LINEとヤフーの合併で変わること PayPayは赤字脱却で“自然増”のフェーズに

» 2023年02月03日 20時30分 公開
[石井徹ITmedia]

 Zホールディングス(ZHD)は2日、持株会社のZHDと傘下のLINEとヤフーの3社を2023年度中をめどに合併すると発表した。同日の決算説明会では、合併の背景について説明された。

ZHDとLINE、ヤフーの合併

 現在のZホールディングスは、メッセージングアプリ「LINE」などを運営するLINEと、ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」やオークションサイト「ヤフオク!」などを運営するヤフーを完全子会社として有している。グループにはソフトバンクと共同で保有するPayPayや、上場子会社のアスクル、ZOZOなどを抱えている。

 2023年度に実施される合併は、ZHDと、その100%子会社であるLINEとヤフーの2社を統合するもの。合併により、意思決定プロセスの迅速化と、重複事業の削減によるコスト効率化を図るという。PayPayやアスクル、ZOZOなどの関連会社は合併の対象とならない。

ZHD 2021年3月、ZHD経営戦略説明会に登壇した川邊健太郎氏(左)と出澤剛氏

 合併発表に合わせて、2023年4月1日からの経営体制の変更も発表された。現在のZHDは、ヤフー出身の川邊健太郎社長とLINE出身の出澤剛氏が代表取締役と共同CEOを務めているが、4月以降は川邊氏が代表取締役会長に就任し、出澤氏が単独の代表取締役社長兼CEOとなる。

 また、NAVER出身の慎ジュンホ氏は現在、GCPO(Group Chief Product Officer)としてサービス開発の全体を統括する立場にあるが、4月以降は代表取締役GCPOに就任。代表取締役が3人存在する体制となる。

 合併後の新たな経営体制では「よりプロダクトファーストな体制となる」(川邊氏)としている。事業領域ごとのカンパニー制を採用し、慎氏がGCPOとしてサービス開発を統括。出澤氏がCEOとして収益の確保するという役割分担を担う。川邊氏は会長として、行政や財界に対するロビー活動を主に担当するという。

 なお、合併後の新会社の社名については明らかにされていない。合併後の戦略などは、2022年4月下旬移行に開催される通期決算の発表にあわせて公表するとしている。

厳しい市況に経営体制の合理化で対応

 川邊社長によると、LINEとヤフーの両社の中核事業であるインターネット広告事業は、市場の悪化が急速に進んでいるという。また、ZHD自体の広告商品の競争力も一部で低下する傾向があり、状況を打開する抜本的な打ち手として、合併を決断したという。

 LINEとヤフー(旧ZHD)の経営統合は、2019年11月に最初の合意が発表されて以来、段階的に進められてきた。もともとのLINEは韓国NAVER傘下にあり、旧ZHDはソフトバンクグループにあった。2019年に発表された経営統合は、2021年3月に完了。現在のZHDは、韓国NAVERとソフトバンクグループが共同で運営するAホールディングスが過半数の株式を有しつつ、上場も維持。LINEとヤフーの2社を完全子会社として抱えるという体制となっている。この複雑な組織構成が、経営方針の刷新を阻んできた側面があるようだ。

 合併の過程では2021年3月にLINEの利用者の個人情報管理について注目が集まり、記者説明会を実施してデータガバナンスについて説明するなどの事態も生じていた。

 親会社であるソフトバンクの宮川潤一社長にとっても、ZHDの経営体制は効率的とは考えられなかったようだ。宮川氏は3日のソフトバンク決算説明会にて、「ZHDは親会社として『意思決定を早くしてほしい』『IT連携のシナジーを速く出してほしい』という思いを持ってきた。特に2022年度には、経営統合後もサービスの統廃合やオフィスの合併など、さまざまなことを要望してきた。その結果なのか、ZHDから経営統合の案を示された。これは非常に正しい方向性と考えており、即座に賛成した」と語っている。

ZHD ソフトバンクの宮川潤一社長は、3日実施された同社決算説明会にて、Zホールディングスの統合に対する見解を語った

 2日のZHD決算において川邊氏は経営統合後の2年間について「お互いのサービスや組織文化を理解し、人の交流があり、データプロテクションを行いながらサービス連携を進めてきたが、2社の個別最適化が進んでいた部分もある」と振り返る。今後は「経営統合により意思決定をシンプルにして、新しい経営体制のもとで大きなシナジーを生んでいく」(川邊氏)という。

 新たに社長となる出澤氏は「この2年間のCO-CEO体制の元で、LINEとヤフーの重複する事業の見極めや、方向性についての議論を深めてきた。その蓄積を生かして、単独CEO体制で改革をしっかりと実行していく」と語った。

 慎氏は合併について「会社の垣根を越えて、これまでに出せなかったシナジーを出すことも狙いの1つ。例えばAIの研究開発では、両社で重複した機能を開発しているものもある。人員を結集して重複機能を整理すれば、新しいサービスを生み出す力が2倍、3倍に増すと考えている」と説明した。

