北欧に位置するエストニアは、「電子国家」として世界の注目を集めている。しかし、実際の生活がテクノロジーでどのように変化しているのか、その実態は不明な部分も多い。エストニアに移住した筆者が見る、電子国家のリアルを紹介していく。
この記事は、オウンドメディア「tsumug edge」からの転載です。
万物があらゆるサービスとつながるコネクティッドな世界では、物理的なものや場所といった制限がなくなります。tsumug edgeは、そんなコネクティッドな未来を紹介するメディアです。
セントラルオクラホマ大学マーケティング専攻。リクルートを経てコワーキングスペースsharebase.InCを創業。現在はWCSの取締役CFOとしてエストニアと日本を拠点に活動中。
シュリニヴァーサ・アイヤンガー・ラマヌジャンという数学者がいる。彼はインドの片田舎で地面に数式を書いて過ごしていたが、数学以外に興味を持てなかったため、進学先のパッチャイヤッパル大学からの奨学金も打ち切られ、落第した。後に幸運に恵まれ、ニュートンの伝説の余韻が残る英ケンブリッジ大学に呼ばれることになり、数々の偉業を為すに至る。
「宇宙人レベルの天才」「アインシュタインを超える逸材」と言われる彼は、その直感的な数学的発見を「女神ナマギリからもたらされたもの」と答える。彼にとって定理とは、神さまの言葉だった。
彼を主人公にした映画『奇蹟がくれた数式』によると、彼はインドにいる妻をイギリスに呼ぶつもりだった。妻は彼に「早く呼び寄せてほしい」と書いた手紙を出そうとするが、彼の母に投函(とうかん)を阻まれていた。結局、彼は妻をイギリスに呼ぶことなく病に倒れ、インドに帰ることになる。母は、自分の息子がイギリスに行ったまま帰らなくなるのを恐れていたのだ。
子供が学校で何をしているのか、どのように過ごしているのかは、親にはよく分からない。幼かったり、思春期だったりする子供ならなおさらだ。ラマヌジャンの母のように気がかりで仕方のない親もいれば、学校が子育てを代わりにすべきだといわんばかりに責任を押し付ける親もいる。
僕の妻は、エストニアのプリスクール(幼稚園)で英語の先生をしている。エストニアはヨーロッパの中では英語がかなり得意な方と言われるものの、年配の方などはエストニア語とロシア語しか話さないというケースも多い。実際に僕の義母はそのパターンで、妻を通訳にして話すしかない。その分、子供の英語教育には日本以上に熱心でもある。
エストニアでは2002年から、学校と親のコミュニケーションを主目的としたeKool(e-school)というシステムが導入されており、成績や宿題の管理、出欠席の状況から教師の日誌のようなものまで共有されている。国が提供しているわけではないが、エストニアの国民ID「eID」と連携していたり、部分的に行政が国内の教育状況の把握ができるようにデータが共有されていたりする。現在では28〜30%のエストニア人が利用しているそうで、海外への輸出も検討されている。
しかし、その道のりは全く平たんではなかった。いくつかの学校が「不便なのでもう使わない」宣言をしたり、2013年に広告を導入した時には国からも含めて総バッシングを受けたり、リニューアルしてSNS機能を追加した時には生徒からも「もうこれ以上ソーシャルなものはいらない。使える機能だけにしてほしい」など批判されたり、ハッキングを受けて成績の改ざんが試されたりなど、なかなか踏んだり蹴ったりだ。
そういった問題を受けて、電子日記・教材管理に特化したStudioというシステムに乗り換える教育機関も増えた。その1つ、Tebosが運営するLearning Languageは、オンラインの教育者が個人のデジタル教材を寄託できるシステムで、教育の質を上げようとするものだ。
これはエストニアのエンジェル投資家団体「EstBAN」も評価し、起業家コンテストで受賞するなど、eKoolの不評にも関わらず教育関連テクノロジー(EduTech)はやはり注目の的ではある。学校関連では、決済システムを握ろうとするスタートアップも多い。授業料や食費、レクリエーション費、教材費などさまざまな出費が発生するためだ。
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