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ソフトバンクの第3四半期決算は増収増益、通信料値下げの影響も縮小へ

 ソフトバンクは3日、2023年3月期第3四半期決算を発表した。決算会見には同社代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏らが登壇した。

宮川氏

増収増益の第3四半期

 第3四半期の業績として、売上高は4兆3455億円で、前年同期比で4%の増収となった。コンシューマー事業、法人事業など全セグメントで増収を記録している。

 営業利益は9820億円で、22%の増益を記録。セグメント別に見ると、通信料値下げなどの影響を受けたコンシューマー事業は17%の減益となった。値下げの影響は約710億円となっているが、宮川氏によれば「来年度は通年で、約500億円程度に縮小する」。

 法人事業全体は好調だったが、特殊要因により3%の増益にとどまった。ヤフー・LINE事業については、人材補強などのコスト増により、17%の減益となっている。

 そのほか、PayPayの子会社化に伴う再測定益が2948億円計上されている。

 純利益は5086億円で、21%の増益となった。結果として増収増益の決算となり、宮川氏は「2022度の営業利益1兆円以上など、経営目標の達成に向けて順調に進捗している」と語った。

コンシューマー事業

 コンシューマー事業の売上高は2兆1277億円で、前年同期比1%の増収を記録。一方、営業利益は4312億円で、先述の通り17%の減益となっている。

 スマートフォンの契約数は、ソフトバンク、ワイモバイル、LINEMOやLINEモバイルをあわせて2865万契約となっている。結果として7%の増加となり、宮川氏は順調さをアピールした。スマートフォンの純増数や主要回線の純増数はいずれも前年比で大幅に改善されている。

 2021年春の通信料値下げによる業績への影響は、徐々に縮小していく見込み。2023年度は約500億円の影響となることが予想され、宮川氏は「氷河期の終わりがようやく見えてきた」と語った。

 モバイル領域の競争力アップに加え、PayPayやLINEなどのグループ企業との連携も強化する。たとえば2022年11月に提供が始まった「PayPayカード ゴールド」では、通信料金の支払いに対してPayPayポイントを多く付与することで、回線の解約の抑止をねらう。

法人事業

 ソリューションが順調に伸びる法人事業は、前年同期比で4%の増収を記録(5509億円)。営業利益は1085億円で、3%の増益となった。

金融事業

 2022年度の第3四半期から新設された金融事業では、PayPayの子会社化を主要因として、前年同期比77%の増収を記録した。一方で営業利益は、PayPayカードの顧客拡大に向けた投資のマイナス影響などもあって24億円にとどまり、減益となった。

 PayPayの現状について、登録ユーザー数は2022年12月末で5400万人に到達。前年同期比で21%増加している。決済回数も43%増え、37.5億回を記録した。決済取扱高は5.7兆円となっている。

 今後はPayPayやヤフー、LINEといったグループ企業が連携し、決済・EC取扱高の拡大や広告収入の増加を図る。

ヤフー・LINE事業

 ヤフー・LINE事業については、売上高が1兆1696億円を記録し、前年同期比で4%の増収となった。営業利益は1269億円で、17%の減益となっている。

 2日にはZホールディングス、ヤフー、LINEの3社を中心とした合併方針が示された。宮川氏は「この目的は、一言で表すなら『スピードアップ』。現状のCo-CEO体制を廃止し、単独のCEOがリードしていく体制に変更する」と語った。

質疑応答

経営統合について

――Zホールディングスの経営統合について、この2年間、忸怩たる思いがあったのでは。あらためて感想を聞きたい。

宮川氏
 経営統合をすることによって、いろんな仕事がたくさんできるんだろうなっていうことでワクワクしていました。実際はこの2年間、なかなか新しいプロダクトが生まれてこないということで、僕は「もう少しスピードを上げてくれないか」というふうに常々思っていました。

 我々とZホールディングスは親子ではありますが、上場会社同士ですので、いろいろな意味でファイアウォール(編集部注:IT分野におけるシステム用語だが、ここでは各社がそれぞれのルールや運営方式を守っているようすを指すとみられる)があります。

