公共交通機関の利用を含めた「新たな旅行体験」を提供すべく、KDDIや沖縄セルラー電話を含む9つの企業・団体は3月31日まで、観光型MaaS(※1)専用アプリ「沖縄CLIP トリップ」を利用した実証実験を実施している。合わせて、世界文化遺産にも登録されている「首里城」の火災にあう前の姿を、8K(7680×6320ピクセル)で撮影した映像で確認できる360度VR(仮想現実)視聴体験の提供も始まった。
2月4日、これらを現地で試す機会があったので、本稿で紹介する。
(※1)Mobility as a Service:さまざまな移動手段を連携させることを、1つのサービスとして提供する取り組み
沖縄CLIP トリップは、沖縄の観光やグルメ、観光アクティビティ情報の提供と、各交通網を使った経路検索やタクシー配車、ゆいレール(沖縄都市モノレール)の1日乗車券の購入など、観光に必要な情報と移動をシームレスに利用できるアプリだ。
このアプリを使った実証実験には、KDDIと沖縄セルラー電話の他、沖縄セルラーアグリ&マルシェ、日本トランスオーシャン航空、沖縄都市モノレール、沖東交通事業協同組合、沖縄ITイノベーション戦略センター、JapanTaxi、ナビタイムジャパンが参画している。
沖縄CLIP トリップの主な狙いは、観光客の増加によりレンタカーの利用が伸びる一方で、公共交通機関の利用が少なく、それゆえに道路混雑が東名阪の3大都市圏並みの水準となっている沖縄島の現状を改善することにある。
特に国内からの観光客は、那覇空港からの移動でレンタカーを利用する割合が47%と高水準にある。その特性を踏まえて、このアプリでは、観光情報を提供するだけではなく、そのスポットに行くための公共交通機関を使った経路案内やタクシー配車サービスも提供することで、公共交通機関を活用することを促す。
実証実験の期間中は、アプリからゆいレールの1日乗車券を購入すると半額の400円(税込み)で購入できるキャンペーンと、アプリから配車したタクシーの運賃を300円引き(税込み)とするキャンペーンも実施している。両キャンペーンの終了予定は未定で、利用状況によっては早期に終了する可能性もあるという。
なお、このアプリの母体となっているWebサービス「沖縄CLIP」は、写真をふんだんに使った観光情報をチェックできることが特徴で、沖縄セルラー電話の企業内ベンチャーとして発足した沖縄セルラーアグリ&マルシェが2013年7月から主催(運営)している。
沖縄CLIP トリップでは、沖縄CLIPに掲載された観光情報を見ながら、その場所に行くための経路案内やタクシーの配車をワンストップで行える。「食べログ」に掲載されている飲食店の情報も合わせてチェック可能だ。
目的地が決まったら、その場所までの経路案内を表示できる。この機能はナビタイムのエンジンを利用したものだ。経路案内からゆいレールの1日乗車券を購入したり、タクシーを手配したりすることも可能だ。タクシー配車はJapanTaxiのエンジンを利用している。
ただし、1日乗車券の購入やタクシー配車など、決済が必要な機能を利用する場合は、事前にクレジットカードを登録しておく必要がある。
実際に沖縄CLIPトリップを利用してみると、観光情報については独自記事が充実しており、下調べをせずに沖縄島に来たとしても観光地やグルメスポットを簡単に探し出せそうだ。ただ、トップページのスポット情報が写真のみで抽象的な点と、具体的な目的(≒目的地)を持って訪れた人に対する検索機能やルート提案機能が弱い点は気になる。
とはいえ、市街地から離れた観光地へ行く際に、開館(閉館)時間や最適な公共交通機関をシームレスに調べられるのは便利だ。
ゆいレールの1日乗車券は、画面を駅員改札で見せる方式となっている。ゆいレールの改札機はQRコード乗車券や独自のICカード乗車券「OKIKA(オキカ)」に対応していて、2020年春からはSuicaを始めとする「交通系ICカード」も利用可能となる予定だが、今回の実証実験ではこれらの仕組みは利用しない。
今回の実証実験は2月4日から3月31日までと短期間だが、実証実験の結果を踏まえてアプリの改良などを行い、実証実験などを再度実施する考えはあるという。
実際問題として、沖縄島の市街地では、幹線道路から街中まで自動車の交通量が多く、特に通勤時間帯になると渋滞に巻き込まれることが非常に多い。このアプリをうまく使えば、不慣れな土地でも公共交通機関を使って有名な観光地へと行けるようになるはずだ。今後に期待したい。
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