フルカラー照明を街に設備し、クラウドで管理して統合的な演出を行う「街演出クラウド YOI-en(ヨイエン)」。パナソニック エレクトリックワークス社(パナソニックEW)が2022年10月に提供を開始したクラウドサービスです。今回、大阪府門真市にあるパナソニック ホールディングス本社にて、敷地内に設置されている「街演出クラウド YOI-en」(以下、YOI-en)を体験してきました。

  • パナソニック ホールディングス本社の敷地内には、「街演出クラウド YOI-en」を用いて構築した仮想の街「YOI-en Field」があります

街の照明が連携して、エンターテインメントに変わる

YOI-enは夜の街を照明で演出するシステムです。街の中でいろいろな場所に配置された照明を、コントローラーや信号変換機などの制御システムと接続。ゲートウェイを介してクラウドにもつながり、広域・多拠点の照明を一括管理できるようになります。

  • パナソニック エレクトリックワークス社の宮本千琴さん

パナソニックEWでYOI-enを担当している宮本さんは、YOI-enのメリットを次のように語ります。

「既存の制御システムに対して、インターネット経由でYOI-enを接続すれば、東京・大阪・福岡といった遠隔地の照明演出を一括コントロールしたり、有線を使った連携が難しい川の対岸にあるビル同士や周辺公園などの照明も、1カ所で制御したりできるようになります」(宮本さん)

  • YOI-enを利用すると、複数拠点の照明をインターネット経由でコントロール可能に。東京と大阪など離れた場所でも、各地の照明を連携させた演出を一括管理できます

パナソニックEWがYOI-enを展開する理由には、いくつかの市場背景があります。

1つは、コロナ禍が一段落したことで外国人観光客が増え、観光産業の活性化が進んでいること。観光地・観光産業の再生に向けて、夜の街を照明で演出することは新しい付加価値の創出につながり、国内外からの来訪者が期待できます。

  • コロナ禍でダメージを受けた観光業を復興するためにも、新しい街づくり求められており、夜間の照明演出はその一環として注目されています

もう1つは、魅力的な街づくりのために、日本各地で官民連携の取り組みが盛り上がっていること。たとえば、公園内に民間事業者の店舗などを公募して収益性を高める「Park-PFI(公募設置管理制度)」を採用する地域が増えたり、DMO(観光地域づくり法人)を活用したりする自治体も登場。こういった制度も合わせて、スタジアムや公園といった既存の施設を利用した新しい街づくり計画が全国で進んでいます。

こういった地域一帯の仕掛けや定期的なイベント開催には、どうしても人手やコスト面が課題になってきます。これまで広域の照明演出を行う場合、拠点ごとに制御の担当者が必要でした。そこでYOI-enを利用すると、遠隔&複数の場所に構築した照明を1カ所で一元管理できるため、人員やコストの課題解決に役立ちます。

  • 新しい魅力的な街づくり制度が全国に広まるなか、コストや人手不足の課題も。照明や空間演出という部分において、YOI-enはこうした課題解決のために活躍します

  • フルカラー照明を利用して、さまざまな空間演出ができるYOI-en。これまでにない夜の街を生み出せます

YOI-enは、昔からある街を照らす明かりだけでなく、特徴的な機能を持っています。具体的には、誘導や回遊を促すアフォーダンスライティング、そしてスマートフォンから照明の色を操作する「YOI-ro」などです。これまでにない照明を設定することで、新しい体験を提供できます。

パナソニックEWはひとつの事例として、パナソニックセンター東京のライトアップ演出や札幌アートキャンプで体験型演出コンテンツ「YOI-iro」を実施しています。パナソニックセンター東京の場合、本棟・中庭ブリッジ・有明スタジオの3拠点をクラウドでつなぎ、季節を表現するシーズンカラーでライトアップしています。

【パナソニック公式動画】街演出クラウド YOI-en パナソニックセンター東京(音声が流れます。ご注意ください)