ZHD 3社合併の概要。ZHD 決算説明資料より

PayPayは自然に成長する段階に

 ZHDの2022年度3Qの業績については、11月にPayPayを連結子会社したことで売上収益が四半期で過去最高の4536億円となったが、調整後EBITDAは935億円と、対前年同期比でマイナス4.5%の減益となった。

 PayPayは2018年11月の「100億円あげちゃうキャンペーン」の実施を契機に、順調な事業規模を拡大を続けている。コード決済事業では国内トップシェアを維持している。

 3Q時点でPayPayの登録ユーザーは5400万人を突破。昨対比で21.2%の増加となっている。3Qの取扱高は2兆2238億円(昨対比51.5%増)で、売上高は366億円(同2.4倍)。EBITDAはマイナス38億円で、赤字幅は縮小傾向にある状況だ。

ZHD ZHDでは戦略事業に分類されているPayPayは、赤字幅が縮小しつつある。ZHD 決算説明資料より

 Eコマース事業を統括する小沢隆生執行役員は「大きな流れとして、PayPayが生活に本当に根差したため、自然増で月あたりの支払い回数等の指標が順調に伸びている」と説明する。キャンペーンなどの原資となる販促費についても「お店やメーカーに負担いただく割合が大きくなっている。受益者負担となり、PayPayの売上にもなるという望ましい状況となっている」と好調ぶりをアピールした。

 ZHDではPayPayを金融関連サービスのブランドとして、金融関連サービスをPayPayカード(旧ワイジェイカード)やPayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)といった名称に変更し、サービス拡大を図っている。特にPayPayカードでは、ポイントプログラムやリボ払い・後払いシステムを共通化することにより、加入者と決済金額の両方を成長させていくという。

ショッピングの還元抑制、ショート動画サービスに重点投資

 PayPayが赤字脱却に向けて、安定した成長を続ける一方で、ZHDの主力事業となっているメディア(広告)セグメントとコマースセグメントは、どちらも軟調な動きとなっている。

ZHD ZHDの事業構造。ZHD 決算説明資料より

 コマース事業は、eコマースの取扱高は1兆1182億円(前年同期比6.4%増)となり、調整後EBITDAは423億円(6.4%増)となった。このうち、主力事業の「Yahoo! ショッピング」では販促費を抑えて、コスト抑制による収益確保の方針を進めている。2022年3月に開催した大規模なキャンペーン「超PayPay祭」については、2023年は規模を縮小して開催する方針という。

 コマース領域については2021年3月に実施された記者説明会で「2020年代前半に国内ECで取扱高ナンバー1を達成する」という目標が掲げられたが、2日の決算会見でこの方針を撤回することが確認された。坂上亮介GCFOは「ショッピングモールの取扱高だけをナンバー1にするのではなく、Yahoo! ショッピングの巨大な取扱高を下地に、PayPayやPayPay カードのような金融サービスを成長させてグループ全体の成長を目指す」と説明した。

ZHD 事業の見直しでコスト削減を進めていく。ZHD 決算説明資料より

 メディア事業はヤフー(Yahoo! JAPAN)とLINEがそれぞれ事業を運営しており、どちらもインターネット広告を主な収益源としている。2022年度3QはLINEの広告収益が510億円(昨対比0%増)。ヤフーの収益が1005億円(同マイナス1.9%増)で、収益減となった。

 メディア事業の中では、市況の低迷によりディスプレイ型広告の需要が落ち込んでいる。一方で、Yahoo! JAPANの検索広告やLINEのアカウント広告(LINE公式アカウントなど)は堅調という。

 ZHDは事業の統廃合により、メディア事業の収益改善を図っていく方針だ。2022年12月にはLINEの祖業だったポータルサイトのlivedoor事業を売却している。

 また、動画配信では「GYAO!」と「LINE LIVE」のサービスを2023年3月に終了し、ショート動画サービスの「LINE VOOM」に注力する。LINE VOOMは2022年のリニューアル実施後、10代を中心とした視聴者層となり、動画再生時間は昨対比で2.5倍となるなど、順調に成長しているという。

ZHD 動画サービスはLINE VOOMに集約。ZHD 決算説明資料より

 GYAO!とLINE LIVEの終了により1年で約30億円の経費を削減し、LINE VOOMへ投資を集中させていく方針だ。動画制作に関わっていた人員を投入することで、競争力を高めていくという。慎氏はLINE VOOMの強みについて「幅広い年齢層を持つLINEを母体とすることで、視聴者層の広がりが見込める。新しいコンテンツを調達する上でLINEのユーザー基盤は強み。これまで動画投稿をしていなかった人がクリエイターとして参入しやすい環境にある」としている。動画事業の収益化は動画広告を基本としているが、ZHDのECサービスや店舗・自治体向けサービスとの連携も図っていくという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年