法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「Galaxy Z Flip」「Galaxy S20」発表、Galaxy UNPACKED 2020で見せた5G時代へのサムスンの意気込み

サムスンのUK Mobile Product MarketingのREBECCA HIRST氏が登壇し、Galaxy Z Flipを発表

 2月11日、米国サンフランシスコで、サムスンは発表イベント「Galaxy UNPACKED 2020」を開催し、5G対応のフラッグシップモデル「Galaxy S20」シリーズ、縦折りフォルダブル「Galaxy Z Flip」を発表した。本誌ではすでにそれぞれの製品の速報記事をお伝えしたが、今回は実際に現地で実機を見た印象などを踏まえながら、イベントの内容と背景を振り返って見よう。

MWC Barcelona 2020の行方が見えない中

 サムスンは例年、2月~3月と8月~9月にフラッグシップモデルをグローバル向けに発表してきた。2月~3月はGalaxy Sシリーズ、8月~9月はGalaxy Noteシリーズで、当初は同じ時期に欧州で開催される「MWC」(バルセロナ)と「IFA」(ベルリン)に合わせる形で、「Galaxy UNPACKED」と題した発表イベントを開催してきた。

 ところが、製品の開発スケジュールの影響などもあり、ここ数年、Galaxy UNPACKEDがMWCやIFAから少しずれた時期に開催されることが増えてきた。なかでも2019年はMWCが開催される直前に、米国サンフランシスコでGalaxy UNPACKED 2019を開催し、業界を驚かせた。多くの国と地域のメディアや各携帯電話会社、パートナー企業からは「どうして、この時期に?」という声も聞かれるほど、唐突な印象だった。

 しかも「Galaxy UNPACKED 2019」では、フラッグシップモデルのGalaxy S10シリーズに加え、同社初のフォルダブルスマートフォンの「Galaxy Fold」をはじめてお披露目し、各方面からたいへんな注目を集めた。Galaxy Foldはその後、改良を加えられたモデルが一部の国と地域で発売され、国内ではauから発売された。

 そして、2020年は昨年よりも一週間ほど早い2月11日に「Galaxy UNPACKED 2020」が開催されることが明らかになった。昨年に比べ、記者や関係者のスケジュールはそれほどタイトではなくなったが、「Galaxy UNPACKED 2020」開催を前に、モバイル業界は別の話題でざわつくことになってしまった。今まさに世界中で関心を集めている新型コロナウイルスの影響で、2月24日から開催予定の「MWC Barcelona 2020」がどうなるかが注目されていたためだ。

 Galaxy UNPACKED 2020で発表される新製品が気になる一方、MWC Barcelona 2020のゆくえが見えず、渡米したライター諸氏の間では「○○が参加中止」「△△からメールが来た」といった情報が絶えずやり取りされていた。もちろん、サムスン自身の出展についても前日の時点では明確になっておらず、「Galaxy UNPACKED 2020の最後に何かアナウンスされるのではないか」といった憶測も聞かれた。

第二世代フォルダブル「Galaxy Z Flip」を発表

 そして、いよいよGalaxy UNPACKED 2020が2月11日、米国サンフランシスコの「Palace of Fine Arts」で開催された。Palace of Fine Artsは1915年のサンフランシスコ万国博覧会のために建設されたもので、美しいロマネスク建築が立ち並ぶ趣のある史跡となっている。

 まず、プレゼンテーションの冒頭はサムスンのUK Mobile Product MarketingのREBECCA HIRSTが登壇し、かねてから噂されていた縦折りフォルダブルの「Galaxy Z Flip」を紹介した。速報記事でもお伝えしたが、昨年のGalaxy Foldは発売された国と地域で注目を集めたものの、男女比では圧倒的に男性が多かったという。しかし、フォルダブルという形状に期待する女性ユーザーも存在するため、今回のGalaxy Z Flipでは縦折りのボディを採用し、コンパクトなフォルダブルスマートフォンに仕上げている。女性のプレゼンターが登壇したのもこうした方向性を意識してのものかもしれない。ボディカラーもミラーブラックやミラーゴールドのほかに、女性を意識したミラーパープルがラインアップされている。

ステージ上でノリノリの笑顔でセルフィーをデモ

 Galaxy Z Flipは完全に開いたときのサイズ感がGalaxy S10+とほぼ同じで、これを折りたたむ形状となっている。折りたたんだときのサイズはちょうど女性の化粧品のコンパクトと同じくらいだ。折りたたんだ状態の厚みはあるものの、コンパクトで持ちやすく、ボディ側面をラウンドさせることで、本体と閉じたときにも指がかりをよくして、開きやすくしている。

