インタビュー

IoTサービス各社に聞く(1):AT&Tジャパン編

日系企業の米国での事業展開を支援する、競争力の高いサービス提供力が強み

 これまでのモバイルの世界では、当然ながら、自らインフラを構築する通信キャリアの存在感が非常に大きなウエイトを占めている。しかし、IoT接続においては、海外キャリアやMVNOなど、国内で自ら通信インフラを持たない事業者によるサービス提供も数多く登場している。

 そこで、国内通信キャリア以外の主なプレーヤーに焦点を当て、どのようなサービスを提供しているのか、インタビューから読み解いていきたい。

 初回は、AT&Tジャパン株式会社 代表取締役社長の岡学氏にお話を伺った(取材は10月末に実施)。

AT&Tジャパン株式会社 岡学氏

200以上の国・地域で利用可能な「グローバルSIM」を提供

――AT&Tは米国を代表する通信キャリアの1社ですが、日本ではどのようなサービスを展開されているのですか。

岡氏
 基本的には法人向けサービスの提供に特化しています。ターゲットとなるのは、海外に展開している日系企業、そして国内の外資系企業が中心です。

 「グローバル」が弊社の良さを感じていただく際のキーポイントになるかと思いますので、やはり国内だけでなく海外にも展開されている企業が中心になってきます。

 もともとは、お客様のグローバル拠点をつなぐネットワークですとか、データセンタやセキュリティなどITインフラ系のサービスを主軸としてきました。弊社はインフラも人的リソースもグローバルに保有しており、それらをうまくまとめて、お客さまのニーズに合わせたソリューションとして一括提供することを得意としています。

 IoTについては、まだM2Mと呼ばれていた10年以上前から手掛けはじめ、ここ5年ほどは特に力を入れて取り組んでいます。

 なお、AT&Tは2018年にタイム・ワーナー(註:現ワーナー・メディア)を買収しており、傘下のCNNなどが日本国内でも事業を行っていますが、今日は別枠とさせていただきます。

――ありがとうございます。では今回のテーマであるIoTの部分ですが、対応国はどのぐらいありますか。

岡氏
 我々の「グローバルSIM」は、ローミングによって200以上の国・地域で利用いただけます。ローミング可能な通信キャリアの数で言うと、500程度となっています。

――ということは、1つの国で複数の通信キャリアとローミングされている計算になりますね。

岡氏
 おっしゃる通りです。我々は、エリアカバレッジ、リスクヘッジといった観点から、1つの国で必ず2キャリア以上とローミングする方針を採っています。

 4G以降は通信規格がほぼ一本化されていますが、過去にはGSMやCDMAなど違いがありました。グローバルでローミングする場合、GSMが世界的に幅広く使える規格ですが、我々はGSMを採用する米国の最大手通信キャリアでしたから、多くの通信キャリアとローミングすることができました。この関係性を活かして、全体的に抑えたレートで提供することができています。

国別レートだけでなく、接続国にかかわらず同一料金となる「フラットレート」プランも

――レートのお話が出ましたが、具体的な価格体系について教えて下さい。

岡氏
 接続する国にかかわらず同一の価格で利用できる「フラットレート」プランを提供しています。徐々に適用できる国を拡大しており、現在は163ヶ国が対象となっています。

 ただし、IoTの場合、お客様の利用方法やボリュームなどをお伺いした上で価格を御提案することの方が多いです。

――お客様は、例えば欧州であればこの回線といった形で、キャリアを使い分けたりしているのでしょうか。

岡氏
 複数キャリアに対するニーズというよりも、まずは価格をできるだけ抑えたいという発想が出てくると思います。アプリケーションやアナリティクス、デバイスの開発などはかなり検討されるのですが、通信に関しては「SIMを挿すだけなんだから、一番安いローカルのキャリアを調達すればいいじゃないか」とイメージされがちです。

 ですが、実はそんなに簡単な問題ではないのです。各国で異なるレギュレーションに対応しなければなりませんし、現地のキャリアと骨の折れる交渉もしなければなりません。苦労の多い、複雑で奥深い問題なのです。

――グローバルでIoTを展開すると、SIMの管理も煩雑になりそうです。

岡氏
 そうですね。シスコ「Jasper」やノキア「WING」など、通信キャリアによって採用している通信管理プラットフォームは異なります。お客様は、それぞれのプラットフォームと連携しないとSIMを一括で管理することができませんでした。

 そこで我々は、この部分を支援するソリューションとして「IoTゲートウェイ」「マルチネットワークコネクト」を提供しています。

 「IoTゲートウェイ」は、私どものゲートウェイと連携いただければ、通信キャリア各社のプラットフォームと直接接続せずに管理できるようになるものです。さらに、「マルチネットワークコネクト」を導入いただくと、SIM管理が1つのポータル画面で行えるようになります。

「マルチネットワークコネクト」のイメージ(出典:「AT&T IoT Platform: Multi-Network Connect」

日系企業の米国での事業展開を支援する、競争力の高いサービス提供力が強み

――ここ5年ほどは特にIoTに力を入れているとのことでしたが、当時と現在でグローバル展開を望んでいる日本企業のIoTへのニーズは高まっているのでしょうか。

岡氏
 はい、間違いなく実案件は増えています。

 弊社が今最も力を入れている自動車業界ですと、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、SUBARUを含め、世界中で20社以上との取り組みについて既に発表させていただいております。販売に向けてメーカーさんと一緒に仕込んでいるものも非常に多い状況です。

 自動車業界の場合、たとえばエンターテインメント分野で使いたい、といったように、IoTをどのように活用するか、ビジネス化するか、が具体化しており、比較的プロジェクトが進む環境にあります。

 一方で、他の業界の方とお話をさせていただく中で、とにかくIoTをやらなくてはいけないと思いながらも、それをどのように問題解決あるいは新サービスにつなげるか、この部分で苦労されている方が多い印象を持っています。

――最後に、御社サービスの強みはどのあたりにあるとお考えですか。

岡氏
 まず、我々には200以上の国・地域で接続できる「グローバルSIM」と、回線を一括管理できる「IoTゲートウェイ」や「マルチネットワークコネクト」などを取り揃えています。

 さらに、弊社はおそらくIoTにおいて最も実績を上げているキャリアの一つです。携帯ネットワークだけで、世界中で5800万回線のIoTデバイスがつながっています。コネクテッドカーではトップシェアを占めています。

 グローバルで利用できる環境に対する投資と、各種導入実績に裏打ちされた経験は優位性になると思っています。IoTは国ごとに規制や枠組みが異なりますが、弊社は世界中にIoTとICTのスペシャリストを置いていますので、しっかりと対応させていただきます。

 特にカナダ、メキシコを含めた北米に事業展開する日系のお客さまには、まず間違いなく競争力の高いサービスを提供することができると考えています。

――本日はありがとうございました。