石川温の「スマホ業界 Watch」

楽天モバイルの「スマホと衛星の直接通信」で光る三木谷氏の先見性、残る技術的な課題

 楽天モバイルは2月16日、衛星ベンチャー企業であるアメリカのAST SpaceMobile社とタッグを組み、スマートフォンと衛星の直接通信を2026年中に開始すると発表した。

 先行するスペースXとKDDIは2024年中にSMSからサービスを開始するとしているが、楽天モバイルではSMSだけでなく、音声通話やデータ通信サービスなどフルサービスを提供予定だ。

 現在、日本国内の4キャリア(携帯電話会社)は、地上にある基地局を使い、人口カバー率で99%以上を達成しているが、面積カバー率に置き換えると70%程度しかない。今後、衛星通信サービスが実現すると、残りの30%がカバーされ、ほぼ100%の面積で利用できるようになるという。

 すでに専用アンテナ向けに衛星通信サービスを提供してるスペースXでは5000以上の衛星を飛ばしてサービスを提供している。

三木谷氏

 三木谷浩史会長によれば「他社はパソコンのディスプレイ程度の大きさの衛星だが、ASTは25m×25mの衛星。次世代はその数倍の規模の衛星を予定している」という。

ASTの衛星には巨大なアンテナが搭載される

 ASTのアーベル・アヴェランCEOは「衛星90機でグローバルをカバーできる。5000機や4万機といった数が必要なシステムではない。これは衛星が大きく、特許技術によるところが大きい。まずは今年の第2四半期に5機、その後、4機、12機といったペースで打ち上げていく」という。

アヴェラン氏

 ASTが2026年にサービス開始と、ちょっと時間がかかる背景には、これから衛星を製造し、順次、飛ばしていくというスケジュールになっているからだ。さすがに、衛星が巨大と言うこともあり、いきなり数十機を製造するのは難しいようだ。

 ただ、アヴェラン氏が「グローバルで90機」と言っているのに対して、三木谷会長はかつて「55機あれば日本をカバーできる」と話していたので、90機でグローバル規模をカバーする前に、日本は早期にサービスを提供できる模様だ。

懐疑的見られていた発表時

 楽天モバイルが第4のキャリアとして新規参入した際、「将来的にはASTと組んで面積カバー率100%を目指す」と発表したときには「三木谷さん、大丈夫かな」と思ったものだ。

2020年3月の発表時

 当時、スマートフォンと衛星が直接通信できるなんて、通信業界の誰もが半信半疑で捉えていた。低軌道衛星は地上から600kmのところを飛んでいる。そもそも「スマートフォンの電波がそこまで届くのか」という点において、疑問の声を上げる業界関係者が数多くいたのだ。

 かつて、三木谷会長に取材する機会を得たのだが、その時は「ASTに最初に金を出したのはオレだから」と協調していたのが印象的だった。

 「三木谷さん、騙されちゃったのかな」と心配していたら、すでに衛星通信サービスで実績のあるスペースXがT-Mobileと組んでスマートフォンと衛星の直接通信サービスを提供すると発表。

 アップル・iPhoneもSOSメッセージと限定的な利用ながらも衛星との直接通信サービスをすでに提供済みだ。

 ASTに関しては、AT&Tやボーダフォンといった世界を代表するキャリアだけでなく、最近ではグーグルも戦略的パートナーとして出資するようになった。当然、将来的にAndroidがプラットフォームとしてASTに対応するとなれば、世界中のスマートフォンで利用できるようになる。

 さらにテレフォニやTIM、テレストラなど40以上のキャリアがASTのパートナーになるなど、世界的に期待値が上がっている。

 衛星通信は、衛星が地球をひたすら回り続けてサービスを提供している。経営を安定させるには、世界中でサービスを提供する相手がいるのが望ましい。その点において、ASTは世界40以上のキャリアを集めたという点において、安定経営できる土壌が整ったとも言える。

 まさに三木谷会長に先見の明があったと言えそうだ。

 ただ、個人的に気になっていたのが、衛星がどのように世界各国で通信サービスを提供するのかという点だ。

 スマートフォンと衛星の直接通信の場合、ひとつの周波数だけで運用しようと思えば、それぞれの国ですでに使っている周波数帯が存在すれば、干渉が起きてしまい、使い物にならなくなってしまう。

 世界各国、それぞれのキャリアに向けて安定的に運用しようと思えば、国や地域にあわせて、別々の周波数帯を衛星から飛ばす必要があるだろう。

 ただ、衛星は時速2.7万km、90分で地球を1周するほど早く回っている。そんな運用が可能なのか。

 技術的な疑問をアヴェラン氏にぶつけたところ「衛星は動きながら通信事業者ごとに周波数を切り替えていく。セルごと、国ごとに切り替えることが可能だ。通信事業者はどの場所でASTの衛星による通信を行うか、設定することができる。地上に基地局設置が難しい場所やコスト面で採算が取れないところを衛星でカバーすることできる」と語った。

 とはいえ、楽天モバイルが現在、使用している1.7GHz帯を600km上空から降らせるとなると、やはり干渉が起きてしまうのではないかという気がしている。

 いっそのこと、全然違う周波数を空から振らせるほうが干渉を避けるという点においては現実的ではないか。楽天モバイルには東名阪以外で利用できる1.7GHz帯があるので、それを活用するのか。

 サービス開始は2026年だが「衛星と地上局との干渉」という技術的なハードルをどのように越えるのか、今後の展開がとても興味深い。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。