 従来のGalaxy Foldで得られたノウハウを活かして開発されたGalaxy Z Flipだが、フォルダブルを実現するうえでカギとなる技術も改良が図られている。たとえば、ヒンジ部分はホコリを入りにくくするため、内部にブラシを組み込んでいたり、有機ELディスプレイを保護するために極薄のガラスを部材メーカーと共同で開発するなど、さまざまな工夫が取り込まれている。ちなみに、ディスプレイに極薄ガラスが採用されたことで、今秋、登場が期待されるGalaxy Noteの次期モデルは、Galaxy Foldのような折りたたみスタイルになるのではないかという指摘もある。

 機能面で意外に面白いのが端末をたたんだ状態で、電源ボタンを二度、連打すると、カメラが起動し、自分撮りができる。背面側(トップパネル側)のメインカメラの横に、サブディスプレイが装備されており、これを自撮りファインダーとして使うことが可能だ。ちなみに、インカメラを利用するとき、端末を少し折り曲げた状態で机などに置き、タイマー(ワンハンドシャッターも使える)で撮影するといった使い方も便利だ。

 気になる価格については米国向けが1380ドルで、2月14日に発売されている。国内については2月17日も発表された通り、auが独占で販売することになり、価格は17万9360円に設定された。

米国向けは1380ドルで、2月14日から発売

 実際の使い勝手については、イベント終了後のタッチ&トライで試してみたが、Galaxy Foldと違い、折りたたみ端末として、自然に扱えるサイズ感にまとめられている印象を得た。

 アプリなどの操作性についても基本的にはGalaxy S10シリーズの流れを継承しており、Galaxy Foldのときのような特別なユーザビリティは感じられなくなっている。それだけ、誰にでも受け入れられる端末に仕上げられたということだろう。

 使い勝手のヒントはおそらく端末をやや折り曲げた状態で、机などに置いて、使うスタイルで、これがうまく受け入れられると、縦折りフォルダブルの新しい可能性が拡がることになるかもしれない。

Galaxy Z Flipは折りたたみの途中で自由に止められるFlex Modeを搭載

Galaxy S20シリーズはすべて5Gに

 次に発表されたのがフラッグシップモデルの「Galaxy S20シリーズ」になる。サムスンのGalaxy UNPACKEDではこれまで同社のIT&モバイルコミュニケーションズ部門無線事業部トップのD.J.Koh氏が登壇していたが、今回から今年1月に同部門の社長に就任した後任の盧泰文(ノ・テムン/Dr. Tae Moon Roh)氏が登壇し、製品を発表した。ちなみに、盧泰文氏はこれまでGalaxyシリーズのスマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末などの開発を陣頭指揮してきた人物で、同部門の社長としては最年少で就任している。

サムスンのIT&モバイルコミュニケーションズ部門無線事業部社長の盧泰文氏が登壇し、Galaxy S20シリーズを発表

 Galaxy Sシリーズは初代モデル以降、「Galaxy S II」「Galaxy S9」のように数字を積み重ねる形で、ネーミングされ、昨年はGalaxy S10シリーズがリリースされていた。その後継モデルとなるため、今年は「11」が与えられるかと思いきや、「Galaxy S20」シリーズというネーミングが与えられた。これは昨年、Galaxy Sシリーズが10周年を迎え、新しい次の時代へ進むことを示すため、「20」という数字が当てられたという。

 今回発表されたGalaxy S20シリーズは「Galaxy S20」「Galaxy S20+」「Galaxy S20 Ultra」という3モデルから構成される。3機種はディスプレイサイズが6.2インチ、6.7インチ、6.9インチと違うほか、カメラの仕様なども異なる。昨年のGalaxy S10シリーズでは日本未発売だった「Galaxy S10e」という普及モデルがラインアップされていたが、今年はより大画面のモデルをラインアップに加えてきた。