「2023年2月に札幌で行ったイベント(サッポロアートキャンプ)では、クラウド演出技術を活用した体験型演出コンテンツ『YOI-iro』を導入しました。来場者のスマートフォンからお二人の誕生日を入れて花占いをすると、誕生日の花のカラーでライトアップされ、スマートフォンにはそれぞれの花言葉を表示するという体験型コンテンツです」(宮本さん)
  • サッポロアートキャンプで導入された験型演出コンテンツ『YOI-iro』。自分だけのライティングで空間を照らします

YOI-enは、専用機器が不要というのも大きな特徴。パソコンから演出管理をはじめとしたコントロールができるため、省力化や省人化が可能なのです。カレンダーによるスケジュール設定や割り込み演出などにも対応し、計画的でフレキシブルな運用を実現します。
  • パナソニックEWが手がける照明事業について。YOI-enは事業としての幅が大きく広がり、企画から状況監視までパッケージで提供

パナソニックEWは、構想・計画段階から演出の支援を行います。VRシミュレーション、機材の導入支援、そして街演出クラウドの提供まで、顧客とつながり続けることで体験価値や運営支援を提供することが、YOI-enが目指すビジネスモデルです。 ## 季節やイベントに合わせた色の照明で空間を演出 今回、実際にYOI-enの照明演出を見る機会もありました。パナソニック・ホールディングス本社の敷地内に設置された「YOI-en Field」です。エリアは、エントランス、並木道、芝生広場という構成。約1.7haの広さに285台の照明器具を設置し日没から22時までライトアップしています。
  • 敷地内に導入された仮想の街「YOI-en Field」。新しい夜の演出がここで生み出されていきます

このYOI-en Fieldは、YOI-enを実際に体験するショールームとして2023年7月から可動する予定。新しいサービスを実証する場としても活用されるそうです。また、季節や催事に合わせて演出を変えることによって、社員のエンゲージメント向上も期待されています。 「社員向けに開催した点灯式には、多くの社員が参加してくれました。満開の桜を美しく照らし出す照明演出に感動の声が上がりました。日々の演出が社員のコミュニケーションの活性化を促進しています」(宮本さん)
  • 樹木をライトアップする「ダイナワン30°」+「フード」。こういった照明器具を285台配置しています

幻想的な照明エントランスから敷地内に入ると、芝生広場までのルートをアフォーダンスライティングが道案内してくれます。ゆっくりと明かりが動くことで自然に歩行を促し、楽しく歩けるよう、人の心理・行動に働きかけます。アフォーダンスライティングでは、人が混み合う場面で光を一方向に流して人の逆流を自然に防いだり、ルート上に分岐があるときは進行方向を照らして経路案内をしたり――といった使い方もできます。

【動画】ゆっくりと光が動きながらナビゲートしてくれるアフォーダンスライティング

並木道では、桜を引き立てるライトアップで夜を演出。取材に訪れた時期にはすでに桜は散っていましたが、淡い色が歩道や街路樹、さらにはオフィスビルをも照らし、夜桜を楽しんだのかのような、春の夜の一瞬を体験できました。

【動画】フルカラー照明をすばやく動かしたところ。さまざまな色で空間を染め上げます(音声が流れます。ご注意ください)

そして芝生広場へ。ここでは「Park-PFI(公募設置管理制度)」を想定した照明を用意。イベントや季節に連動する照明演出が楽しめます。体験型演出コンテンツである「YOI-iro」ではQRコードを手持ちのスマートフォンで読み取ることで、芝生広場が自分の誕生日の花にあった照明演出に切り替えられました。赤や青、紫と、次々に広場のライトアップが切り替わって行きました。

【動画】「YOI-iro」による照明の制御。花言葉も表示されます

実際に体験してみて感じたのは、「街演出クラウド YOI-en」を設置したスペースが夜になると、昼間とはまったく異なる空間になること。照明によって幻想的になったり、楽しくなったり、儚げになったりと、街はさまざまな表情を見せてくれます。パナソニックEWの「YOI-en Field」は、夜にしか体験できない新しい空間演出を創り出して、新しい街の価値を生み出すことを目指しています。