ケータイ用語の基礎知識

第931回:スーパーアプリとは

 スーパーアプリとは、プラットフォームとなるアプリの内に、さまざまな機能をもつアプリを統合し、日常生活のありとあらゆる場面で活用シーンをもつ統合的なスマートフォンのアプリです。

 英語圏でもこのようなアプリケーションのことを"Super App(s)"などと呼びます。静かにではありますが、どの国でどのアプリが「スーパーアプリ」の主流になるのか、注目を集め始めています。

アプリを統合する「巨大アプリ」

 従来のスマートフォンアプリでは、メッセージング/SNS・金融/決済・タクシーなどの配車やシェアサイクルなどを使いたければ別個のアプリケーションをOS上のアプリケーションストアからインストールして使うのが普通でした。

 スーパーアプリでは、(一見、関係のなさそうに見えるこれらの用途のサービスたちが)ひとつの大きなアプリの中に、ミニアプリとして用意されています。そして、一つひとつのサービスは、大本のスーパーアプリと一貫したユーザー体験のもとで統合されているのが特長です。

 これは、逆にいうと、従来の「別個のアプリケーションをOS上のアプリケーションストアからインストールして使う」というやり方では、ユーザー体験に一貫性を持たせることができないということの裏返しにもなります。

 たとえば、そのひとつが「認証」です。アプリケーションは、使っているユーザーが正当な利用者であるかどうかをたとえば「ユーザーID」と「パスワード」、あるいは「指紋センサーへのタッチ」などで見分けるようになっていますが、ユーザーにとってみると、ある用途にスマホを使い、次にほかの用途にスマホを使うときにまた違う認証をしなくてはいけないというのは、面倒以外の何物でもありません。

 しかし、そこが、ひとつのアプリケーションをベースにして、やりたいことがそのアプリのなかですべて完結し、認証も最初の一回で済めば、ユーザー体験はぐっと向上します。

 そこで、徐々にスマートフォンの世界では「スーパーアプリ」が注目され始めているのです。

インドネシア「GO-JEK」、中国「AliPay」などの成功例も

 世界で最も「スーパーアプリ」として有名なのはインドネシアの「GO-JEK」でしょう。

 もともとはバイクタクシーの配車アプリでした。GO-JEK以前はインドネシアではバイクタクシーに乗るにも行き先と価格交渉をしてから使うのが普通でした。それを、配車発注時に値段が出るようにし、一躍人気のアプリとなりました。

 それから、バイクタクシーの客待ち時間を使ってバイク便の「GO-SEND」、宅配便の「GO-BOX」、食べ物の出前サービス「GO-FOOD」、そしてこれらを決済する手段として電子マネー「GO-Pay」も同じアプリから使えるようになりました。

 基本的に「Go-Pay」は、店舗などで現金をチャージしてから使うようになっています。これは、インドネシアは銀行口座の普及率が人口の半分未満という国であるという事情があります。逆に、店舗でも「Go-Pay」を使って支払いをすることができるケースが多くあります。小さな雑貨屋やワルン(食堂)などでも使えるのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。

 また、中国ではAlipay(支付宝)、WeChat(微信)の2つがスーパーアプリと言えます。特にAlipayは、もともとスマートフォン向け電子マネーとして作られました。しかし、ミニアプリ(小程序)のプラットフォームとしての機能も充実しており、現在では、さまざまな機能のミニアプリが搭載されています。インドネシアの「GO-JEK」同様で、生活がこのスマートフォンひとつでできてしまうと言っても過言ではありません。

 Alipayは、商店や個人間の集金・支払いだけでなく、携帯電話の料金支払い、宝くじ、タクシーの呼び出し、信用レートを見る、飛行機・高速鉄道の予約、医療、保険の加入などを行うことができます。なお、Alipay内のミニプログラムでは、AlipayのIDとなっている電話番号は多くのミニプログラムで引き継がれており、イチイチ入力し直す必要はありません。

こちらはAlipayのトップ画面と、ミニプログラムのひとつ「スマート設定」。MiBandなどAliPay払い対応のスマートウォッチなどに残金をチャージしたり残高をみたりできる。

 また、サードパーティからは「映画館の席を予約する」「ホテル予約」「レンタルバイク」というようなアプリも提供されています。これらは全て、Alipay上に登録されている電話番号とユーザーの現在位置でひも付いているので、中国全土、どこにいても均一なサービスをうけることができます。なお、中国では多くの人が銀行口座を持っており、Alipayの口座は銀行口座・もしくは銀行の発行するクレジットカードとひも付けられており、チャージもそこから行うのが普通。ユーザーは現金をみることなく「預金口座⇒AliPay⇒サービス」と流れて行ってしまうのが普通になっています。

 WeChat(微信)もその名前の通り、もともとはチャットアプリでしたが、友人間の決済手段から大型の店舗なども含めた決済手段を含むようになりました。そして、現在ではミニプログラムとして、現在位置に近い外食店のクーポンが表示される、銀行の口座残高をみたり、口座振替をおこなったりできるといったものが用意されています。

 スーパープログラムは、iOSやAndroidのアプリケーションプラットフォームとしての独占を崩し、よりユーザーのための単一した体験を提供するという意味で、そして企業にとってはより寡占的地位を占めて利益を最大化するために魅力的な手段です。そのため、多くの国の、多くの大手OTTアプリ業者が、このスーパーアプリの提供を狙っています。

 しかし、2005年頃から言われているスーパーアプリという概念ですが、世界規模で見てみると、特にアジア圏でスーパーアプリと呼べるようなアプリが徐々に出てきていますが、世界的に出てきているわけでもなく、国境を越えるようなものはまだまだ出てきていません。

 たとえば日本でもメッセンジャーアプリでシェアの高いアプリや、電子マネー分野でシェアの高いアプリはありますが、それぞれが独立したプログラムであり、またアプリケーションプラットフォームとなって他方を吸収しようという動きはなく、これからが注目されるところです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)