レビュー

PS5のためのWi-Fi 6ルーター、どう選ぶ?

最新規格「Wi-Fi 6」は、どうゲームに効くのか

 待望のプレイステーション 5(PS5)がソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)から11月12日に発売された。プレイステーション 4の発売からおよそ7年ぶりの新機種となり、大いに注目を集めた。

 PS5が注目される理由はいくつもあるが、弊誌で注目したいのはWi-Fi機能。PS5は家庭用ゲーム機で初めてWi-Fi 6こと「IEEE 802.11ax」に対応した。初代PS4のときは2つ前の規格である「IEEE 802.11n」対応だったから、PS5の購入に合わせてWi-Fi 6対応ルーターを購入しようと考えている人もいるだろう。実際、Wi-Fi 6対応製品はPCやスマートフォンでも徐々に増えているし、価格面もかなりこなれてきている。

 そこで本稿では、「PS5で使う」前提で「Wi-Fi 6が何故いいのか?」と「多数の製品が発売されているWi-Fi 6ルーターをどう選べばいいのか」を解説してみたい。

 なお、製品例としては「ゲーム向け」を特にうたう「ゲーミングルーター」をはじめ、ローエンドからハイエンドまで多数の製品を発売しているASUS製品を挙げてみた。

 PS5のためのルーターを検討している方に参考にしてもらえれば幸いだ。

家庭用ゲーム機では初のWi-Fi 6対応となったPS5

Wi-Fi 6は最高速度が速いだけじゃない!

 Wi-Fiの新しい規格が登場することで最も大きな恩恵は、最大速度の向上だ。Wi-Fi 6はWi-Fi 5に対して、規格上の速度はおよそ1.4倍となっている。

 例えば一般的なWi-Fi 5子機の最大通信速度は、5GHz帯で80MHz幅、2×2 MIMOで866Mbps。同じ条件のとき、Wi-Fi 6は最大通信速度が1201Mbpsへ向上する。

 これだけでも十分なメリットと言えるが、Wi-Fi 6の進化はこれだけではない。いくつかの新機能が盛り込まれたことで、通信速度のほかにもメリットが生まれている。特に注目したい2つの機能を紹介しよう。

混雑時にも高速・低遅延を実現する「OFDMA」

 「OFDMA」は「Orthogonal Frequency Division Multiple Access」の略。通信で使用するバンド(周波数帯)を細かく分け、必要に応じて複数の端末へ割り当てるというもので、Wi-Fi 6で新たに実装された。

 Wi-Fiの通信では、基本的に限られた帯域を分け合って使う仕組みとなっている。従来は、複数の端末が同時に通信しようとすると、それぞれの端末に一定のバンドが割り当てられていた。この場合には小さなデータを送るときにも一定の帯域を占有してしまうため、効率が悪くなる。

 OFDMAでは、バンドをさらに細かく区切る。これによって複数の端末が同時に通信をした際、各端末に必要なだけ通信帯域が割り振られることでバンドの無駄な占有が減り、データを無駄なく効率的に運べるようになるのだ。全体の通信速度が向上するだけでなく、通信の待ち時間が減少し、ゲームにおいても、重要な通信の遅延を減らすことにつながる。

左がOFDM、右がOFDMAのイメージ。出典はNI(National Instruments)の“高効率な無線LAN規格、IEEE 802.11axの概要

複数端末がある環境にも強い「MU-MIMO」、遅延の低減にも効果アリ

 もう1つのMU-MIMOは「Multi User Multiple Input Multiple Output」の略。従来は、複数の端末と通信するときは、相手を切り替えながら1対1で順番にやり取りをしていた。これに対しMU-MIMOは、複数の端末と同時にデータを送信できる仕組みとなっている。

 これ自体はWi-Fi 5からあった技術で、MU-MIMOに対応するWi-Fi 5ルーターでは同時に最大4台まで通信可能だった。Wi-Fi 6では同時に最大8台までに増えている。

 さらにWi-Fi 5では、同時に通信できるのが親機から子機への送信(子機から見ればダウンロード)のみだったが、Wi-Fi 6では子機から親機への送信も同時通信が可能となった。

