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「2020年はAIを“社会実装”する」GAFAMに挑むLINEのAI事業

 LINEは、同社のAI技術を企業向けソリューションとして展開するLINE BRAINの説明会を報道陣向けに開催した。

 LINE BRAINは、チャットボットやOCR、音声認識技術などを企業向けソリューションとして提案するサービス。「LINE CONFERENCE 2019」で発表されたもので、今回のメディア向け説明会では昨年来の取り組みと今後に向けた取り組みについて発表された。

技術力で役に立つことが目標

 LINEのLINE BRAIN室 室長の砂金信一郎氏は、LINEがメッセージングアプリの枠を超えて、漫画やミュージック、ニュースなどさまざまなサービスを展開しエコシステムを構築することができたことを紹介し「1日の中でユーザーが起動しているアプリにLINEのサービスを増やしていきたい」と今後の展望を示した。

砂金信一郎氏

 LINEにおいての「コア事業」に当たるメッセージングなどのサービスは広告やコンテンツ課金により安定した収益をもたらしている。一方で戦略事業であるフィンテックやAIなどは、現時点では収益をもたらしているわけではないが、その重要性を高く見ている。

 特にAIについては、2019年にLINEは「AIソリューションカンパニー」になることを宣言している。砂金氏は、LINEのそのほかのAIサービスなどを展開する企業との違いを技術の内製化にあるとした。多くの場合、AIなどのサービスを提供する企業は米国のいわゆる「GAFAM」の括りで呼ばれる企業の技術を利用して自社のサービスに用いている。

LINEのAIから広がる技術。コミュニケーションに特化していることが特長という

 さらには、LINEが高い技術力を持っているとしながらもそれを誇りにするつもりはないとも語った。同社が目指すのは技術によって仕事や生活の役に立つサービスなどをつくることだと砂金氏。

米中のAIカンパニーとどう戦うのか

 AI分野は米国のGAFAMの企業群と中国のバイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)からなる“BAT“がしのぎを削っている。こうした状況を踏まえて、「勝ち目のない戦いをするわけではない」と砂金氏。

 同社のAI戦略は「ユーザー目線」「No.1の技術」「相互補完」の3つという。一般的に、テクノロジーを提供すると1ユーザーに合わせた細かなチューニングは難しい。そのためマジョリティの要求に合わせたものを作るのが普通だ。しかしLINEでは「徹底したユーザー目線」により、ユーザーの困りごとにフォーカスした開発を目指す。

 元来、AIカンパニーではなく、メッセージングアプリをリリースしていたLINEにとって、ユーザーの目線に立って考えるのは得意分野と言える。開発者が開発者の観点で語る「ユーザー目線」に比べ、LINEが持つ「ユーザー目線」には一日の長がある。

 そういった視点を持ち、同社の技術力を武器に「この機能がすごい」と友人に使ってみたいと言いたくなる物を作り出すことがLINEのチャレンジだ。世の中にそうしたサービスを浸透させるために、外部パートナーとも協力してサービスなどを作り上げていくことが同社のAIの戦略。

 LINEの強みとして、日本語などアジア系言語を得意としている部分がある。西洋系の企業が作るサービスは一般的に日本語対応が遅れがちで、対応は後回しになるケースが多い。LINEでは、日本語に特化しているため、アジア地域に先進的な技術を早くもたらせる。ニーズに合わせたチューニングを徹底し、(ユーザーの同意を得た上で)収集したデータという強みを掛け合わせることで外国企業へ対抗していく。

2020年は“社会実装”の年にする

 2020年の目標としては2つあるとした。その1つ目が社会実装だ。「AIの能書きやPoCにはもう(社会は)飽きたのではないか」と砂金氏。2020年からは具体的な使用事例が出てくるだろうとAIの社会実装について意気込みを見せる。LINEの技術とサービスを組み合わせることで新たなものをつくっていくという。

 2つ目はLINEサービスとAIの深い融合があるという。今後はLINEのサービスにさらにAIを組み込み、より便利なサービスとして展開するのが狙い。たとえば企業公式アカウントは、現在はクーポンの配布などに終わっていることがあるが、チャットボットを組み込めれば、更に豊かな体験が実現できる。砂金氏はできたものから順次展開していくが、秋口を目処にいろいろと発表できるのではないかという。

 GAFAMの先手を打ってさまざまな場面にAIを展開していくというLINE。2020年の展開に向けて熱意のある姿勢を見せている。「東アジアの日本でAIをやっている面白い会社がある」という存在感を出していきたいと砂金氏は将来のビジョンを示した。

AI電話対応やOCRなどを商用展開へ

 LINEのLINE BRAIN室 事業企画チームマネージャーの飯塚純也氏は、LINE BRAIN事業の2019年の歩みを紹介した。

飯塚純也氏

 これまでにも同社は60以上のPoC(概念実証)環境を提供してきた。LINE社内やLINE証券などでの使用も含めて、多くの企業がチャットボットを展開。

 俺のGrill&Bakery 大手町と共に、AI電話応対サービス「LINE AICall」(Duetから名称変更)の実験を行うとともに、AI顔認証やAIによるオリジナルフォント生成などを作成する技術などを開発。現段階では実験は終了し、どのような形で展開するかを検討中という。

 今後の展開としては、ビジネス展開として「コンサルティングサービス」を開始するという。PoCを繰り返していくとさまざまな課題が持ち上がった。AI導入にあたっての相談先がないというユーザーの声も多く、持ち上がったサービスだ。また、パートナープログラムとしては、LINE BRAINのソリューションを市場展開するパートナーとのプログラムを推し進めていくという。

 さらに、「AI on SaaS」の第1弾として、1月22日よりサブスクリプション販売を開始する。販売されるAIは「LINE BRAIN CHATBOT」と「LINE BRAIN OCR」の2つ。

 LINE Payなどとの連携がスムーズになるなどのメリットがあり、チャットボットの料金は月額無料~5万円でEnterpriseプランは問い合わせが必要。Trialのみ3ヶ月間の利用期限が設けられている。

 OCRについては、TemplateとGeneralの2つのサービスタイプがあり、Templateの場合、読み取り枚数などに応じて4つのプランがあり、抽出する項目をユーザーが設定できる。Generalの場合は項目は設定できず、読み込んだ画像のすべてのテキストを抽出することになるが、代わりに安価で利用できるという。