法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

楽天モバイル、念願の「プラチナバンド」獲得で巻き返せるか?

 10月23日、総務省は楽天モバイルにプラチナバンド「700MHz」帯を割り当てることを発表した。楽天モバイルは4G LTEの周波数帯域として、1.7MHz帯のみで展開してきたが、他の主要3社とのイコールフッティングを求め、プラチナバンド割り当てを強く希望していた。

 同社はKDDIとのローミングにより、エリアカバー率が99.9%に達しているが、自前のプラチナバンドが割り当てられたことで、これまでの劣勢を巻き返すことができるだろうか。

総務省において、鈴木淳司総務大臣から、楽天モバイルの鈴木和洋代表取締役共同CEOに対して、認定書が手渡された
認定書を受け取り、大臣室で記念撮影

エリア拡大に欠かせないプラチナバンド

 スマートフォンや携帯電話などを利用するモバイルネットワークは、それぞれの基地局からの電波によって、エリアが決まるが、利用する周波数帯域によってもエリアカバーのしやすさが大きく異なる。

 現在、国内で提供されている各社のモバイルネットワークでは、700MHz帯から28GHz帯まで、さまざまな周波数帯域が利用されているが、700~900MHz帯は俗に「プラチナバンド」と呼ばれ、携帯電話サービスに適した周波数帯域とされる。

 1.5GHzや2GHzといった高い周波数帯域に比べ、建物などが建ち並ぶ都市部でも回折によって、ビルの後ろ側に電波が回り込んだり、屋内や地下への浸透率が高いことがメリットとされる。これに加え、他の周波数帯域に比べ、電波の到達距離が長いため、山間部などの郊外へのエリア展開にも有利とされる。

 国内の携帯電話サービスを早くから提供していたNTTドコモやauは、当初からこれらの周波数帯域を割り当てられ、サービスを提供してきた。NTTドコモとauではそれぞれに方針や運用状況に違いがあるものの、いずれもプラチナバンドの特長を活かし、エリアを拡大してきた。

 これに対し、2006年にVodafoneの日本法人を買収したソフトバンクは、当初、1.5GHz帯と2GHz帯しか割り当てられておらず、エリア展開に苦しみ、「つながらないソフトバンク」と、かなり酷評された時代があった。ケータイ時代も積極的な販売施策を打ち出し、契約数を伸ばしながらもエリアに対する評価には、かなり厳しいものがあった。

 当時、ソフトバンクは自社にプラチナバンドの割り当てがないことに対し、当時の孫正義 代表取締役社長(現在は創業者兼取締役)が会見の場などで、割り当てを求める発言をくり返していたが、2012年3月に900MHz帯が割り当てられている。

 ちなみに、ソフトバンクは同年12月に、2005年から第4の携帯電話事業者として、サービスを提供していたイー・アクセス(イー・モバイル)を買収したことで、同社に割り当てられていた1.7GHz帯の周波数帯域も取得し、現在も利用している。

1.7GHz帯に加え、プラチナバンドを求めた楽天モバイル

 今回、700MHz帯を新たに割り当てられることになった楽天モバイルは、2017年に携帯電話事業への参入を表明し、2018年4月に総務省から1.7GHz帯を割り当てられている。

 ただ、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社がすでに十分なエリアを展開し、シェアも確保している状況において、新規参入することについては、業界内から「1.7GHz帯のみを割り当てても勝ち目はない」などと言われていた。これに対し、当時の楽天モバイル首脳陣は、会見の質疑応答などで「1.7GHzのみでも十分、3社と戦っていける」と答えていた。

 しかし、実際にサービスを開始してみると、かなりエリア展開に苦しんだのも事実だ。2019年10月からの先行サービスに続き、2020年4月から正式サービスをスタートさせたものの、「無料サポータープログラム」や「1年間無料」の料金プランにひかれたユーザーもエリアの狭さを理由に、徐々に離れていってしまい、かつてのソフトバンクのときと同じように、「つながらない楽天モバイル」と言われることが増えてしまっていた。

 これに加え、2022年5月には料金プランの見直しが発表され、月々のデータ量が1GB以下のユーザーでも月額1078円が求められるようになり、一時的に解約が急増する事態を招いた。

 こうした状況に対し、楽天モバイルは他社とのイコールフッティングを求め、かつてのソフトバンクと同じようにプラチナバンドの割り当てを希望したが、プラチナバンドはすでに他社サービスや他の用途で利用されており、楽天モバイル参入時から「将来的にも楽天モバイルが利用できるプラチナバンドを捻出することは難しいだろう」と言われていた。

 ところが、楽天モバイルは主要3社が利用するプラチナバンドのうち、3Gサービス用に割り当てられている5MHz幅ずつを割譲させ、自社で利用したいという提案をして、業界内を驚かせた。