 オンラインゲームでは、常に上りと下りの通信が発生するので、複数の端末がある環境下では、通信を安定させて遅延を減らす効果が期待できる。

 ほかにも、Wi-Fiの消費電力削減に貢献する「TWT(Target Wake Time)」など、Wi-Fi 6の仕様にはさまざまな新技術が盛り込まれている。Wi-Fiの進化というと、通信速度の向上だけが表に出てくるが、Wi-Fi 6では目に見える数字以外の部分で進化が大きい。

 ゲームにおいて、遅延を低減できるのは直接的な効果が大きい。PS5でゲームをプレーしながらスマートフォンやPCを見ることもあるだろうし、同時にほかの家族が、オンライン会議などさまざまな通信を行うのも当たり前の時代だけに、複数台での同時通信に強くなる点の恩恵が大きい。

 ただし注意しておきたいのは、これらのWi-Fi 6の新機能の恩恵を受けられるのは、Wi-Fi 6に対応するルーター(親機)と、同じくWi-Fi 6に対応したPS5やスマートフォン、PCなど(子機)の組み合わせの時に限られること。PS5以外に、Wi-Fi 6に対応した端末が多くなればなるほど、Wi-Fi 6は最大速度以外の真価を発揮するということだ。

PS5に最適なWi-Fi 6対応ルーターはどれ?

 それでは、ユーザーの環境別に「PS5のルーター選び」を考えていきたい。

 ………が、その前に「PS5のWi-Fi仕様」をきちんと調べて明らかにしておきたい。

 実はPS5のWi-Fiは、その詳細な仕様が明かされていない。Wi-Fiを使う上で重要なのは、対応規格とリンク速度で、これらがわからないままルーターを選んでも、無駄な投資になりかねないからだ。

 さて、これは軽く実験してみればわかること。と言うことで実際にWi-Fi 6対応ルーターにつないでテストしてみた。

 接続に使用したWi-FiルーターはRT-AX86U。Wi-Fi 6の最高速度は4804Mbpsで、ゲーミングLANポートのほか、2.5GBASE-Tに対応するWAN/LAN兼用ポートも搭載している。

 PS5を接続し、RT-AX86Uの設定画面からリンク速度を見ると、1201Mbpsのリンク速度で接続できていることが確認できた。技術的にいうのであれば、これは5GHz帯で80MHz幅、2×2 MIMOでの接続ということになる。

 ちなみに、本機へノートPCを接続すると、160MHz幅での通信に対応しているため、リンク速度は2401.9Mbpsとなった。

「CLOUD NETWORK TECHNOLOGY SINGAP」と表示されているのがPS5。1201Mbpsでリンクしている

電波は5GHz帯を使用しよう!

 なお、Wi-Fi 6では2.4GHz帯も使用できる。5GHz帯と比べて電波の到達距離が長く、遠い場所からでも接続できるメリットはあるが、最大速度が遅い上、電子レンジなどの機器が発する電波の干渉を受けやすい。Wi-Fiルーターからよほど遠い距離に設置しなければならないといった理由がなければ、PS5は5GHz帯で接続するのがいい。

 ちなみに、初代PS4が対応しているIEEE 802.11nは2.4GHz帯のみの対応で、「電子レンジを使うと通信が不安定になる」などのトラブルも、この規格に由来したものだ。

 また、設置時のポイントだが、PS5のWi-Fi接続設定では使用するWi-Fi周波数帯域を指定できる。デフォルトの自動のままでは、Wi-Fiルーターの設定や、ほかのWi-Fi子機との兼ね合いなどで、2.4GHzで接続してしまう場合がある。5GHz帯で問題なく通信できる環境なら、Wi-Fi周波数の設定を手動で5GHzに指定しておく方がいい。

PS5のWi-Fi接続設定はで、Wi-Fi周波数を5GHzに指定できる

 以上のことから、PS5で使うWi-Fi 6対応ルーターは、5GHz帯で最大1201Mbps以上の通信速度に対応していることが最低条件となる……のだが、現在発売されているWi-Fi 6対応ルーターは、最低でも1201Mbpsでの通信には対応しているので、Wi-Fiの速度だけを見れば、どの製品でも構わないということだ。

