法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「LG G8X ThinQ」はディスプレイ付きケースで新しい2画面の世界を開く

 スマートフォンの次なる形として、注目を集める折りたたみデザイン。しかし、複雑なメカニズムの影響もあり、各社の製品はかなり高価なものが多いが、ディスプレイ付きケースを組み合わせるという手法により、リーズナブルな価格で「折りたたみ&二画面」を実現したのがソフトバンクの販売するLGエレクトロニクス製「LG G8X ThinQ」だ。実機を試すことができたので、仕上がりをチェックしてみよう。

次なるスマートフォンの形

 国内外の市場において、スマートフォンが本格的に普及し始めてから約10年ほどが経つ。かつてはQWERTY配列キーボードを備えたモデル、スライド機構ボディのモデルなど、少しユニークな形のモデルが販売されてきた実績があるが、現在はほとんどの端末がフラットな板状のボディを採用しており、スマートフォンの形状としての個性はなかなか打ち出しにくくなっている。

ソフトバンク/LGエレクトロニクス「LG G8X ThinQ」、約166mm(高さ)×164mm(幅)×15mm(厚さ)、約331g(重量)、本体のみ:約160(高さ)×76mm(幅)×8.4mm(厚さ)、約193g(重量)オーロラブラック(写真)をラインアップ

 そんな中、今年は有機ELディスプレイの特徴を活かした折りたたみデザインの端末が相次いで登場し、話題になった。折りたたんだ状態でボディのサイズを抑えつつ、拡げた状態では大画面でアプリを使えるというメリットを持ち、新しいスマートフォンの進化形として注目を集めた。しかし、ディスプレイを曲げるという構造を実現するため、製造コストが高くなり、店頭価格が20万円を超えてしまい、多くのユーザーがとても手を出せない商品になってしまった。

 こうした状況に対し、折りたたみとはまったく別の手法で新しい可能性を見出そうとした製品が登場した。それが今回取り上げるソフトバンクのLGエレクトロニクス製スマートフォン「LG G8X ThinQ」だ。LG G8X ThinQはフラットな形状の本体に装着できるディスプレイ付きケースを組み合わせることで、2つの画面を同時に利用できる新しい「デュアルスクリーン」スタイルを実現したモデルになる。

本体は外した状態のディスプレイ付きケース。電源は内蔵しておらず、本体側からの給電で動作する

 よく知られているように、LGエレクトロニクスはグループ内に液晶パネルや有機ELを製造するLGディスプレイがあり、他社に比べ、新しいデバイス(部品)を調達しやすく、価格面でもアドバンテージがあるとされる。今回のLG G8X ThinQはそのアドバンテージを活かした商品というわけだ。

 今回、LGエレクトロニクスはソフトバンク向けにLG G8X ThinQを供給しているが、実はひと足早く、NTTドコモの5Gプレサービス向け端末として、同様のデュアルスクリーンデザインの「LG V50 ThinQ 5G」(2019年2月発表)をベースにしたモデルを供給しており、国内市場向けモデルとしては2機種目という見方もできる。

 こうした2つのディスプレイを備えたデザインとしては、国内でもNTTドコモのNEC製端末「MEDIAS W」、ZTEとの共同開発の後継モデル「M」などがリリースされた実績があるが、いずれも折りたたみ時にディスプレイが外側になる形状で、残念ながら、市場には定着せずに終わっている。

 また、現在も同様の2つのディスプレイを組み合わせたスマートフォンが企画されており、記憶に新しいところでは10月に米ニューヨークで開催されたイベントで、マイクロソフトが2020年のホリデーシーズンを目指して開発中の「Surface Duo」を披露している。モバイル業界では通信技術やサービスの世代が変わるタイミングで、形状が大きく変わることが知られており、本格的なスタートを2020年に控えた5Gサービスの時代へ向けて、この2画面スタイルや折りたたみデザインが次なるスマートフォンの形になっていくことも十分に考えられる。

 そして、今回のLG G8X ThinQがもうひとつ注目されるのは、その価格設定だ。すでに販売が開始されているので、ご存知の方も多いだろうが、2019年10月からの改正電気通信事業法の施行により、端末販売と回線契約が完全に分離され、ハイエンドモデルの売れ行きが鈍るだろうと言われる中、他社のフラッグシップモデルと同等のチップセットを採用し、ディスプレイ付きケースも付属した状態ながら、ソフトバンクオンラインショップでの販売価格は5万5440円(税込)に設定されている。

