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日本のデジタルシフトはこれから、「今がデジタル化の一番のチャンス」――ソフトバンク宮内氏の基調講演

 ソフトバンクグループは29日、法人向けイベント「SoftBank World 2020」でソフトバンク 代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏による基調講演「Digital Shift 2020~デジタルシフトで、日本は変わる」を開催した。

 SoftBank Worldは、ソフトバンクが毎年開催している法人向けイベント。今年は新型コロナウイルスの影響により初のオンライン開催となった。

ソフトバンク 宮内謙氏

日本のデジタルシフトはこれから

 冒頭、新型コロナ禍でさまざまなものが変わった中で、実は新型コロナ以前と今とで変わらなかったものもあるという宮内氏。

 それは、ICT企業の躍進だ。新型コロナウイルスがまだ世界的な影響を及ぼす以前の2020年1月とそれ以降、2020年9月の世界時価総額ランキングトップ10の顔ぶれはほとんど同じ。それも大半がマイクロソフトやアルファベット(グーグル)、アップルといった主に米国に拠点を持つIT企業だ。

 宮内氏はこうしたことから「デジタル化に適応した企業がこの時代を生き残る」と語る。

 しかし、日本の企業の現状はどうだろうか。米国に比較して日本企業のICT投資は低い水準に留まっている。また、英米独と比べ、IoT導入率も半分程度と他国との差が年々拡大傾向にあるという。

 しかし、宮内氏は「(IoT、ICT整備は)これから動くもので、これらの差に悲観的になることはない」と説明。とはいえ、現状は他国に大差がついていることは疑いようはなく「僕ら(ソフトバンク)が一気に頑張らなければいけない状況にある」と語る。

 このほか、AI関連でも日本は低い導入率に留まっており、事務など定形の作業をコンピューターに代行させる「RPA」(Robot Process Automation)でもインドの半分以下という調査結果が示された。

 5Gなどが整備されることにより膨大なデータ量が扱われ、RPAの導入で日々の繰り返し作業は英米印では当たり前になりつつあると宮内氏。これらはいずれもソフトバンクが力を入れている分野でもある。

デジタル化を率先してきたソフトバンク

 日本企業において、デジタル化を行う上での障壁は「過去からの慣例」が多くを占める。また、「業務特性上、できない」というものに加えて「社員のITリテラシー」「法的規則」などが並ぶ。

 宮内氏は「(これらを乗り越えるのは)そんなに難しいことではないと思っている」と持論を述べ、「むしろ、今がデジタルシフトを進める一番のチャンスだ」と語る。「チャレンジングだが、避けては通れないことだ」とも。

 ソフトバンクでは、こうした流れにさきがけ、率先してデジタルシフトを推し進めてきた。2008年のiPhone 3Gが日本でも発売された頃、業務用端末として導入したのを皮切りに、クラウド利用、ペーパーレスなどは現在に続く流れだ。

 特にAIはあらゆる部門で活用しており、RPAでは「デジタルワーカー4000プロジェクト」によりすでに2000人工分を創出しているという。

スマートビル「東京ポートシティ竹芝」はソフトバンクの新本社

 リモートワークに移行した2020年4月頃には戸惑いはあったものの、5月にはリモートワークでも問題ないという確信ができたと宮内氏は語った。

5Gでどんなことが起こるか

 2020年から本格スタートした5Gサービス。宮内氏はこれについても「革命的なことが起こる」という。

 たとえば、映像配信の世界だ。iPhone 12 Proのカメラで撮影した映像を5Gでお台場にあるソフトバンクデータセンターへ伝送。視聴者のもとへ届けるいわゆる「BaaS」(Broadcast as a Service)という仕組みが実現できる。

デモのシステム構成
公演中で公開されたBaaSのデモ配信。撮影はiPhone 12 Pro

 従来のテレビ中継では、数億円はするという中継設備を搭載した車両などを用いて放送局の自社ネットワークで映像を配信していたが、5Gの場合、このような中継設備が不要なため、より安価にリアルタイムな映像配信が可能だ。

 テレビ中継には1回で100万円ほどかかるが、BaaSにより100/1、1000/1のコストで実現できるかもしれないという。

 「このようにあらゆる産業の需要構造を変えてしまうのが5G。大きくコストダウンしたやり方でできるようになると思ってもらっていいのでは」と宮内氏。

ソフトバンクのデジタルシフト事例

 このほか、ソフトバンクでは業務用チャットツール「Slack」を全社導入するなど、リモートワークの効率化を加速させている。

 営業部門を例にとると、これまでのリアルでの訪問をウェビナーやAIによりターゲィングを絞ったメールマーケティング、電子契約やその後のサポートもリモートに切り替えた。ウェビナーの集客人数はリアル訪問が中心だった2019年第2四半期と比較して2020年第2四半期では6倍と、大きな集客数アップを達成した。

 また、ソフトバンクショップでも従来から実施していたスマホ教室を「オンラインスマホ教室」として実施。実施形態が変わっても高いユーザー満足度を維持しているという。さまざまなイベントをオンライン配信することで1店舗あたり1.2倍の獲得実績を実現した。

 コールセンターにおいては、オペレーターの在宅勤務を実施。コールセンターで勤務する際はプラン変更など個人情報を始めとした機密情報を扱う業務を、在宅勤務時にはサービスや操作の説明と業務を分担することで、在宅勤務時に不安視される情報漏えいの問題を解決。さらにAI顔認証カメラを導入して離席や覗き見などさまざまな人間の行動を検知。よりセキュアな環境を実現しているという。

 さらに技術部門では、基地局の建設業務やネットワークの保守運用にもデジタルシフトを取り入れている。AIの導入などにより業務を効率化、1000名ほどの社員を新規事業などへシフトさせたという。

 セル間干渉の調査などは従来、現地に出向いていたが、AIによる自動チューニングを取り入れ、1日で30局ほどだったものが、600局ほどとの作業を可能にした。万が一の故障発生時にも自動で発生源を特定、復旧対応し記録する仕組みを作っている。

 こうした取り組みにより、英Opensignalの調査でも高評価を獲得している。

 「あらゆる環境でのデジタルシフト」を届けるのがソフトバンクの使命という宮内氏。今後もさまざまなグローバルパートナーと協力しつつ、5Gを展開しながら日本全体のデジタルトランスフォーメーションを図っていくと決意を現した。