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「音のVR」がライブで届けた東京混声合唱団と学生の歌声、その仕組みは

 合唱コンクールに出られない学生と共にプロの混成団が歌声をVRで届ける――そんな試みが7月31日、東京芸術劇場で催された。

 舞台に立ったのは、1956年創設の東京混声合唱団。

 5カ月ぶりの公演となる「コン・コン・コンサート2020」は、ソーシャルディスタンスを維持すべく観客数を500人に絞りながら、同時にYouTubeでその模様が配信された。

 さらに、前半の終わり間際には、KDDIが協力して、「音のVR」というiOSアプリを通じて、東京混声合唱団と、事前に収録された中高生4校の合唱部の歌声が届けられた。

「音のVR」でライブ配信

 これまでも「音のVR」での配信は提供されてきたが、ライブ中継は初めて。会場でのその仕組みはどのようなものであったのか。

 「音のVR」でライブ配信されたのは東京混声合唱団が歌う2曲。ライブを終えた8月3日現在、オンデマンド配信されている。

 ステージ上には360度捉えられる球状のカメラが設置。360度カメラで捕らえられた映像は、同じくステージに置かれた6つのマイクの捉えた音とともに配信サーバーへ送られる。

 音のVRでは、現在、最大24chの音を扱える。しかし今回は、6つのマイク。これは、合唱という形態がまとまって歌うことから、細かくマイクを配すよりも、等間隔に設置して場を録る、という形にしたためだという。

 アプリで楽しむ際には、聞きたい方向に向けてズームするとその場の声がより大きく聞こえる。見ている範囲に応じた音を、アプリ上で作り直している。

指揮者とコンマスに聞く

 「音のVR」での配信、そして何よりも5カ月ぶりの公演となったことは、東京混声合唱団にとってどのような意義があるのか。公演前に聞いた。

 コンサートマスターの德永祐一氏は、「期待と不安。アマチュアの方々には歌いたくても歌えない環境にある。今回の取り組みは、今後に向けたきっかけになればと思う。しばらくメンバー(団員)は顔を合わせていなかったが、2日間の練習で息を合わせた」という。

「歌えるマスク」を付けた德永氏

 そして音のVRについて德永氏は「規模の大きな合唱を手のひらで鑑賞でき、身近に感じられるのでは。一般的なコンサートは会場へ来ていただくが、音のVRであれば私たちが訪れるという感覚」と期待感を示す。

 続けて指揮者のキハラ良尚氏は、「往来の自粛が明け、6月ごろから収録はしてきたが、公演は久しぶり。これまでがどれだけ幸せだったか。今回も幸せをかみしめながら臨みたい」と笑顔でコメント。

指揮者のキハラ氏

 音のVRについても「期待のほうが大きい。東混の設立当時、日本の合唱曲はほとんどなく、これまでずっと(合唱曲の)移植を続ける、といった先端的な取り組みを続けてきた。今回もテクノロジーでの先端に合唱として関われることは可能性を感じる。たとえば(ズームすることで)ソプラノ、アルトを強調して聴ける。練習方法としても活用できる」と練習にも活用できると語っていた。

コンクールがなくなった学生とともに

 31日の舞台上には、東京混声合唱団のメンバーに加え、スクリーンが設置され、同じ曲を歌う中高生の映像も流れた。

 KDDIデジタルマーケティング部のマネージャーである宮崎清志氏によれば、7月上旬の会議の中でリモートで何かできないかと企画が浮上。

 東京混声合唱団に紹介してもらう形で、合唱部のある学校に協力を打診し、出演の許諾を得られた学校に赴いて、学生たちが歌う様子を収録した。事前、ピアノと指揮者の映像を送り、学生ひとりひとりが個人練習を重ねた上で収録に臨んだ。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、学生向けのコンクールが中止となっていたが、参加した学生からは今回の収録が目標のひとつとなり、励みになった、という声が寄せられたという。

 大会がなくなり、今回の収録で部活動を終えることになった3年生もいた。宮崎氏は、収録に訪れたとある学校で、そんな3年生から、新たに部を引っ張っていく2年生へバトンが渡される場面に居合わせたと教えてくれた。

 今後、5Gが広がれば、今回と同等の企画を遅延なく、より多くの人が楽しめるようになる。宮崎氏は「全国の合唱好きな人にもエール送れたら」と語っていた。