 プラチナバンドはすでにほとんどの帯域が割り当て済みであることがわかっていたうえでの参入であり、当時は「十分戦える」としていながら、他社の帯域を事実上、返納させて、その一部を利用するという提案は、これまでのモバイル業界では考えてこられなかった提案だった。

 これに対し、動いたのがNTTドコモで、昨年12月に700MHz帯の未使用分として、3MHz幅×2(上りと下り)が利用可能であることを明らかにして、総務省に提言した。

 3GPPでも「バンド28」として定義されているため、多くのスマートフォンで利用が可能で、当時、NTTドコモが示した試算では約1100万契約を収容でき、通信速度は受信時30Mbps、送信時11Mbpsが実現可能としていた。

事実上、楽天モバイルのための開設計画受付

 こうしてNTTドコモによって見つけ出された700MHz帯の3MHz幅×2の周波数帯域は、正式に4Gネットワーク用の帯域として利用されることになり、総務省は今年8月29日から9月29日まで、開設計画の認定申請を受け付けていた。

 ただ、この開設計画の比較審査基準には「いわゆるプラチナバンドの割当てを受けていないこと」といった項目があるなど、「かなり楽天モバイル寄りの基準ではないか」という指摘もあった。しかし、事を荒立てたくないのか、最終的には楽天モバイルのみが申請し、10月23日に無事に割り当てられることになった。

 割り当てられた内容などについては、本誌の速報記事や詳細記事で触れられているので、そちらを参照していただきたい。

割り当ての条件に注目が集まる

 今回の楽天モバイルへの新規割り当てについて、総務省はいくつかの条件を付与している。こうした条件の付与は他の携帯電話会社への割り当てでも見受けられるものだが、現在の楽天モバイル及び楽天グループの置かれている状況を踏まえ、注目を集めた項目もある。そのひとつが「(5)財務の健全性確保」の項目だ。

7 毎年度の四半期ごとに、財務的基礎に関する事項について、設定された計画の進捗(進捗の見直しを含む。)を示す書類を総務大臣に提出すること。
8 競争やマクロ経済の変動に伴う経営環境の変化が生じた場合においても、設備投資、混信防止対策及び安定的なサービス提供のために必要となる資金の確保その他財務の健全性の確保に努めること。

(5)財務の健全性確保

 これは言うまでもなく、楽天グループが楽天モバイルで携帯電話事業に参入して以来、設備投資などで赤字が続いていることが関係している。2022年度は3700億円超の赤字を記録しており、今年8月に発表された4~6月期の決算では、楽天モバイル単体でもまだ約800億円の赤字となっており、楽天グループ全体の財務基盤を不安視する声も少なくない。

 楽天グループとしても手をこまねいているわけではなく、グループ傘下の楽天銀行や楽天証券ホールディングスを相次いで上場させ、資金を調達しているが、今後、これまでに発行した社債の償還を控えており、2024年から約3000億円超、今後5年間で1兆円前後を償還する必要があるとされる。

 総務省は明確に不安視するような回答をしなかったが、当然のことながら、財務基盤にはしっかりと注視していきたい考えのようだ。

 今回の割り当てで、もうひとつ注目されたのが楽天モバイルが提出した開設計画の概要だ。なかでもサービス開始日が「令和8年3月頃」(2026年3月頃)と明記されており、決算会見などで「2023年末にはスタートさせたい」と語っていた計画に比べ、かなり後ろ倒しとなってしまった。

 この点について、総務省で囲み取材に応じた楽天モバイルの鈴木和洋代表取締役 共同CEOは、「計画書については、いろいろ慎重にした結果、少し保守的な形式で記載した。準備は進めているので、来年中にはサービスを開始できる」と答えている。

認定証を受け取った後、楽天モバイルの鈴木和洋代表取締役共同CEO(右)と矢澤俊介代表取締役社長(左)が報道陣の囲み取材に応じた

 また、楽天モバイルはKDDIとのローミング契約を見直したことで、すでにローミングエリアを含め、すでに99.9%のエリアをカバーしているが、今後、新たに割り当てられたプラチナバンドをKDDIのローミングエリアの解消に使っていくのか、あるいはトラフィックが多く、混雑するエリアに展開していくのかをたずねたところ、「今、技術陣のほうで検討中です。それぞれの特性を活かした最適化、ベストミックスを追求していきます」と答えており、現時点では明確な方針が示されなかった。

3MHz幅×2のプラチナバンドで黒字化の道は開けるか?