 ただし、実際には、利用する環境によって最適な製品は変わってくる。ここでは、既に多数が発売されているASUS製Wi-Fi 6対応ルーターを見ながら、どんな人にどんな製品が適しているのか、ポイントを押さえていきたい。

1人暮らしなど、Wi-Fi子機が少ない場合:安価な製品でもOK

 1人暮らしで、Wi-Fi端末はPS5のほかにはスマートフォンくらい……という場合は、最大1201Mbpsの安価な製品でも構わない。

 1人で複数のWi-Fi端末を同時に使うことは少ないはずなので、PS5の使用時はほぼフルに通信帯域を使用できる。最悪のケースでも、PS5でゲームをダウンロードしながらスマートフォンを使うくらいだと思えば、より高価で高速なWi-Fiルーターを導入するメリットは大きくない。

 ASUS製であれば、最も安価な「RT-AX56U」がいいだろう。最大速度は1201Mbpsで、本体が軽量・コンパクトなので設置も楽だ。

最大1201Mbpsの「RT-AX56U」(実売価格1万円前後)

夫婦2人でテレワークも考えたい場合:「ちょっと速い製品」がおススメ

 夫婦ともどもテレワークなど、家でWi-Fi通信を使う機会が多い場合は、もう少し最大速度が速いものを選ぶとメリットがある。PCではWi-Fi 6の最高速度が2402Mbpsに対応するものがあり、Wi-Fiルーター側もそれに合わせたものであれば快適性が増すためだ。

 「インターネット回線が1G(1000M)bpsなのに、Wi-Fiだけ2402Mbpsにする意味はあるの?」という声もあるかと思う。Wi-Fiでは数字通りの速度が出ることはほとんどなく、電波状況がいい環境でも、およそ2~3割は最大速度から落ちるのが普通だ。最大1201Mbpsであれば、多くの環境では実際は1Gbpsに届かないので、もう一段上のスペックを選ぶ意味が出てくる。

 PS5は最大1201Mbpsまでとなるので大きな影響はないが、家庭内LANを使ってファイルサーバーとやり取りする環境などであれば、最大2402Mbpsのルーターを選ぶ価値は特に大きくなる。

 ASUS製Wi-Fi 6ルーターでは「RT-AX3000」がおすすめ。2402Mbpsでの通信に対応し、ワンランク上の通信速度を実現できる。

最大2402Mbpsの「RT-AX3000」(実売価格1万7000円前後)

家族みんなが複数のWi-Fi子機で同時に通信する場合:帯域を分散できるトライバンドが使える製品を

 夫婦は仕事でテレワーク、子供はゲームにYouTube、さらにはPS5で大容量ゲームのダウンロードを仕込み、ほかにもスマート家電があちらこちらに……と、Wi-Fiの電波が飛び交う環境が想定される家庭もあるだろう。

 Wi-Fi 6は同時通信にも強い仕組みがあるので、接続台数が少々増えても対応はできる。しかし通信帯域の奪い合いになるのは間違いなく、通信速度が不安定になることはあり得る。そんな状況で少しでも通信環境をよくしたいなら、トライバンドに対応する製品がいいだろう。

 安価な製品では5GHz帯と2.4GHz帯のバンド2つ、つまりデュアルバンド対応のルーターが多いが、上位モデルには、5GHz帯が2つ、2.4GHz帯が1つの計3バンドに対応するトライバンドの製品が出てくる。

 5GHz帯が2つあることで、5GHz帯を使うWi-Fi子機の接続先を分散させ、同時通信時の混雑を減らせる。要は2台のWi-Fiルーターがある状態だ。接続先を任意に分けることも可能なので、接続端末を仕事用と趣味用で分けたり、ゲーム用とそのほかで分けたりと、好みに応じて使い分けもできる。

 ASUSのルーターの中では「RT-AX92U」がある。5GHz帯は、最高4804MbpsのWi-Fi 6と、最高867MbpsのWi-Fi 5の2つのバンドがある。Wi-Fi 6対応の端末は前者に、Wi-Fi 5までの端末は後者に、といった使い分けが可能だ。