 これはソフトバンクの「トクするサポート(旧名:半額サポート+)」などを適用した金額ではなく、一括払いの価格になる。もちろん、端末そのものを気に入るかどうかは別だが、ディスプレイ付きケースを除いた本体だけでもかなりのハイコストパフォーマンスモデルと言って、差し支えないだろう。

ディスプレイ付きケースで2画面

 まず、本体の外観からチェックしてみよう。ボディは同クラスのディスプレイを搭載したライバル機種に比べ、ややワイドなサイズだが、薄さ8.4mmのスリムなデザインに仕上げられている。背面も後述する背面カメラ部を含め、フラットに仕上げられ、突起がなく、持ちやすい。スマートフォン本体のみに限られるが、IPX5/IPX8の防水、IP6Xの防塵に加え、MIL-STD-810Gの14項目に対応した耐衝撃機能を備える。

背面はフラットな仕上げで、カメラ部も突起がない

 ディスプレイ付きケースは開いた状態で、右側に本体を装着する構造で、内側下部の接続部にはUSB Type-C外部接続端子を備える。ディスプレイ付きケースを装着すると、本体の外部接続端子にケーブルを接続できなくなるが、ディスプレイ付きケースの下部には専用の端子が備えられ、パッケージ同梱の充電コネクタに、USB Type-CケーブルのACアダプタなど接続することで、本体を充電することができる。

右側面には電源キーのみを備える。カメラ部も含め、背面はフラットな仕上げ
左側面は分割式の音量キー、Googleアシスタントキーを備える

 ディスプレイは約6.4インチの有機ELディスプレイを搭載しており、ディスプレイ上部には水滴型ノッチ内にインカメラを内蔵するデザインを採用する。ケース側のディスプレイも同じ約6.4インチの有機ELディスプレイで、こちらはインカメラがないため、ほぼ全面で表示されるが、表示は水滴型ノッチが存在するかのように、上部が小さく欠けている。

下部にはUSB Type-C外部接続端子を備える。3.5mmイヤホンマイク端子も備え、有線のイヤホンを接続すれば、Hi-Fi QUAD DACによる高音質なサウンドを楽しめる

 解像度はいずれも2340×1080ドット表示のフルHD+対応となっている。この2つディスプレイに加え、本体を閉じた状態の表紙の部分にもディスプレイが内蔵されており、日時や天気、通知アイコンなどが表示される。かつてのケータイのサブディスプレイのような存在と言えば、わかりやすいだろう。

本体上部にSIMカードトレイを内蔵。最大512GBまでのmicroSDメモリーカードを利用可能

 ちなみに、ディスプレイケースは360度、回転する機構を持ち、端末を開いたデュアルスクリーンの状態から、ケース側のディスプレイを本体の裏側に回転させることもできる。このとき、背面側に回り込んだディスプレイは点灯しない。

本体は外した状態のディスプレイ付きケース。電源は内蔵しておらず、本体側からの給電で動作する
ディスプレイ付きケースには上側から本体をスライドさせるように装着する
ディスプレイ付きケースの右側面。電源キーのみを装備。ケース側のディスプレイが少しワイドなため、閉じた状態で机に置いても持ち上げやすい
ディスプレイ付きケースの左側面。着信時はGoogleアシスタントキーを押すと、応答できる

 本体の重量は約193gで、このクラスのスマートフォンとしては標準的な重さだが、ディスプレイ付きケースを装着した状態では約331gとなっており、かなりのヘビー級になる。先日、本誌の「本日の一品」コーナーでiPhone 11 Pro Max用の「Smart Battery Case」を取り上げたが、iPhone本体を含めた重さは約345gで、LG G8X ThinQはほぼ同程度の重さということになる。

ディスプレイ付きケースを閉じた状態。上部に内蔵されたサブディスプレイに通知情報などが表示される

 常に持ち歩くモノとして、300g超は確かに重いが、それに見合うだけの内容があれば、持ち歩くことができる。iPhoneで言えば、約1.5倍になるバッテリーライフであり、LG G8X ThinQであれば、デュアルスクリーンという利用環境がアドバンテージになる。

ディスプレイ付きケースの背面側はカメラ部が大きく開いた状態

 バッテリーは4000mAhの大容量バッテリーを搭載しており、本体のみのときはUSB Type-C外部接続端子とQi対応ワイヤレス充電、ディスプレイ付きケース装着時は前述の変換アダプタ経由で充電することができる。ちなみに、ワイヤレス充電器の形状によって、多少の差はあるかもしれないが、ディスプレイ付きケースを装着した状態でもワイヤレス充電ができている。

