中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/12/12~12/31]

アマゾン、アップル、グーグルなどが連携し、スマートホームデバイスの規格統一へ ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. アマゾン、アップル、グーグルなどが連携し、スマートホームデバイスの規格統一へ

 アマゾン、アップル、グーグルと短距離無線通信規格を策定する業界団体ジグビーアライアンス(Zigbee Alliance)は、スマートホームデバイス間の互換性を向上させるための統一規格「コネクテッドホームオーバーIP(Connected Home over IP)」を策定するワーキンググループを結成すると発表した。また、このワーキンググループへは、IKEA、NXPセミコンダクターらも参加するとされている(ケータイWatch)。

 ジグビーアライアンスは無線通信方式であるZigbeeという特定の仕様のみを扱う団体だったが、現在は複数のIoTに関わる規格を扱う団体となっているという。そして、このコネクテッドホームオーバーIPも、Zigbee規格とは直接的な関係はなく、「Wi-Fi(802.11ax)とBluetooth Low Energyといった規格を軸に、『IPプロトコル』を使ってホームネットワーク機器を相互接続するための規格になる」とされている(ASCII.jp)。

 こうした規格が決まることによって、スマートフォン、スマートスピーカーなどのユーザーインターフェースを使い、家庭の照明、空調、鍵などのさまざまな機器の制御をメーカーや機種を超えてできるようになることが期待される。ただし、いまのところ、家電メーカーの参加が明らかでないようだが、今後は家電メーカーが採用するかどうかということが注目点になるだろう。

 一方で懸念される点としては、家庭用のさまざまな機器は住宅の建築時に組み込まれていることが多く、その耐用年数などを考えると新規格の製品への置き換えが一気には進まないのではないかという点だ。単にハードウェアを導入するだけでなく、どれだけ消費者ニーズに合致をし、経済的な効果を生み出せるサービスにできるかということも鍵となるだろう。

ニュースソース

  • スマートホームデバイスの統一規格を――Amazon、Apple、Googleなどが連携へ[ケータイWatch
  • アマゾン×アップル×グーグルがZigbee Allianceと組むIoT規格プロジェクト「CHIP」とはなにか[ASCII.jp

2. 数字で振り返る2019年

 2019年を締めくくるにあたり、各メディアではさまざまな観点からのランキングが発表されている。それらのなかから話題を拾ってみよう。

 セキュリティに関する話題として「7payの不正利用事件」(マイナビニュース)や「全国53自治体で起こったシステム障害」(INTERNET Watch)などが注目されている。いうまでもなく、情報通信基盤が実際の生活基盤になっていることから、影響も大きく、こうした話題が注目を集めているものと思われる。

 また、情報流出やマルウェアなどの問題も例年どおり話題となっているが、そのなかで「2019年にはMacデバイスを狙ったマルウェアの検出率が大幅に増加」したことを報じているメディアがある(Gigazine)。これまで、(Windowsと比べ)Mac OSはサイバー攻撃の対象になりにくいともいわれてきたが、もはやそうした都市伝説は過去のものとなったのかもしれない。それどころか、プラットフォームに限らず、かなり巧みな心理戦を仕掛けてくる。

 そして、人気のモバイルアプリの統計ではフェイスブックメッセンジャーなどのメッセージングアプリ、動画や写真SNS、動画再生アプリなどが名前を連ねている。あらためて、モバイル時代の世界的なサービスであることを実感する。

 CNETでは、2010年代という10年間というスコープで見た「日常生活を変えたテクノロジー10選」を発表(CNET Japan)していて、それによれば第1位は「4G LTE」となっている。次いで「iPad、Chromebookなどの新しいPC」「クラウド、データ、人工知能」「コードカッティングによるテレビの変化」などを挙げている。

 今後もモバイルからウェアラブル、データや人工知能、仮想現実などの分野は成長すると見込まれ、さらなる通信基盤の高速・大容量化も実現していくと見込まれる。また、ブロックチェーンに代表されるような技術による金融システムへの影響、情報通信技術の応用による医療技術の進歩などもアカデミアや産業に話題として日々報じられていて、それらによる影響はわれわれ消費者はもちろん、事業者にとってもさらに関心を高めていく分野といえるだろう。

ニュースソース

  • 「2019年の10大セキュリティ事件」1位は7payの不正利用 - マカフィー[マイナビニュース
  • 2019年に最も読まれたニュースは「全国53自治体で起こったシステム障害」について報じた記事 INTERNET Watch年間アクセスランキング[INTERNET Watch
  • Googleによる2019年に急上昇した検索ワードランキング発表 / 7位は京都アニメーション[ガジェット通信
  • 2010年代のアプリダウンロード数トップ10、上位はFacebookのアプリがずらり[CNET Japan
  • Macデバイスを狙ったマルウェアの検出率が大幅に増加していることが判明[Gigazine
  • インターネットの利用環境、「PCのみ」は2年前の7%から2%へと激減。LINE調べ[INTERNET Watch
  • 私たちの日常生活を変えたテクノロジー10選--2010年代を振り返って[CNET Japan

3. 新たな大規模「ポイント&決済経済圏」が出現

 KDDI、ローソン、ロイヤリティマーケティングはポイントサービス「Ponta」について資本・業務提携すると発表した。それにより、「KDDIが発行している『au WALLETポイント』を、2020年5月をめどにPontaポイントに統一。スマホ決済サービス『au PAY』の登録者数を600万人超(19年10月7日時点)からさらに増やす(中略)両サービスを合わせると会員数は1億人以上となり、モバイル口座数は2200万件、年間ポイント付与額は2000億円を超える」(ITmedia)としている。