5GHz帯が4804Mbpsと867Mbpsの2系統が、2.4GHz帯が400Mbpsのトライバンドに対応する「RT-AX92U」(実売価格2万6000円前後)

 また2つの5GHz帯が両方ともWi-Fi 6に対応する「ROG Rapture GT-AX11000」という製品もある。こちらは4804Mbpsが2系統で、スペックでも性能の面も間違いなく最高峰だが、本体サイズもかなり大きなものになるので、設置場所にも注意が必要だ。

「ROG Rapture GT-AX11000」(実売価格5万5000円前後)は、最大4804Mbpsの5GHz帯が2系統が、最大1148Mbpsの2.4GHz帯のトライバンドに対応

家が広くWi-Fiが届きづらい場所がある場合:メッシュWi-Fi製品が便利

 家族それぞれの部屋へWi-Fiの電波を飛ばしたい、というニーズも当然あるだろう。Wi-Fiルーターを家の中心になる場所に置き、まんべんなく電波を飛ばせるならいいが、設置場所が限定されると遠方は電波が届きにくくなる。PS5を置きたい場所がWi-Fiルーターから遠くて電波が弱く、有線のLANケーブルを引くのも難しい、という状況もあり得る。

 そんな場合は、メッシュWi-Fiが便利だ。1台では単なるWi-Fiルーターだが、2台以上設置することで機器間をWi-Fi接続し、Wi-Fiの電波の範囲を広げてくれるものだ。家が広かったり、特定の場所の通信速度をもっと速くしたい場合には、3台、4台と追加し、柔軟に対応できるのがメリットだ。

 ASUSのメッシュWi-Fi「ZenWiFi AX」は、Wi-Fi子機が利用できるのは最大1201Mbpsとはなるが、メッシュ間は4804Mbpsで接続されるので、機器を追加していっても速度低下が起きにくい。

5GHz帯が4804Mbpsと867Mbpsの2系統が、2.4GHz帯が400Mbpsのトライバンドに対応する「ZenWiFi AX(XT8)」(実売価格6万2000円前後、2台セット)

 それほど接続台数が多くなく、速度よりも通信範囲の拡大を重視するなら、「ZenWiFi AX Mini」もある。こちらは2台セットでも2万6千円前後と比較的安価で、小型で設置場所の自由度が高い。

「ZenWiFi AX Mini(XD4)」(実売価格2万6千円前後)。5GHz帯が1201Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsのデュアルバンドに対応

Wi-Fi 6に加え、PS5などのゲーム機を有線で接続したい場合:ゲーミングLANポート搭載製品を選ぼう

 Wi-FiルーターとPS5の距離が近ければ、Wi-Fiではなく有線接続したいという人もいるだろう。今回の趣旨から少々逸れるが、それはそれで適切な製品がある。

最大通信速度は5GHz帯が4804Mbps、2.4GHz帯が861Mbpsの「RT-AX86U」(実売価格2万8000円)

 「RT-AX86U」「RT-AX82U」「TUF-AX3000」といったWi-Fi 6ルーターには、ゲーミングLANポートが搭載されている。このポートに接続された機器の通信は、最優先で処理される。ほかの端末で大容量のダウンロードをしていたりしても、ゲームの通信を邪魔しないように処理してくれるわけだ。

 ASUSのWi-Fiルーターではこのほか、ゲームやストリーミングビデオなどの通信の種類によって優先度を設定できる「Adaptive QoS」と呼ばれる機能も用意されている。こちらはWi-Fiで接続した機器にも有効となる。

最大通信速度は5GHz帯が4804Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsの「RT-AX82U」(実売価格1万9000円)
最大通信速度は5GHz帯が2402Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsの「TUF-AX3000」(実売価格1万7000円)

 ここまで、ゲーム機としては初めて最新規格であるWi-Fi 6に対応したPS5で、Wi-Fi 6を使うことのメリットと、環境やニーズごとの選び方を解説してきた。

 これを参考に、現在使っているWi-Fiルーターから、Wi-Fi 6の機能を生かしたルーターに替えることで、皆さんに快適なゲームライフを送っていただければ幸いだ。