ディスプレイ付きケースの充電端子と付属の充電コネクタ(右)。充電コネクタにはUSB Type-Cケーブルが接続できるが、データ通信やファイル転送などは利用できない

 チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 855を採用し、RAMは6GB、ROMは64GBを搭載する。あらためて説明するまでもないが、Snapdragon 855はソニーのXperia 1/5、シャープのAQUOS R3/zero2、サムスンのGalaxy S10/S10/Note10+/Fold、Google Pixel 4/4 XLなどに採用されており、4G対応のチップセットとしてはもっとも高いパフォーマンスが期待できるものになる。デュアルスクリーンを快適に利用するために、CPUパワーが必要だという見方もあるが、それでも5万円台半ばで、Snapdragon 855搭載はかなりのお買い得モデルと言えるだろう。

 プラットフォームはAndroid 9 Pieを採用し、セキュリティは本体のディスプレイに内蔵された光学式指紋センサーを利用した指紋認証に対応する。顔認証には対応していない。

光学式の画面内指紋センサーを搭載。画面の下の位置に内蔵されている
指紋認証は画面ロックだけでなく、コンテンツのロックなどにも利用可能

 また、おサイフケータイにも対応し、フルセグチューナーも搭載しており、日本仕様をしっかりとサポートしたモデルに仕上げられている。特に、おサイフケータイについては最近のキャッシュレス決済において、かざすだけで決済できる使い勝手の良さが再認識されており、既存サービスを利用するユーザーだけでなく、幅広い層にとって、アドバンテージになるはずだ。

通知パネルは2画面構成で配列などは自由にカスタマイズできる
一般的なナビゲーションキーを利用した操作だけでなく、ホームボタンをドラッグしてのジェスチャー操作も利用できる

 カメラは背面に1200万画素の標準カメラ、1300万画素の広角カメラを搭載し、インカメラには3200万画素のイメージセンサーを採用する。アウトカメラ、インカメラ共にAIによる19種類の被写体認識に対応し、食べ物や夜景、雪、犬などに適した設定で撮影ができる。

背面のカメラは標準カメラと広角カメラの構成
クリスマスツリーを撮影。周囲の明るさも残しながら、ツリーそのものも明るく撮影できている
いつもの薄暗いバーで撮影。グラスの質感やカクテルの色合いもうまく再現。背景も自然にボケが利いている

 カメラ周りでちょっとユニークなのはデュアルスクリーンの形状を活かし、インカメラ撮影時にケース側のディスプレイを点灯させ、レフ板のように使ったり、ディスプレイ付きケースをL字状に回転させ、ディスプレイ付きケース側をファインダーとして使いながら、食べ物などを真上から撮影するといった使い方を可能にしているところだ。

利用シーンの広いデュアルスクリーン

 LG G8 ThinQの特徴であるデュアルスクリーンについて、チェックしてみよう。まず、ディスプレイ付きケースに本体を装着した状態で開くと、本体側に本来のホーム画面、ケース側のディスプレイにはホーム画面の拡張画面が表示される。

ディスプレイ付きケースを装着して、端末を開いた状態。一般的なスマートフォン2台分のスクリーンを利用できる

 そのため、本体側は左右にフリックすると、ホーム画面の続きがスクロールで表示されるが、ケース側は左右にフリックしても画面が切り替わらない。Androidスマートフォンのナビゲーションキーは両方に表示されるため、「戻る」や「ホーム」などの操作は迷うことはない。履歴キーで表示されるタスク画面はいずれか片方の画面のみに表示され、タスク終了なども一般的なAndroidスマートフォンと同じように操作できる。

チュートリアルでデュアルスクリーンの使い方をチェックできる
設定画面内の「デュアルスクリーン」で細かい設定ができる。デュアルスクリーンツールを非表示にしたときはここで再表示の設定が可能

 デュアルスクリーンの切り替えや入れ替えなどは、画面に小さく表示されている「デュアルスクリーンツール」から操作できる。たとえば、左右の画面を入れ替えたり、本体ディスプレイで表示中の画面を隣の画面(ケース側ディスプレイ)に移動、ケース側ディスプレイで表示中のアプリを本体のディスプレイ側に移動するといった操作ができる。

