今Qualcommが最も注力しているのは「5Gの普及」だと感じている。2019年以降の世界の展開ロードマップを公開した同社だが、これはあくまで各国の携帯キャリアがSub-6(6GHz未満)やミリ波でのサービスを始める時期であり、本格的な一般層への普及はその後になる。現状、携帯電話の買い換えサイクルは3〜4年程度にまで延びているといわれ、この流れで行くと、5G開始から3〜4年を経てようやく過半数が「5G対応」ということになる。
だが多くが知るように、こうした最新技術にまず対応するのはハイエンド機からと相場が決まっている。部品コストが高く、技術的にもまだこなれていないため、普及価格帯の製品にいきなり搭載するのは難しいからだ。ゆえにハイエンドでまず5Gを一通り対応させ、その次の段階でミッドレンジからローエンドへと落としていくのが一般的なルートとなる。
ただ、これでは5Gの本格普及はさらに先になるだろう。買い換えサイクルの問題もあり、比較的多くのユーザーが2025年以降も4Gの世界にとどまる可能性が高い。
QualcommがSnapdragon 765/765Mという5G対応の1チップソリューションを比較的早いタイミングで出してきたのは、現状ではまだ超ハイエンド端末にとどまっている5Gを、ミッドレンジに近い領域まで落とすことで採用製品を増やすためだ。Modular Platformも端末デザインの幅を広げるもので、一連のラインアップは5Gに大きなプライオリティーがあることを示している。
一方で、Qualcommがもう1つ最近力を入れているのが「AI」だ。「Intelligent Edge」などと呼ばれるが、従来までクラウド上のサーバ側にデータを渡して処理を行い、その結果を実行するだけだったモバイル端末が、ある程度の処理までをローカル上で完結してしまう。大きなメリットとしては、大量のデータをサーバにいちいち送信しなくても済むこと、そして通信のレスポンスを待つ必要がないため処理が速いことが挙げられる。
特にローカル処理が可能になったことにより、複雑な処理もローカル上でリアルタイムに行えるため、例えば音声のテキスト変換やリアルタイム翻訳、動画のリアルタイム切り抜き処理など、一昔前では難しかったことが容易になりつつある。こうした新しい機能が実現することで、スマホの買い換えサイクルが長期化傾向に向かう中で、Qualcommが目標にしている「5G対応ペースの加速」がより現実的なものになる。
今回は、Snapdragonの進化により、5G時代のスマートフォンがどう変化するのかを考えたい。
Snapdragon 865はスペックで見ると順当な進化だ。GPU部分をつかさどる「Adreno 630」と、CPU部分をつかさどる「Kryo 585」はともにパフォーマンスまたは消費電力面で2〜3割の強化が行われている。前回Snapdragon 855のDSPである「Hexagon 690」で追加された「Tensor Accelerator」をはじめ、ベクトルやスカラーユニットも同様の機能強化が行われている。
これらを組み合わせたAI処理の総合パフォーマンスは、3MBのシステムメモリやLPDDR5のメモリインタフェースへの対応により大幅に高速化され、AI処理は前モデルの855と比較して15TOPSと2倍程度にまで増加しているという。Snapdragon Tech Summit会場ではベンチマークアプリによるパフォーマンス比較テストが紹介されており、その処理スピードをアピールしていた。
意外と重要なのがSensing Hubの存在だ。各種センサーからの定期的な情報の取り出しや、マイクやカメラを通じての特定プロセスの起動など、最低限の消費電力で待機状態を維持しながらスマホを稼働し続ける用途は増えている。フィットネストラッカーや音声アシスタントなどが典型だが、Sensing Hubはこうした仕組みを補助する役割を持つ。
カメラユニットの低消費電力化についても、単純に画像撮影のバッテリーを抑えるだけでなく、カメラそのものを常用のセンサーの一種として活用することを可能にする。分かりやすいのはARや空間認識の仕組みだが、これら一連の仕組みは、スマートフォンの使い方が、iPhone登場の2007年当初から大きく変わりつつあることを意味していると考える。
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