 2019年10月の先行サービス開始以来、約4年間が過ぎ、楽天モバイルはプラチナバンドを手にすることができた。前述の通り、当初はあまり重要視していなかったが、携帯電話サービスを展開していく中で、徐々にプラチナバンドの必要性を感じるようになり、NTTドコモがタイミングよく、3MHz幅×2の帯域を「アシスト」したこともあって、今回のプラチナバンド獲得に結びつけることができた。

 ただ、ここまでの流れを振り返ってみると、利用する周波数帯域の話題に限らず、楽天モバイルは今ひとつ施策が後手に回っている感が否めず、今回の割り当てによって、契約増から黒字化への道が開けるかどうかは未知数だ。

 一般メディアでは「プラチナバンドが割り当てられ、これで他の3社並みにつながりやすく……」といった報道も見られるが、割り当てられた周波数帯域を使うには、当然のことながら、新たに基地局などの設備を展開する必要がある。

 2019年にサービスを開始したときと違い、すでに1.7GHz帯の基地局を展開しているため、用地確保などの手間はある程度、軽減されるが、それでもアンテナなどの設備は新たに調達や設置が必要になるため、設備投資は増える。

 楽天モバイルが提出した開設計画では、10年間で544億円の設備投資をするとしているが、財務事情が厳しいと言われる中、順調に設備を調達して、効率良くエリアを展開できるかどうかが注目される。

 ちなみに、プラチナバンドという視点で見た場合、楽天モバイルのユーザーはすでにKDDIのローミングでプラチナバンドを利用しているが、開設計画で10年で人口カバー率が83.2%とされていることから、プラチナバンドでKDDIと同じレベルの自社エリアを拡げるのは、相当な時間がかかると見られる。

 また、700MHzは楽天モバイルにとって、これまでとは別の新しい周波数帯域であり、当然のことながら、電波の特性なども違ってくる。そのため、それぞれに適した基地局の配置が求められ、ネットワークの調整も必要になってくる。

 これらに加え、700MHz帯は他社と同じように、1.7GHzと組み合わせるキャリアアグリゲーションの利用が可能になるため、この部分も調整が必要になりそうだ。同社のネットワーク構築に携わるエンジニアは、他社での経験を持つ人も多いとされるが、利用する電波が一波と二波では大きく考え方が違うとも言われており、今後、技術陣の真価が問われることになる。

 さらに、今回割り当てられた700MHz帯は、4G LTE向けとしているが、楽天モバイルとしては今後、すでに割り当てられている5Gの周波数帯域を使い、エリアを順次、拡大していく必要がある。

 本誌でも記事で触れられているように、NTTドコモが5Gのエリア展開やアンカーバンドなどのネットワークの整備で苦しんでおり、各社共、4Gと5Gのエリアをどのように展開し、どのように整えていくのかなどの課題を抱えている。

 ユーザーとしては楽天モバイルのプラチナバンド割り当てを素直に歓迎したいが、ユーザーの利用状況によっては、別途、ネットワーク設備の調整やチューニングなども必要になってくるため、楽天モバイルがどのように取り組んでいくのかをしっかりと見極めていく必要がある。

 ちなみに、楽天モバイルの周波数帯域が追加されたことについて、ユーザー側の端末については、3GPPのバンド28に含まれているため、基本的に特別なアップデートなどの対応は必要ないとしている。もしかすると、一部の端末はキャリア設定の更新などが求められるかもしれないが、大きな変更はないと見ていいだろう。

 楽天モバイルに割り当てられた700MHz帯は、3MHz幅×2(上りと下り)だが、前述のように、他の主要3社には10MHz幅×2が割り当てられており、3分の1以下の帯域しかない。

 NTTドコモの試算では1100万契約を収容できるとしており、今のところ、500万契約を超えたばかりの楽天モバイルの実状を踏まえれば、当面は足りなくなることはなさそうだが、むしろ、足りなくなるくらいの契約を取得していかなければならない状況にあるわけで、こちらは営業やマーケティングなどの各部門の手腕が問われる。

 最後に、楽天モバイルに求めたいことは、ネットワークの状況をはじめ、施策やキャンペーンなどの情報をユーザーにしっかり伝える体制を整えていくことだろう。

 昨年の「0円廃止」以降、急速に契約数が減少したことに対応するため、今年に入ってから楽天グループ各社を巻き込んださまざまな施策打ち出しているが、やや矢継ぎ早な印象もあり、契約者や契約を検討している人たちに、きちんと伝わっているかどうかが疑問が残る状況にある。

 今回の割り当ての条件として、総務省は「財務状況などを総務大臣に報告せよ」という項目を挙げていたが、ユーザー側としては「販売施策やキャンペーンをしっかりとユーザーに伝えよ」というところだろうか。今後、楽天モバイルが割り当てられたプラチナバンドをどのように活かし、どのようにモバイルビジネスに取り組んでいくのか、ユーザーに何を提供してくれるのかをしっかりと見ていきたい。