとしてさまざまな協業を呼び掛け、日本の課題にフォーカスした、他社ではできないサービスを提供したい。ソフトバンク、NAVER、ZHD、LINEは、いずれも東アジアに位置する会社であり、グループシナジーを利かせて、米国のGAFA、中国のBATに続く、第三局として、世界に羽ばたきたい」と述べた。

 なお、新たな製品開発や、今後の統合については、現時点では未定としているが、「プロダクトについては、取締役会の下にあるプロダクション委員会で議論をする。合意ができない場合には、CPO(チーフプロダクトオフィサー)を設け、迅速に決定することになる。両社がやっている事業の棲み分けや統合は、これから議論していくことになる」(出澤社長)とした。

 加えて、人材におけるシナジーについても説明。統合後には2万人の社員数になること、そのうち、数千人のエンジニア、デザイナー、データサイエンティストが在籍し、「デジタルの世界において、優秀なクリエイターたちが、未来に向けて活躍できるようになる」(川邊社長)としたほか、合計で年間1000億円規模の投資については、「これまで以上に投資は積極的に行っていく。両社の投資には重複している部分もあり、結果としては、重点領域に対して、いままで以上に集中した投資ができるようになる」とした。

 さらに、メディアコンテンツの領域では、双方が持つデータを適切に利用しながら、一人一人のユーザーに寄り添ったサービスを提供。広告料金についても、検索、ディスプレイ、アカウントなどを組み合わせた新たなモデルを提供したり、eコマースにおいても、メッセンジャーとECとの組み合わせによる新たな体験が提供できるなどとした。「特にペイメント事業においては、両社の強みを掛け合わせて、ユーザー、店舗の利便性を飛躍的に向上させることができる。スケールアップ、スピードアップをしていくことができる。また、ペイメントの先につながっている事業の力強い立ち上げにもつなげることができる」(川邊社長)と、PayPayとLINE Payの連携でも強みが発揮できることを示した。

 そして、「新たに作り出すサービスの中心となるのがAI」とし、「日常の行動の多くの部分がデータ化され、インターネットと日常生活がより近くなる。その基盤になるのがAIである。AIによる新たな課題解決、AIによる新たなインターフェース、AIによる新たなユーザー体験の領域に、積極的に、そして、中長期的に集中投資をしていく。それによって、ユーザーに喜んでももらえる価値を提供することができる」(出澤社長)とした。

 一方、質疑応答では、川邊社長が、YouTubeやKindleを使用していることに加えて、毎日、LINEを使用していることをカミングアウト。「私は、LINEが大好きで、ヘビーユーザーである。こんなにいいサービスを持つ会社と、一緒に事業をやりたいと考えていた。副社長時代から、LINEに対して、なにかやりたいとオファーを出してきたが、数年間、相手にされず、笑って済まされてきた。今年はそれが違った」としたほか、社長就任以来の1年半で、積極的な買収や体制強化を行っていることを示しながら、「経営者とは、自分がやりたいことでなく、その会社にとって、いまなすべきことをやることが役割である。この1年半にやってきた取り組みは、いま、ヤフーやZホールディングスが置かれた立場においてなすべきことであった。Yahoo! JAPANは長年ビジネスをやってきてが、ライセンスの問題で海外に出ることはできない。ホールディングス化し、ヤフー以外にも株主価値を最大化するためにさまざまな事業を取り込んできた。また、ソフトバンクにとっても、ビヨンドキャリア戦略のなかで、ヤフーが必要だと考え、ソフトバンクと一緒になった。私は、東アジアから、世界のインターネットを構成することができる、もう一極を作ることが、いまなすべきことであると考えている」と語った。

 さらに、両社長がこの日、それぞれの会社において、社員に向けて説明会を行ったことにも触れ、「ヤフーの社員には、これから1年間は思いきり、LINEと戦えと言った。どちらがいいサービスを作れるのか、勝負を続けろと言った。統合を考えるクリーンチームは別だが、現場では切磋琢磨していくことが大切。そのなかでチームワークを作っていきたい。それが日本のインターネットユーザーのためにはいいことである」と発言。出澤社長も、「全く同じことを言ってきた。統合までに1年間の期間があり、その間は、統合に向けた具体的なステップが取れない。できることはよりよいサービスを作り、ユーザー評価を受けて成長すること。我々も成長したかたちで統合したいと考えている」とした。

 川邊社長は、これを「お互いに『花嫁/武者修行』をする期間」と表現してみせた。