デュアルスクリーンツールをタップすると、メニューが表示され、画面の入れ替えや移動が可能
動画再生中、横画面の状態でもデュアルスクリーンツールを起動できる

 また、デュアルスクリーン表示をオフにして、メインディスプレイのみで利用したり、ケース側ディスプレイで表示したアプリを使うときにメインディスプレイを暗くして、節電することも可能だ。ちなみに、デュアルスクリーンツールは画面のフチにフィットする形で表示され、表示をオフにすることもでき、設定画面から再び表示をオンに切り替えることもできる。

設定画面内のスマートドクターでは端末の最適化が可能。バッテリー使用量なども確認できる
場所やシチュエーションに合わせた動作を設定できる。たとえば、自宅のエリア内になれば、サウンドプロフィール(マナーモード)を変更するといった設定が可能

 実際の利用シーンについてだが、これはユーザーの発想次第で、さまざまな活用が考えられる。たとえば、メールを表示しながら、そのメール内に書いてる住所の地図をもう一方の画面で表示したり、動画コンテンツを視聴しながら、それに関連する情報をブラウザで表示する、スポーツなどのライブ中継を見ながら、SNSやチャットを楽しむ、ゲームをプレイしながら、SNSで情報交換をする、といった使い方が考えられる。

動画を再生中に、Webページを参照。テレビを視聴しながら、SNSなどでチャットも楽しい

 ゲームについては「ゲームランチャー」と呼ばれるアプリが用意されているほか、ゲームの画面を表示しながら、もう片方の画面にコントローラーを表示する「LG Game Pad」も用意されている。ゲームの種類にもよるだろうが、チップセットのスペックなどから考えてもスマートフォン向けゲームを楽しむ環境としては、かなり有効な端末と言えそうだ。

ゲーム中にゲームツールを起動し、「LGゲームパッド」を起動すると、片方の画面でゲーム、もう片方の画面にゲームパッドを表示できる
Webページを表示しながら、ゲームをプレイすることもできる。攻略法などを表示する使い方も便利そうだ

 また、デュアルスクリーンはそれぞれの画面で個別のアプリを起動するのではなく、左右のディスプレイを1つの画面として表示する「ワイドモード」で表示できる。ただし、Galaxy FoldやHUAWEI Mate Xのような1つの有機ELディスプレイを折り曲げている形状とは違い、中央のヒンジを挟んでの表示になるため、視認性はややスポイルされる印象だ。

デュアルスクリーンをフルに使い、Webページを表示したスクリーンショット。実際には中央部分にヒンジが入るため、ちょっと見づらくなってしまうが、十分に実用的

 どちらかと言えば、地図など、より大きな画面での表示が必要なときなどに、切り替えて利用するスタイルが適切と言えそうだ。

デュアルスクリーンの新しい世界を楽しめるハイコストパフォーマンスの一台

 冒頭でも触れたように、通信技術の世代が進むとき、モバイル業界では端末やサービスも大きく変化してきた経緯があり、2020年春に各社の5Gサービスの本格スタートを控え、今後、スマートフォンがどのように変わっていくのかが非常に楽しみな時期を迎えている。

 そうした新しい時代へ向けたスマートフォンの形として、「折りたたみ」が注目を集めており、今年は複数のモデルが国内外の市場に送り出された。しかし、端末の取り扱いがセンシティブだったり、価格が一般的なスマートフォンの数台分だったりと、一般的なユーザーには今ひとつ身近に捉えられないモデルばかりだった。

 そんな中に登場した「LG G8X ThinQ」は、一般的なスマートフォンにディスプレイ付きケースを組み合わせるという現時点での現実的な解を導き出すことにより、デュアルスクリーンという新しい世界を手軽に体験できるようにした端末だ。

 しかも2019年のハイエンドモデルと同じチップセットを搭載しながら、5万円台半ばという価格を実現し、他製品を圧倒するハイコストパフォーマンスを実現している。もちろん、実際の取り扱いについては、折りたたんだ状態でも分厚く、重量も300gオーバーと重いため、人によっては持ち歩きにくいと考えるかもしれないが、デュアルスクリーンという環境はそれを補って余りある魅力を持っており、かなり楽しめる一台に仕上がっている印象だ。ゲームを楽しみたいユーザーをはじめ、デュアルスクリーンの新しい世界をいち早く体験してみたいユーザーにオススメできるモデルと言えるだろう。