Galaxy S20シリーズの3機種。ディスプレイサイズはGalaxy S20が6.2インチ、Galaxy S20+が6.7インチ、Galaxy S20 Ultraが6.9インチ。フロントカメラはいずれもパンチホール
Galaxy S20の本体前面
Galaxy S20の左前面。Bixbyボタンはなくなり、音量キーは右側面に移動した
右側面には電源キーと音量キーを装備
Galaxy S20の背面。カメラ部がかなり目立つデザイン
Galaxy S20+の本体前面。ディスプレイがほぼ前面を覆うデザイン
S20+の背面左上にカメラを内蔵。3つのカメラに加え、2つのToFカメラを搭載
Galaxy S20 Ultraの本体前面。さすがに6.9インチともなると、筆者の手にも大きく感じられるが、十分に持てるサイズ
Galaxy S20 Ultraの背面。カメラ部はひと回り大きくなり、突起も少し厚め
Galaxy S20 Ultraの本体上部。SIMカードトレイを内蔵。カメラ部の厚みがわかる
Galaxy S20 Ultraの本体下部。外部接続端子はUSB Type-C。3.5mmイヤホン端子はない
東京オリンピック・パラリンピックで選手に提供されるGalaxy S20+ Athlete Editionも展示されていた

全機種5G対応に

 今回のGalaxy S20シリーズで、もっとも特徴的なのは、やはり、全機種5G対応ということだろう。サムスンは昨年来、5Gサービスが提供されている国と地域向けに、5G対応端末を供給し、昨年11月の時点で5G対応端末でトップシェアを獲得したとしている。今回のGalaxy S20シリーズではフラッグシップモデルを5G対応端末のみで構成してきたことで、端末ラインアップをいよいよ本格的に5Gにシフトしはじめたと言えそうだ。

Galaxy S20シリーズは3機種をラインアップ。全機種5G対応

 ところで、5Gについては対応する周波数帯域によって、扱いやすさや製品化のしやすさなどに違いがあることが知られている。

 現在の4Gで利用する周波数に近い3.6GHz帯や4.5GHz帯などは「Sub6」と呼ばれ、比較的、これまでのノウハウが活かすことができると言われている。これに対し、「ミリ波」や「mmWave」とも呼ばれる28GHz帯はこれまで携帯電話などで利用してこなかった周波数帯域で、各携帯電話会社をはじめ、基地局などを手がけるメーカーや端末メーカーもさまざまなトライをくり返しながら、実用化に取り組んでいる。

 今回発表されたGalaxy S20シリーズの内、Galaxy S20は5G対応がSub6のみであるのに対し、Galaxy S20+とGalaxy S20 UltraはSub6とミリ波の両対応となっている。国内向けにはどのモデルが採用されるのかはわからないが、よりパフォーマンスを求めるなら、Galaxy S20+とGalaxy S20 Ultraのいずれかを選ぶことになりそうだ。

注目のカメラ機能

 Galaxy S20シリーズで、もうひとつ注力されているのがカメラだ。

 スマートフォンのカメラについては、サムスンやファーウェイ、ソニー、OPPO、シャオミなど、各社の競争が一段と激化しているが、Galaxy S20シリーズでは最上位のGalaxy S20 Ultraで、折曲レンズと1億800万画素のイメージセンサーの組み合わせにより、10倍のハイブリッド光学ズームと最大100倍の超解像ズームを実現するなど、これまでにない進化を遂げている。

108MPイメージセンサーでは9つの画素をひとつの画素として利用する「9-in-1 Pixel Binning」により、ローライトでの撮影を強化

 この1億800万画素のイメージセンサーはサムスン製のもので、シャオミなどがいち早く採用した実績があるが、画像処理エンジンなどが違い、Galaxy S20 Ultraでは新たに「Nona Binning」という技術を採用し、ローライトの環境下でも明るく撮影できる。

 Nona Binningは格子状に並ぶイメージセンサーの内、9つの画素(3×3)をひとつの画素として使い、より多くの光を取り込める技術になる。「Binning」と呼ばれる画素をまとめて利用する手法は国内でもソニーやシャープなどが採用してきたが、いずれも4つの画素(2×2)をまとめるもので、Galaxy S20 Ultraで採用された9つの画素をまとめる手法は今までにないものになる。

 ズームについてはGalaxy S20とGalaxy S20+でも3倍のハイブリッド光学ズームと最大30倍の超解像ズームに対応する。

10倍のハイブリッド光学ズームに加え、最大100倍の超解像ズームにも対応

 こうしたハイスペックのカメラを活かすものとして、今回のGalaxy S20シリーズは3機種ともに、8Kでの動画撮影に対応する。8Kについては家庭用テレビでも一部のハイエンドモデルが対応しているのみで、映像コンテンツも少ないため、まだ普及期には入っていない印象だが、フルHDの16倍の解像度はかなりきれいであり、この解像度の動画をスマートフォンのみで撮影できるのは技術的にも興味深い。

