ITmedia Mobile 20周年特集

総務省は通信業界を変えたのか? 14年間の政策を見直し、愚策は撤廃すべきITmedia Mobile 20周年特別企画(1/3 ページ)

» 2021年04月14日 06時00分 公開
[石川温ITmedia]

 「アレのせいで、ドコモや総務省との交渉が一切ストップしてしまった」

 と、ぼやくのはMVNO関係者だ。「アレ」とは文春砲のことであり、NTTと総務省による接待報道によって、関係者たちが打ち合わせをできずに困っている状態に追い込まれているのだ。

 実際、OCN モバイル ONEの新料金プラン発表も本来であれば3月12日にオンラインで開催されるはずが、諸般の事情により延期。最終的にはリリースだけが配信されるだけとなった。業界内では「文春砲の影響か」と見る人が多い。

 接待報道で最も衝撃的だったのが、谷脇康彦総務審議官の辞職だ。谷脇氏といえば、日本の通信行政を代表する「顔」のような存在であった。

谷脇康彦 辞職となった谷脇康彦総務審議官(2007年撮影)

2007年の「モバイルビジネス研究会」でも今と同じ議論

 今から14年前の2007年に、総務省では「モバイルビジネス研究会」と称した有識者会議が頻繁に開催されていた。

 それまで、日本の携帯電話市場では、ケータイが1円や0円で売られているのが当たり前だった。何万円もするケータイを0円や1円でばらまき、高額な通話料や通信料で回収していくというのがキャリアのビジネスモデルであった。

 当時から、モバイルビジネス研究会は、このキャリアが回線と端末、サービスを一体化した垂直統合モデルを問題視。端末販売と通信サービスの分離を訴えてきた。

 ユーザーがキャリアを乗り換えしやすいようにと、番号ポータビリティ制度を導入したり、SIMロック解除を議論したりと尽力してきたのが、当時、総務省で事業政策課課長を務めていた谷脇康彦氏だったのだ。

 当時の記事を読み返してみると、通信業界の問題点として「料金プランが分かりにくい」という指摘が挙がっている。この指摘は今も変わらない。

 つまり、13年以上、総務省ではさまざまな有識者会議を開き、通信業界にメスを入れてきたはずだが、実際は何一つ変わっていないということなのだろう。

官製不況が起こる中、ソフトバンクが賢く立ち回る

 筆者は通信業界を取材して20年以上になるが、総務省が考える政策や規制は後手に回っていることが多い。進化のスピードが恐ろしく速いのが通信業界の特徴であり、総務省は通信業界の変化に全く追い付けていない。

 例えば、2008年当時、総務省は「通信料金と端末代金を分離しろ」と言い始めた。そこで、NTTドコモが「バリューコース」と「ベーシックコース」、KDDIが「フルサポートコース」と「シンプルコース」という名称で端末を売るようになった。

au 2007年に「au買い方セレクト」として、端末値引き込みの「フルサポートコース」と低廉な基本料金を特徴とする「シンプルコース」を発表したKDDI

 これまで0円や1円で買えたスマホが何万円も出さなければ買えなくなってしまった。これによって端末販売台数は一気に落ち込み、市場から撤退するケータイメーカーも現れた。

 これが世に言う「谷脇不況」というやつだ。この不況によって、日本のケータイメーカーが疲弊していく中、賢く立ち回ったのがソフトバンクだ。当時、iPhoneを販売する際、「割賦方式」を導入。端末代金を24回の分割で払わせる一方、毎月、割引を適用させていく。これにより、ユーザーは月々の負担額が少なく、割賦によって縛られ、他社に移行しにくくなる。

ソフトバンク iPhoneを安価に販売することでユーザーの支持を集めたソフトバンク

 iPhoneを実質0円で売ることに成功し、iPhone欲しさにNTTドコモやKDDIからソフトバンクに移行するユーザーが爆発的に増えた。さらにソフトバンクはこの割賦債権を流動化し、新たに資金調達にも成功。NTTドコモやKDDIも割賦販売に追随することとなる。

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