インタビュー

mineoの新サービス「ゆずるね。」はどれだけ使われている? オプテージの福留氏に聞く

 宣言した人のうち9割が本当にランチタイム、通信しなくなった――そんなエピソードを教えてくれたのは、大阪に拠点を置く通信事業者、オプテージの福留康和氏だ。

 福留氏は、モバイル事業戦略部長として、MVNO型携帯電話サービスの「mineo」をリードする立場。

福留氏。オンラインでのインタビューとなった

 「ランチタイムには使わない」と宣言すれば特典を貰えるという「ゆずるね。」は、どんな価値をもたらそうとしているのだろうか。

利用者は週平均2万6000人

 福留氏によれば3月23日にスタートした「ゆずるね。」は現在週平均で約2万6000人が宣言している。その宣言のうち実際に譲ったというユーザーは9割にも及ぶ。

 この実績は、mineoが掲げる目標の「5万人」の約半分に達する。その目標値は、mineoが2019年9月から手掛けている「エココース」の利用動向をもとにはじき出した。

 エココースは、特定の時間帯に速度制限が適用されることで毎月の利用料が割引されるという内容。つまり「使わない時間帯を設けることで何かしらの恩恵を受けられる」という仕組みが「ゆずるね。」と通じる形であり、エココースの利用者数が約10万人であることから、ひとまず目標とそしてそのうち半分程度を掲げた。

ランチタイムに使わない

 福留氏によれば、「ゆずるね。」のユーザーは、ランチタイムの通信量が、全体平均の1/5以下にまで減少しているという。

 1日を通じた利用状況の推移を示すグラフを見ると、昼間の時間帯だけがくんと落ち込み、利用を控えていることがよく分かる。

特典を得た人は?

 特典の利用実績を見ると5回達成でもらえる「100MB」は2万7010人。

 10回達成でもらえる「23時~翌朝7時までパケット通信を消費しなくなる」という特典は1万9648名。そして15回達成でもらえる「200MB」は1万2315名、20回達成の24時間高速通信できるプレミアム1dayパスは3151名となっている。

 ユーザーからは「本当にとても素敵なサービス」「良い企画ですね」「素晴らしい取り組み」といった賛辞が寄せられた。

機能的価値ではなく別の価値

 全体の通信トラフィックのピークを迎えるであろうランチタイム。

 その時間に利用を控える人が増えれば通信事業者という観点で見れば設備投資の効率化という見方もできる。ピークを低くし、トラフィックの平準化を目指す、といった格好だ。

 だが現在120万会員に達したmineoユーザーのうち、「ゆずるね。」宣言した約2万6000人というユーザー数はごく一部にすぎない。

 譲られた側(普段通りに使う人)にとっても、体感できるほどの効果はあったのか? という問いに、福留氏は「そこまでの効果はまだ出ていない」と率直に認める。

 だがmineoが「ゆずるね。」というサービスで提供したい価値はそうした機能面での勝ちではないのだという。

「機能」「情緒」「社会」3つの価値

 同社ではかねてより「Fun with Fans!」というブランドステートメントを掲げている。ユーザーと共に新たな価値を提供しユーザーがマイネオのファンになってもらうことを目指す、という考え方だ。

 この戦略においてmineoが実現しようとする価値は、「機能的な価値」「情緒的な価値」「社会的な価値」という3つ。

 機能的な価値とは、そのまま、通信サービスとしての使いやすさ、使い勝手を表すもの。

 情緒的な価値は、コミュニティサイトの「マイネ王」を通じた楽しさなどの創出。

 そして社会的な価値は、「災害支援タンク」などで、他のユーザーのために貢献する、といったサービスで実現する。災害支援タンクは、余ったデータ容量をほかのユーザーが1カ月1GBまで引き出せる「フリータンク」を、災害時の被災地域のユーザーであれば10GBまで引き出せる仕組み。

 「ゆずるね。」で目指したのは、社会的価値の提供だ。ユーザー自身が選んだ行動によって、ほかのユーザーの利便性向上につながるという流れで、「人の役に立てた」という実感を得られる。

 特に社会的な価値は、他のMVNOでは見られないユニークなもの。スマートフォンとその通信回線を使うだけではなく、それ以上の新たな価値を「ゆずるね。」で実現しようとしているわけだ。

 そのため福留氏は現在の利用者であってもmineoとしては一定程度の目標を達したと見ているのだという

福留氏
「『ゆずるね。』では確かに体感として快適になったかどうかというのは実感を得られないかもしれません。ただ『ゆずるね。』で目指しているのは社会的な価値の向上です。譲る方と譲られた方々との間の助け合い思いやりを目指したサービスなんです」

機能面の向上「パケット放題」の利用動向

 社会的な価値だけではなく機能面での価値向上を目指したのが同じく3月にスタートした「パケット放題」だ。

 月額350円で通信速度が最大500kbpsとなりパケットを消費しないというオプションサービス。音声通話付きのデュアルタイプだけではなくデータ通信のみのシングルタイプでも利用できるという柔軟性も特徴のひとつだ。

 3月3日のサービス開始以来、5月10日までの約2カ月間で利用者数は約4万契約に達した。これは全120万回線の約3%にあたる。

 もともとmineoでは「mineoスイッチ」と言う機能を用意していた。ONにすれば、200kbpsで使い放題というサービスでこれまで10万人ほど利用されていた。

 パケット放題の利用は、その半分程度になるのでは、とオプテージでは見立てた。つまり「パケット放題」の目標件数は5万件だったわけだが、その8割にあたる4万契約を早々に達成したことになる。

 新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークになったと思われるユーザーからは、「500kbpsあればIP電話やテレビ会議もそれなりに使える」といった反響もあったという。

6月からキャンペーン

 これを受けてmineoでは、6月からキャンペーンを実施する。

 たとえばシングルタイプでパケット放題を利用すると通常は月額1050円だが、キャンペーンでは計980円で「500kbpsの使い放題」として利用できるようになる。

 2月からスタートした「6カ月間4GBで710円」というキャンペーンでは純増数が約3倍に増加。5月末まで実施されており、そのキャンペーンに続いて提供されるという格好だ。

オンラインイベントも視野

 「fun with Fans!」を掲げるmineoは、これまでリアルイベントとしてファンとの集いを実施してきた。

 福留氏は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、同社ではmineoならではの取り組みを検討している。

楽天の影響は? 5G、eSIMについても

 この春、モバイル業界では楽天モバイルの本格サービス開始が大きなトピックとなった。だが新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、mineoの契約数に対しては大きな影響は見られないと福留氏。

 この背景には実店舗の営業時間短縮や一時休止といった影響もあるのではと分析。たとえば契約数は堅調な伸びを示しつつ、端末販売については若干落ち込んだと説明。これは市場全体での傾向との見方も示し、その背景として、新型コロナウイルス感染症の影響による実店舗の業務縮小などが影響しているのではとの見立てを示した。

 大手キャリアがスタートした5Gについては、MVNOとしてできるだけ早く取り組みたいとコメント。

 このほか、総務省から大手携帯会社に対してMVNO向けに開放を迫ったeSIMについては「市場の活性化としても、利用者の利便性向上という面でも、重要な取り組み。まずはMVNO全体として働きかけていくフェーズではないか」とした。