 サムスンによれば、8Kで撮影した映像はサムスン製8Kテレビに映し出すことができるほか、撮影した動画一部を切り取り、33Mピクセルの写真を生成するといった使い方ができるという。サムスンとしては5Gネットワークを活かす機能のひとつとして、8K動画を訴求したい考えだが、解像度が8Kともなれば、ファイルサイズがかなり大きいうえ、SNSで共有するにしてもファイル変換などが必要になるため、どこまでユーザーが利用するのかは未知数だ。

 また、カメラ周りの新しい機能としては、「シングルテイク」と呼ばれる連続撮影モードが注目される。カメラを起動し、シングルテイクで撮影すると、さまざまなエフェクト加工がされた写真や動画が生成されるしくみだ。SNSなどに写真や映像を投稿するときにも役立つ機能と言えそうだ。

 ちなみに、今回のGalaxy UNPACKED 2020はストリーミング中継が提供されており、ステージの目の前には移動式のカメラが設置されていたが、実はこの中にはGalaxy S20シリーズが組み込まれており、中継映像の一部はGalaxy S20シリーズで撮影されていたものであることが明らかにされた。

Netflixなどと連携

 Galaxy S20シリーズにはこの他にもさまざまな機能が搭載されているが、今回のGalaxy UNPACKED 2020ではGalaxy S20シリーズの5G対応をサポートするため、NetflixやGoogle、Microsoftなどとの連携が紹介され、各社のエグゼクティブも登壇した。

5GネットワークではNetflixなどの動画コンテンツも瞬時にダウンロード可能

 発売される国と地域によって、実際の連携は違ってくるだろうが、アップルがApple TV+やApple Arcadeで自前のコンテンツサービスを拡充しているのに対し、サムスンは主要コンテンツプロバイダーやサービスプロバイダーと連携することで、ユーザーの利用環境を整えていこうという姿勢を示したものとも言えそうだ。

S10シリーズも価格改定、どう動くか

 プレゼンテーションの最後には価格が発表されたが、意外なことに従来のGalaxy S10シリーズも値下げした価格が示され、併売していくことが明らかにされた。

Galaxy S20シリーズの価格に加え、従来のGalaxy S10シリーズの値下げした価格も発表された

 これは5Gサービスが提供されている国と地域が限られており、当面は4Gサービスが継続する国と地域に対しては従来モデルを販売しようという考えのようだ。国内向けはどういう扱いになるのかはわからないが、現在の市場環境を鑑みると、Galaxy S10シリーズが各携帯電話会社で安価に販売されたり、オープン市場向けにSIMフリーモデルが投入されるようになると、ちょっと面白い動きになるかもしれない。

次期主力はGalaxy Z Flipか、Galaxy S20シリーズか

 今回のGalaxy UNPACKED 2020は冒頭でも触れたように、世界最大のモバイル業界のイベントであるMWC Barcelona 2020が開催されるかどうかに、関係者がやきもきする中で開かれた。

 しかし、いざGalaxy UNPACKED 2020が始まってみれば、その発表内容を見てもわかるように、ユーザーがワクワクする製品を見事に揃えてきた印象だ。なかでもGalaxy Z Flipはイベントに招かれたGalaxy Membersの一般ユーザー中でも女性に非常に人気が高かったようで、イベント後のタッチ&トライコーナーでは多くの女性がGalaxy Z Flipを手に取り、ボディの開閉などを試していた。

本体と閉じると、筆者の手のひらに収まるコンパクトサイズ

 一方のGalaxy S20シリーズはこれまでのGalaxy Sシリーズの流れを継承しながら、全機種5G対応となり、カメラ機能を中心に大幅な強化を図ってきた印象だ。5Gについては国内での正式なサービス開始が3月に予定されており、おそらく順当に行けば、Galaxy S20シリーズがNTTドコモやauから発売されることになりそうだ。ただし、3機種すべてが投入されるかどうかは定かではない。一部の情報筋によれば、国内向けはGalaxy S20とGalaxy S20+のみに限られるという情報もあり、各社の対応が注目される。

 そして、Galaxy UNPACKED 2020終了後、サムスンはMWC Barcelona 2020参加について、何もアナウンスをしていなかったが、現地時間の翌12日に主催者のGSMAから中止が発表されることになった。結果的に多くのメーカーはMWC期間中に予定していたイベントを開催することができず、独自のイベントを開催したサムスンのみが新製品ラインアップをグローバル市場にアピールできた形となった。

同時発表のGalaxy Buds+。アンプが内蔵されるなどの強化が図られている