ケータイ用語の基礎知識

第968回:Dolby Visionとは

「ドルビー」の高輝度(HDR)動画規格

 「Dolby Vision(ドルビー・ビジョン)」とは、米国ドルビーラボラトリーズが開発・提供しているHDR動画規格、つまりより広い明るさの幅(ダイナミックレンジ)を表現できる動画記録技術です。

 HDR動画規格としてはDolby Visionのほかには、「HDR10」「HLG」「Technicolor HDR」、そしてHDR10の次世代規格「HDR10+」などもあります。Dolby Visionは、HDR10と同じくUltra HD Blu-rayのオプション規格としても採用され、主流となっている規格のひとつです。

 スマートフォンでは初めて、2020年秋に発売されたiPhone12、iPhone12 Proシリーズで、「Dolby Vision」に対応したHDR動画の撮影が可能となりました。

 ちなみに、Dolby Visionおよび、ドルビーラボラトリーズの「ドルビー」は、ドルビーラボラトリーズの創業者、レイ・M・ドルビー(Ray Milton Dolby)氏の名前に由来しています。

Dolby VisionとHDR10との違い……12ビットカラーと動的メタデータ

 Dolby Visionには、HDR10と比較して規格上、いくつかのアドバンテージがあります。

 名称に「10」とあるように、HDR10は動画データの色深度を10bit(明暗差を1024段階)で表現できることが特徴です。

 ちなみに、これまでの標準的な動画データのダイナミックレンジ(SDR)は8bit(256段階)ですから、単純比較で明暗差は4倍。さらにPQ(Perceptual Quantizer/知覚量子化)カーブなどを使って、グラデーションのバンディング(帯状に見えてしまうこと)を防ぐ工夫もされているので、人間の目には単純には、それ以上に明暗差が綺麗に見えるでしょう。

 それに対して、Dolby Visionは同じようにPQカーブを利用した上で、色深度を12bit(明暗差を4096段階)で表現可能です。これは、HDRのさらに4倍細やかに表現できることになります。

 ただし現時点では、12ビットカラーをサポートしている液晶もOLEDデバイスも存在しません。これは、iPhone12搭載のSuper Retina XDRもそうです。なので、ドルビーでは、現在の画面表示をサポートするために再生時には10ビットにダウンサンプリングしているとしています。

 また、もうひとつ、よく言われるアドバンテージは、「メタデータ」を動的に持てることによる、画面輝度の柔軟性です。

 HDR10は、画面輝度を含むメタデータを動画再生開始時に1つだけ含むという規格になってしまっているため、たとえばひとつの動画全体に対して「1000nits」といった最大輝度を指定することになります。その場合、全てのシーンをその輝度の範囲でやりくりせねばなりません。

 しかし、Dolby Visionではフレームごとにメタデータを持たせてシーンごとに輝度を動的に設定することが可能です。つまり、昼のシーンと夜のシーンなど場面転換がかかっても破綻なく滑らかな輝度で再生できるのです。

 このように優れた性能をもつDolby Visionなのですが、先に述べたように、今までスマートフォンでのHDR動画撮影では、HDR10は必ず採用されているものの、Dolby Visionは再生機能のみを搭載するAQUOS zeroなど、まだ一部の機種に留まっています。

 HDR10がライセンスフリーの規格であるのに対して、Dolby Visionはドルビーラボラトリーズのプロプライエタリー技術であり、このエンコーダー・デコーダーを搭載するにはライセンス料が必要となる、ということも関係しているかもしれません。

 また、家電などを見ても、Dolby Vision対応の機種がまだ少ないということもあります。たとえば、Dolby Vision/HDR10両対応のテレビであれば、2020年10月現在、ソニー、LGエレクトロニクス、パナソニック、シャープ、フナイ、東芝、ハイセンス、TCLから発売されています。

 Dolby Visionに対応するソースとしては、たとえば、Ultra HD Blu-ray、ネットフリックスに加えて、iPhoneやiPadであれば「Apple TVアプリ」もありますし、なにより、iPhone12で自分で撮影することもできます。iPhoneでDolby Vision撮影した動画は、「AirPlay」を使って「Apple TV 4K」で再生が可能です。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)