 我々が直接経営に口出しをするわけではありませんでしたが、「さすがに我々の期待感と違うんじゃないか?」ということを話す機会が、特に増えてきました。そこで川邊さん(編集部注:現Zホールディングス代表取締役 社長 Co-CEOの川邊健太郎氏、4月1日付で代表取締役 会長に就任予定)と、1 on 1のミーティングを毎月やるようになりまして。

 (Zホールディングスは)本当に能力のある方々ばかりなんですが、どうもそのプロセスが複雑になりすぎてスピードが上がってないんじゃないかと思ったので、いろいろな提案をしてみました。

 僕は本当にこれ(今回の体制変更)で相当変わるんじゃないかなって期待しています。自分のなかでのモヤモヤ感は吹っ切れたと思っていますので、今後に期待したいです。

――3社を中心とした体制について、プロダクト力に強みのあるLINEが主導するという話もあったが。

宮川氏
 LINEが主導するというのは、どう整理されたか聞いていない部分もありますが、LINEのなかに僕の好きなプロダクトがたくさんあります。「これを早く世に出してくれ」というものもあって、どんどん発表されればと期待しています。

――どのようなプロダクトなのか。

宮川氏
 特に光っていると思うのは、AIを使ったサービスです。非常に深いところまで作り込んであるものがいくつかある。たぶん驚かれるようなサービスなので、早く製品化して商品として出すところまでやってくれたらいいんじゃないかなと思っています。

デュアルSIMのサービスについて

――KDDIと一緒にデュアルSIMのサービスを発表したが、期待感を教えてほしい。

宮川氏
 KDDIさんの通信障害があったなかで、私たちにとっても対岸の火事ではないということをお話ししたと思います。

 いつどこでどう障害が起こるかというのは本当に未知数ですので、転ばぬ先の杖、ではありませんが、対策はできるだけあらゆる角度でしたい。そこで髙橋さん(編集部注:KDDI代表取締役社長の髙橋誠氏)から「(デュアルSIMを)本気でやる気はありますか?」という話がありまして。それはもうぜひ、ということで建てつけを開始しました。

 普通はサービスを1個作るのに相当の時間がかかりますが、これはもう両社本気だなっていうぐらいに、スピード感を持って議論できていると感じています。

 (サービスについて)保険という意味合いに共感してもらうために、ひとつ、料金は大事だと思います。料金も、数百円の下のほうをターゲットにしたいということで、設備増強などの実務的なところを最終調整しています。

――デュアルSIMで電話番号を同一にするような考えもあるのか。

宮川氏
 現場がどこまでやりとりしているかというのはちょっと置いておいて、僕としては、災害が起きたときの発信側が知らない番号だったら、(電話を)とってもらえないんじゃないかと。

 逆もしかりで、たとえば僕にかかってきた電話が知らない番号だったら、たまたま息子の電話であっても息子と気がつかずにとらないかもしれないと考えています。できれば発着信を同一番号でやるようなことを技術的に詰めたほうがいいと思っています。

 たとえばiPhoneとApple Watchでは同一番号のしくみもできていて、テクノロジー的には不可能ではありません。IP電話の世界でも同一番号化してサービスをした時期もありましたし、やり方は頭のなかでは整理できています。

 もし現場がやっていないとすれば、コストなどを詰めなければいけないと思いました。

 ……すみません、本当に僕の思いつきでしゃべりましたので、現場との打ち合わせ前で、ちょっと暴走しました(笑)。すみません。

――KDDIにはpovoのような無料プランがあるので、有料のデュアルSIMサービスを契約する理由に疑問符がつく。そういったことについて考えを知りたい。

宮川氏
 まだ仕様はすべて詰まっていないので、開示できる状況にはありません。

 povoについて話すと、ユーザーさんが選択して2枚目のSIMにpovoを入れ、災厄に備えることはできます。そこで、月々の料金が比較されるところはあるのかもしれません。

 ただ、今回のデュアルSIMサービスで我々がお互いに提供しようと決めていることについては、ショップにおけるサポートもあります。たとえばソフトバンクのショップでauさんの商品を販売するという構造になりますので、ユーザーさんが選ばれる(povoの)ケースとは、似て非なるものではないかなと感じています。

 仕様的にあるといいなという機能まで考えると、災害時でも今までと同じようなかたちで使える電話番号やメールアドレスのあり方など含めて作り込んでいきたいと思っています。

