ケータイ用語の基礎知識

第965回:クリーンネットワークとは

自由世界への「中国の脅威」に対抗・米国務省の対処

 2020年、米国国務省は、米国民のプライバシーや、企業の最も機密性の高い情報を含む資産を保護するため、「クリーンネットワーク」という取り組みを始めました。

 これは、「攻撃的な侵入をする、権威主義的で悪質な行為者」からの、5Gをはじめとするネットワークでのプライバシー・セキュリティ・人権、そして結果的には自由な世界そのものへの脅威に対処する取り組みです。

 米国の言う「悪質な行為者」とは、中華人民共和国(中国)を統治する「中国共産党」を指しています。その影響下にあると見られる企業らの、米国とその関係国での5Gネットワークやネットワーククラウドでの活動を制限します。

 また、ポンペオ国務長官がツイッターで「私たちは自由を愛する国々や、企業に(クリーンネットワークに)参加するよう呼びかけます」と投稿したように、米国務省は、各国の省庁・企業や団体にもクリーンネットワークに参加、具体的には、これら中国共産党の影響下にあるとみられる企業と関わりを持たない、製品を購入しないことなどを呼びかけています。

 この米国務省による取り組みで、クリーンネットワークには2020年9月現在、世界で 30カ国以上の国から企業が参加したと米国務省より評価されています。例としてはスペインのTelefonica、フランスのOrange、Telco Italia、インドのReliance、韓国のSKとKT、そして日本、シンガポール、オーストラリア、アメリカのすべての通信会社といった大規模な通信会社が含まれます。

クリーンネットワークを構成する6つの「クリーン」

 クリーンネットワーク構想自体は、以下に挙げる6つの項目から成っています。

「クリーンネットワーク」を構成する6つの「クリーン」(米国防省Webサイトより)

 2020年4月、最初に米国防総省は、米国の外交施設に出入りするすべての5Gネットワークトラフィックに対して、「クリーンパス(Clean Path)」の要求を開始すると発表しました。

(1)クリーンパス(Clean Path)

「クリーン・パス」とは、中国共産党の指令に準拠することが義務付けられ「信頼できない」と考えられるベンダーの伝送・制御・計算・ストレージ機器を一切使用しない5Gの通信経路のことです。
これによって米国の重要インフラへ、「悪質な行為者」がサービスを妨害・操作・拒否といった操作ができないセキュリティを用意しよう、というわけです。
なお、2020年9月現在、「信頼できないベンダー」として具体的にはファーウェイ(華為技術)・ZTE(中興通訊)など5社が排除対象となっていて、これは、今後も国防長官がFBIなどと協議の上、追加可能となっています。

 また、次のステップとして2020年8月、米国防総省はクリーンネットワークプログラムに関して以下の5項目を追加し拡大することを発表し、取り組むとしました。

(2)クリーンキャリア(Clean Carrier)

まず、中国共産党の影響下にある通信事業者は、米国の国家安全保障に危険をもたらすため、米国との間で国際電気通信サービスを提供させるべきではないとしました。つまり、米国の通信網に接続できないようにする、というのです。
実際に、このためにポンペオ長官らは、連邦通信委員会(FCC)に対して中国電信(China Telecom)など中国の4事業者の、米国と海外の通信サービスの認可取り消しを要請しました。そして、FCCは認可取消勧告・中国政府に管理されていないことをFCCに納得させる証明を30日以内に提出することを命令しています。

(3)クリーンストア(Clean Store)

第二に、米国のモバイルアプリストアから「信頼できないアプリ」を削除する、としています。理由は、一般市民にとって最も機密性の高い「個人情報」や「ビジネス情報」が、「悪質行為者」の利益のために携帯電話から盗られる可能性から保護されなければならないためです。
米国務省曰く、中国製アプリが人々のプライバシーを脅かし、ウイルスを増殖させ、コンテンツを検閲し、プロパガンダや偽情報を拡散させるとしています。
この政策に関しては、8月に米国で「TikTok」「WeChat(微信)」の取引禁止を命ずる大統領令が出されたことが例として挙げられるでしょう。TikTok、WeChatにユーザーの位置情報やメッセージ履歴などを自動収集し、スパイ活動を行う恐れがあるとされたのです。

(4)クリーンアプリ(Clean App)

中国共産党の指令下にあり「信頼できない」と考えられるスマートフォンメーカーの製品が中国共産党による監視の一翼を担っている、と米国務省は考えています。そのスマートフォンやタブレットといった製品が、米国の人気アプリをダウンロードしたりプリインストールしたりするのを防ぐ取り組みが「クリーンアプリ」です。
これに関しては、すでに昨年5月にエンティティリストの対象となり、禁輸対象となった米国原産のアプリ、たとえばGoogle製のアプリなどを最新のファーウェイ製のスマートフォンでは搭載できなったことが知られているでしょう。

(5)クリーンクラウド(Clean Cloud)

一般市民にとって最も機密性の高い「個人情報」や、たとえばCOVID-19ワクチン研究のような企業にとって価値の高い「知的財産」が、「悪質行為者」にアクセス可能なクラウドベースのシステムに保存・処理されることを防がねばなりません。
アリババ、百度(Baidu)、中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、テンセントなどの企業はクラウド技術を持つ企業とされ、これらにデータを持ち込ませないよう、排除の対象となっています。

(6)クリーンケーブル(Clean Cable)

大陸間を結ぶ海底ケーブルは、インターネットの通信の大半を担っています。米国と世界のインターネットをつなぐ海底ケーブルの侵害阻止を行い、「悪質行為者」によるインターネットの超大規模な情報収集や改ざんをされないようにします。また、海外のパートナーと協力して、世界中の海底ケーブルが同様に危険にさらされないようにします。
具体的な活動としては、米国と外国を結ぶ海底ケーブルの認可権はFCCにあるのですが、米国と太平洋を横断する海底ケーブルに関して、中国企業が関わっている場合接続を認めないようFCCに勧告する、などということが考えられるようです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)