 ソフトバンクグループ傘下のZホールディングスが手がけるPayPayはLINEとの統合が予定されていて、今後の巨大な経済圏になることが予測されるなか、その対抗軸になっていくだけの規模になるとみられる。2019年、群雄割拠してきたポイントとコード決済の市場だが、2020年からはそれらの統合により、それぞれの勢力拡大の動きに向かいそうだ。そして、その鍵となるのが「携帯通信事業者」という流れか。

ニュースソース

  • 「au PAY」と「Ponta」が共闘 KDDI高橋社長「PayPayの対抗軸になる」と自信[ITmedia
  • ローソンとKDDIの提携でPontaポイントに年2000億円が流れる[ASCII.jp

4. 楽天が電子図書館向け配信サービスから撤退

 5年前の2015年3月、楽天は米国を拠点とする図書館向け電子書籍配信事業者オーバードライブ社の買収を発表した。当時の買収金額はおよそ約4.1億米ドル(約500億円)とされていた。そして、2019年12月25日、楽天はその全株式を米国の投資ファンドAragorn Parent Corporationへと売却することを発表した。売却金額はおよそ400億円とみられる。売却理由は「楽天株式会社グループとして経営資源配分の最適化を図るため」としている(楽天プレスリリース)。

 米国オーバードライブ社は楽天に買収される1年前の2014年5月には日本の電子書籍取次大手のメディアドゥとも業務提携を結んでいて、日本でも図書館向け電子書籍配信サービスを展開しつつある。

 ここのところ、米国では図書館向け電子書籍の配信について、そのビジネスモデル=配信料率が再び問題となっているようだ。出版社にとっては、図書館で書籍を閲覧されることは、小売市場での売り上げに影響を及ぼし、出版事業の圧迫につながっているという主張である。そもそも、歴史的にも米国の大手出版各社は電子書籍に対して積極的とはいえないこともその背景にありそうだ。日本では図書館側でのサービスのニーズ、その予算措置の問題などもあるようだ。出版ビジネスにまつわるデジタルトランスフォーメーションには時間がかかりそうだ。

 なお、オーバードライブは図書館向けの配信サービスであり、楽天の電子書籍配信サービスKoboとは関係がなく、Koboは今後も継続して提供されことに変わりないが、同社の電子書籍関連事業として見ると、その一部からの撤退を決めたともいえるだろう。

ニュースソース

5. 出版社をはじめ、メディアやコンテンツ分野でもブロックチェーンへの取り組みが活発化

 ブロックチェーンというと、通貨的なサービスを連想しやすいばかりか、金融以外の分野ではなかなか取り組みが遅れているという印象もある。しかし、一部の出版業やデジタルコンテンツ分野においては積極的な試みも行われている。

 まず、実業之日本社は岩波書店、河出書房新社、祥伝社、ポプラ社の各社とともに、Jコミックテラスの協力のもと「作品が著作権者確認済みで公開されている証として、『出版ライツ』マークを表示する。ブロックチェーンにより、出版社と著作権者との出版の合意・契約の真正性を担保する」(仮想通貨Watch)という実証実験を行う。また、アカツキが日本のアニメやゲーム、マンガなどのデジタルアート作品の所有権をトークンを活用して販売できるサービスを展開する「Anique」に出資したことも報じられている(The Bridge)。いずれもデジタルコンテンツの健全な流通を進め、新たな経済活動を促進するうえでの取り組みとして今後に注目しておきたい。

 さらに、博報堂はブロックチェーンを使ったテレビ番組のファン育成プラットフォーム「LiveTV-Show」を開発したと発表している(Web担当者フォーラム)。このプラットフォームによって、ファンからの投げ銭やファンへの写真やライブ参加権などの配布などができるようだ。

 国内にとどまらず、海外では米国のビジネス誌フォーブス(Forbes)がイーサリアムのトークンを保有することで広告を非表示化するというサービスを開始した(仮想通貨Watch)。いうなればトークンは有料会員を表す会員証であり、その会員証(権利)は販売したり、譲渡することもできるというもののようだ。これまでの一般的なサブスクリプション型会員制度では、アカウントごとに有料会員か、無料会員かという属性で運用をしていたが、アカウントと有料の広告なし閲覧権を分離して、権利だけを流通させることができるようになったところは興味深い。必要なときにだけ権利を保有するということが消費者のメディア消費意向にどう影響するかが今後のポイントだろう。

ニュースソース

  • 岩波・ポプラら出版5社、書籍の海賊版対策に向け実証実験開始 ~電子書店「マンガ図書館Z」で正規品示す電子署名を表示[仮想通貨Watch
  • ブロックチェーンでアニメなどのアートワーク所有権を管理する「Anique」、アカツキや複数エンジェルが出資[The Bridge
  • 博報堂DYメディアなどがテレビ番組のファン育成プラットフォーム「LiveTV-Show」開発[Web担当者フォーラム
  • 米メディアForbesがイーサリアムを導入。トークン保有で広告を非表示化 ~購入した会員権は2次販売や他人に譲ることも可能[仮想通貨Watch

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。