――デュアルSIMについて、予備回線として提供するとのことだが、NTTドコモや楽天モバイルとの交渉状況を知りたい。

宮川氏
 (ドコモと楽天モバイルについては)NDA(秘密契約)があり、回答は差し控えますが、僕の考え方では、条件が揃い次第、どのキャリアさんともやるというつもりです。

――協議はドコモと楽天モバイルの両社と進めているという理解で合っているか。

宮川氏
 これも「回答しないでくれ」と言われていますので、ちょっと回答できません。すみません。

――MVNOはどういう位置づけになるのか。

宮川氏
 デュアルSIMサービスの話は、あくまでBCP(編集部注:事業継続計画のことだが、ここでは携帯電話サービスの提供を継続することを指すとみられる)対策として、キャリアさんがひっくり返ったときに、ユーザーさんには迷惑かけられないということで始まりました。ですから、たとえばこれをメインの商品にしてメニュー化することは考えていません。

5G整備に関する考え

――5Gの取り組みについて知りたい。コスト削減という話があったが、インフラの整備とは相反する部分があると思う。そのあたりの考えは。

宮川氏
 私たちの5Gの設計方針は、まずは面展開をしっかりすること。そのうえでデバイスのエコシステムを作りたいということで、700MHzを中心に基地局の展開を急いできました。

 90%(編集部注:5Gの人口カバー率)はひとつの目標でしたが、昨年度末に達成しました。5G専用基地局の数は5万3400だったと思いますが、設備投資はこの2年間で集中させてきましたので、5Gの準備はだんだん整ってきています。

――Sub6の展開は。

宮川氏
 Sub6の展開については、衛星に関する干渉のルールが緩和されましたので、ようやくエリア拡大できるようになりました。東名阪を中心に整備しはじめています。

 ミリ波の28GHz帯については、使い勝手という意味で、投資効果が得られるほど期待できないので、その次の大型展開になると思います。まずはローバンドの次にミッドバンドの整理を全国でやって、インドア対策として28GHz帯を使っていくような順番で考えています。

――5G JAPANという取り組みがあり、会社が設立されてから3年近くになる。今はどのような状況なのか。

宮川氏
 5G JAPANで今やっているのは、KDDIさんの基地局の上をお借りして、ソフトバンクが乗っかって電波を発射する場合と、ソフトバンクの基地局の上にKDDIさんの無線機を載せて電波を発射する場合と、このクロスを今はやっています。

 実は昨年度末で1万2000局ぐらいやっておりまして、かなり進捗していると思っています(編集部注:宮川氏が触れた1.2万局は、ソフトバンク広報によれば「ソフトバンクがKDDIの設備に設置している数」ではなく、KDDIとソフトバンク、両社が相互に設備を置いている局数を合算したものとのこと)。

 5G JAPANは、今後工事をする際に、2社いっぺんに工事すればコストダウンできるというように、お互いに体力がなくなりかけているキャリア同士が手を組むと基地局の増設がたくさんできるということではじめました。今もこの精神は変わっていません。引き続き、お互いのアセットを有効利用するということでやっています。

コストダウンや賃上げについて

――コストダウンに関する考えについて教えてほしい。

宮川氏
 コンシューマー事業については、いろいろなサービスの統廃合に取り組んできました。代表的なものとしましては、3G、PHS、ADSLの3つのインフラを前倒しでサンセット(廃止)することが挙げられます。

 我々通信業界は、コストカットをやりすぎると、障害につながることになりかねません。この天びんのような状態でにらめっこしながらやっているつもりで、いろんな知恵を出し合ってコストダウンを続けています。

――従業員の賃上げはどうするのか。

宮川氏
 賃上げについて、このような成績のなかで、簡単に「賃上げをする」とお話しすることについては悩んでいます。

 ただ、そのなかで一応出した答えがありますので、今日お話しすると、ベアとしては5.4%の昇給ということで最終調整に入っています。企業は株主さんに加えて、従業員のためのものでもある。従業員に無理をさせるわけにはいかないので。実は来週、社員に向けて発表しようと思っていたんですが……。

 さらなるコストダウンが必要になりますが、たとえば中途採用の補充は1年半ぐらい、実はストップしています。従業員は少し減っているような環境で、今は“耐える時期”。そこはしっかりマネジメントしていきたいと考えています。